綺麗だね
学校を出て、あのいつものレンガ作りの道に来たらやっと手を離してもらえた。
「ぷはぁ…。なにするのよ!」
静夜を睨む。
「ごめんね、ちょっと目を閉じてて」
静夜はそう言って、私の目を隠した。
「えっ、ちょっ、ちょっと」
一瞬、風が起きた気がした。
「いいよ」
静夜はそう言って、手を私の目から離した。
「え…。なんで?」
まず、目に入ったのはブランコ。
周りを見渡すと、あの公園であることが判明した。
私たちがいたところからここまでは、少なくとも一瞬で来れるところではない。
驚いているといつの間にか静夜はブランコに座っていた。
「どうやって…どうやってここまで…」
「そんなことよりさ、なんであんなこと言ったの?」
言葉を遮られた。
「あんな嘘まみれの友達なんて壊してやろうと思って」
「嘘まみれ?嘘なんて言ってなくない?」
「言ってたじゃん。悪口言わない、とかさ」
言わないとか言ってさ、言ってたじゃん。
あんなのからいじめが始まるのよ。
「あれは、悪口に入るのか?だって、あの後に言ってた言葉、小春もきいだだろう?」
「聞いたけど?それがなに?」
「小春は、あれを聞いて、冗談半分ってことがわからなかったのか?」
「わかるはすない。まず、あれが冗談半分だなんて誰が決めたのよ。わからないじゃない。なんで静夜がそんなこと言えるのよ」
「誰が聞いたってそう思うよ。笑いながら話してたし。小春は、それを認めたくないだけ」
ちがう。
「信じるって言葉に過剰反応するのはどうして?」
「別に!過剰反応してなんか!」
わかってる。それぐらい。信じると言う言葉に反応してしまうことを。自分のことだから、それぐらい…
『きゃはははっ!この男、的を射てるね!』
また来た…!もう、私の中にいるのやめてよ…。
『あんたの中に居座って欲しくないって?何言ってんの?私はずっといるわよ?きゃはははっ!』
なんなのよ。やめてよ!
『無駄よー?あんたが苦しむ顔がみたいものー♪』
この、性格ブス。卑劣な。
『はいはい。ねぇ、あんたと私はライオンとハエなの』
どういう意味よ。
「…る?…はる?」
『自分より弱すぎるから、ライオンはハエを振り払わない。つまり、あんたの言葉なんて何の効果もないのよ!』
誰か…誰か…。
「小春‼︎」
気がつくと、静夜が私の肩をつかんでいた。
「静夜…」
静夜の髪で隠れて見えない目を見る。
静夜はちゃんと見えてるのかな…。
ははっ…こんな時になに考えてるんだろう。
「ごめん、小春」
静夜はそう言って抱きしめた。
「な、なにして…。てゆーかなんで、静夜が謝るの…」
静夜はさらに抱きしめる力を強め、「ここじゃあ、力が使えないから移動するね」
「え…?」
そう言った静夜はまた私の目を塞いだ。
風が起きた気がした。
さっきと似てる…。けど、ちがう。今度の風は、長い。
何が起きてるのかわからないから目を開けてみても、静夜の手しか見えない。
突如、浮くような感覚に陥った。
全身に鳥肌が立ち、思わず静夜にしがみつく。
「ね、ねぇ、なにが…」
「もう少しだから、待ってて」
1分ほどそうしていると風が少し止んだ。
足が地面に着く感覚がする。
どこかにたどり着いたようだ。
「いいよ…」
静夜の手がそっと離れる。
「うわぁぁあ」
そこには、広い広い草原が広がっていた。柔らかい緑の色をした植物が暖かい日差しを浴び、咲き誇っていた。果てしないこの草原にポツンとたった一つ、建物が立っている。赤茶色をした建物で、日本のお城のような形をしている。その壁には日々が入り、蔦がところせましと這っていた。ボロボロに思えるのに、それを感じさせない貫禄がある。
でも、またなんでこんなところに一瞬で…。
「ねぇ、どうやってここに……ってえぇ?!」
静夜の方を見ると、静夜の頭に耳が…。しっぽが…。え?
静夜の頭によく見る猫耳よりも大きめの猫耳が着いており、髪の毛と同じ、黒色をしている。しっぽもすごく大きく、二股に分かれている。しっぽも同じように黒い。
あ、夢か、そっかぁ。夢だからかぁ。
「つまんでみる?ほっぺた」
静夜が私のほっぺをツンツンする。
「うん、してみて…」
つねっ。
「痛い…」
夢じゃない…。
「ていうか、今私の心の中読まなかった?」
「え?うん」
うんって…。
「ねぇ、この姿みてどうも思わないの?」
「思わないわけなくない?」
そう言うと、しゅんとしたように猫耳が垂れた。
「だって、目をつぶってたらこんなところに移動してるし、静夜を見たらなんか生えてるし…。でも、すごく綺麗だね、その姿」
静夜の耳がぴんっとたった。
「綺麗…?」
「うん、ツヤツヤしてて」
すごく綺麗だと思った。光に反射して七色に光ってる。まるで、初めに感じた静夜の雰囲気の色である。
「すごく、綺麗だね」
いつの間にか、静夜の髪に手を伸ばしていた。