信じる?
あの青年にあってから、4日が経った。
いつも通り、愛月と過ごす昼休み。
愛月は最近、失恋したらしい。先輩の大会の後告白したらしいが玉砕。
「なんでよ、なんでなのよぉ!あの優しさはなんだったのよ!この、クズ男め!」
仮にも好きだった人にそこまで言うとはどうなのだろうか。
「もーいいわ!あたしには小春がいるもんね!ねー!小春!」
即答できなかった。あなたもその言葉の裏になにかを隠しているのかな?あたしには小春がいる?嘘でしょ?私がそこにいたからでしょ?ちょうど使えるやつだったからじゃないの?そう言って裏切るんでしょ?
「…うん」
その間が不服だったのか愛月は眉間にシワを寄せた。
「あたし、小春の考えてることがわからない。私のこと友達だと思ってないでしょ」
「そんなことないよ」
「うそ!小春って自分から何も言ってくれないよね!あたし、小春のこと何も知らない!教えてって言ってもはぐらかすし!小春はあたしのこと信じてないんでしょ!」
机をばんっと叩いて、愛月は言った。
したを向いていた目線を愛月に合わせて言った。
私の本音を。
「信じる?信じるって、何?」
数秒、間が空いた。
愛月は無言で去ろうとした。去り際に、
「もう、知らない」
と言って。
教室にいた、数人がひそひそと話し始めた。
「なにあれ?けんか?」
「てか、信じるってなにってあいつら友達じゃなかったのかよ」
避難を受けるのは私だろうな。
またか。
またか。
所詮それだけの関係。
ずきんっ。
⁇
なんだろう。これ。
変な気分。
なんだろう。
なんだろう。
『きゃはははっ!見放されてる!バカみたい!ざまぁみろ!』
うるさい。
またお前か。
しゃべんな。
『しゃべんな?誰れに向かって言ってんの?このグズが!』
うるさい。
「うるさい」
放課後。
なにもしたくない。
なぜこうなったのか。
いや、どうせ人間はこうなんだ。
『またおいで、小春…』
ふと、青年の声が頭に響いた。
あの公園に行きたいな。
あの青年に会いたいな。
レンガ造りの道を進んで行く。
どこだったっけ?
視線を感じたところだったから、あまり覚えてない。
「確か…ここ?」
『違う。もう一つ先だ』
頭に声が響く。
「だれ?」
周りを見渡しても誰もいない。
しかし、この声、聞き覚えが…。
まぁ、いってみよう。
もう少し歩くと人一人入れるかどうかわからない道があった。
そうだ、ここだ。
この道を進んでゆく。
早く行きたい。
早く。
ついた。
「きゃあ!」
いつの間にか走り出して、つまづいてしまった。
「待ってたよ」
上から声がした。
誰かに支えられてたのは分かったのだが、あの青年だったのか。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
青年の口元が微かに緩んだ。
「あの、質問が」
「座らない?」
青年はブランコを指差した。
頷き、ブランコに腰掛ける。
「あの、それで聞きたいことがあって」
聞きたいこと?そんな理由できたんだっけ?まぁ、いいか。
「ん?」
「誰なんですか?」
沈黙があった。
しまった、前に一回あったといえど、ほとんど初対面の人に。なんてことを。
「名前のこと?」
「そ、そーです。名前を聞きたくて」
助かった。
「静夜。潤雅静夜。よろしくね、小春」
あれ?
「あの、私の名前…」
教えただろうか?
「小春じゃないの?」
静夜が不思議そうに聞く。
「いや、その教えたかなって思って…」
「え?だって、それ」
そう言って静夜が指差したところには私のカバンからはみ出た教科書。
そこには『折出小春』と書いてあった。
「……」
恥ずかしい…。
「んんっ!あの、潤雅さんはいくつなんですか?」
せきばらいをし、話題を変える。
「静夜」
「え?」
「静夜でいいよ」
いきなりなんだと思った。この人は人の話を遮るのが好きなのだろうか?
「静夜さんはいくつなんですか?」
静夜は満足したように口元をすこし緩めた。
「小春と一緒だよ」
は?いやいや、それはない。どうみても20歳前後だろう。
「いや、嘘はいいです」
「いや、本当」
「私、そういう冗談嫌いです」
「冗談じゃないよ」
「………え?本当に?」
「うん」
めっちゃ信用できない。
人を信用しない私でも、ここまで信用できないのは初めてかもしれない。
「小春」
「はい?」
「今日はなんでここに来たんだろうね」
なんで?
それは…
「信じるってなんだと思いますか」
静夜はしばらく考えるようにして、答えた。
「それは、自分で見つけないとね」
なんだ、答えがわからなかったから丸投げしたのか。
「なにがあったの?」
「別に」
「そう」
聞いたのに深くまで聞いてこないんだな。
なんか、ここは居心地がいいな。でも帰らなきゃ。
「私、そろそろ帰るよ。ありがとう」
ブランコから立ち上がる。
静夜は小さくてを振った。
「うん、またおいで、小春…」