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ドッキリ(1)

お待たせしました。

再び、視点がロキニウス君に移ります。

教官としての瞳子視点と、生徒側のロキニウス視点を交互に、この士官学校に居る間は続きます。

本日全ての授業が終了し、黒森女史が言った通りに、放課後彼女の部屋に行くことにした。

ジョンとジルと合流し、一旦職員室に寄ってグリングに一言言っておく。

多分寮への帰りが遅くなるような気がするからだ。


「失礼します!グリング教官殿はいらっしゃいますか!」

「おぅ、こっちだ」


ガラリと扉を開け、教官達が自分の机に向かって作業しているのを確認してから、隅の方まで聞こえるように大きめの声量で言う。

ここで声が小さいと、他の教官達から声が小さいと拳骨を食らう羽目になる。

なんて理不尽なんだろうと、何時も思う。


俺の声が聞こえたのか、入り口から少し離れた所から、ゴツい手がヒラヒラと挙がる。


「来たか、そろそろ来る頃かと思っていたところだ。お前ら黒森先生の所へ行って来るんだろ?」

「はい、そうです。寮へ戻るのが遅くなると思ったので、先に報告しに来ました」

「そいつは殊勝な心掛けだな……行ってくるのは良いが、どこの部屋だか知っているのか?」


そう言えば知らなかったな…

知らないで行こうとするとは、どれだけ黒森女史に会いたいんだ俺は…


「…その顔じゃあ知らないんだな。少し待ってな、今御上に聞いてきてやるからよ」


そう言うとグリングは立ち上がり、学校長が仕事をしている机まで聞きに行った。

普段取らない、グリングの意外な行動に面を食らった俺達は、戻ったグリングに怪訝な顔をされるまで内緒話に勤しんだ。


「何やってんだお前ら…、学校長先生は知っていらした様だから、紙に一筆書いて下さった。これを門番に見せるようにとも仰っていたぞ」


差し出されたのは、しっかりと蝋封された手紙だった。

その蝋には、この士官学校の紋章がはっきりと刻まれている。

これで、この手紙が出所の確かな物になったと言うことだ。

この蝋封には魔法が掛かっており、探査系の魔法をかざすと発光して、封印した人物の顔が浮かび上がって来る。

一回開けてしまった物や、偽物の場合はこれが反応しないので、すぐに分かるようになっているのだ。


手紙をグリングから受け取ると、ふと疑問が口から出てしまう。


「門番…ですか?」

「ん?あぁ、どうやら門番が立っているような場所に住んでいるらしいな。詳しくは知らんが」

「そう…ですか。有り難くあります」

「おう、さっさと行って帰ってこいよ。それとどうやら黒森先生が手配した馬車が待機しているらしいから、急いで校門に行ってみろ」

「了解しました」


一礼して職員室を出ると、外で待っていたジョンとジルが近付いてくる。

でも今はそれどころじゃない。


おいおいおい…一体どうなっているんだ!

住まいは教官寮じゃなく門番が居るような家、その門番に学校長が直々に一筆をしたため、黒森女史はたかだか俺達三人を呼び出すだけで馬車を手配しているなんて…

本当に黒森女史は何者なんだ!?

くそっ、下手な事件に巻き込まれなければ良いが…

そうなった時は、何が何でもジルは護らなくては、俺が親父さんに殺される!


「どうしたよロキニウス。そんな冷や汗掻いて」

「ロッ君顔色悪いよ?」

「ぁ、ああ。俺は大丈夫だ…問題ない。それよりも、黒森女史が手配した馬車が待っているみたいなんだ」

「馬車?」


ジョンが首を傾げる。

まぁ、おおむねこの反応は予想の範疇だ。

俺だって、急にそんな事を言われたって同じ事をするだろう。


「クロちゃんは教官寮に住んでないの?」

「みたいだな。詳しくは馬車の中で話そう…さすがに待たせ続けるのは不味い気がする」

「そうと決まったら急ごうぜ!」





この時はもう、俺達は引き返す事が出来ない所まで来ていた。

黒森女史が来た時点で、俺達は手遅れだったのかも知れない。




「お待ちしておりました。ジルコニア=フェン=ゴーエンバッハ様、ジョン=マクカーレン様、ロキニウス様で御座いますね」

「は、はい。そうです」

「かの御方より、貴殿方をお連れするようにとの命を承りました。レンドルフと申します。ささ、こちらに御乗車下さい」


校門に着いた俺達は、レンドルフと名乗る吊り目の御者に話し掛けられ、黒塗りの馬車に乗せられた。

レンドルフは、黒い執事服を来ていて片眼鏡という出で立ちで、黒い服に彼の金髪は映えて見える。

だが、どうも彼の名前に引っ掛かるものを感じたが、それが何だが分からなかった。


レンドルフが御者台につき、馬車に繋がれた四頭の馬に鞭を打つ。

パンッと小気味の良い音がして、馬が嘶きゆっくりと馬車が動き出す。


「なぁ、レンドルフってどっかで聞いた事ないか?」

「…ジョン、お前もか」

「ロッ君も?えへへへ~、考えてる事一緒だね~」

「お前と同じ思考能力なんてお断りだ」

「なんで!?」

「俺は忘れてはいけない事を忘れているような気がしてならないんだ」

「やっぱり?なんだったっけなぁ」

「ねぇ、ロッ君ロッ君!私の事は無視なの?無視しちゃうの!?」

「なんだよジル」

「分かったんだよ!レンドルフって人の名前」

「「なんだって!?」」


まさか、天才となんちゃらは紙一重と言う言葉の通り、三周半してアホの子なジルから、そんな言葉が聞けるとは思わなかった。

俺、非常にびっくり!


「誰だ?」

「この国の宰相様と同じ名前だよ?」


また、俺達は顔を見合わせる羽目になった。

確かに、顔こそ見たことは無いが名前は子供だって知っている。

賢王フンメルと賢人レンドルフ、二人が最初に出会ったのはお互いが敵同士の戦場で、まだフンメル王が二十歳で一傭兵だった頃だとか。

この国では有名な話で、子供に聞かせる叙情詩になっていたり吟遊詩人がよく編曲して歌ったりもされている。

それくらい有名な名前なのに、どうしてすぐに分からなかったのだろうか。

まぁ、まだ同名の別人の線が有力だが…


「いやいやいや、別人だよなぁ」

「う~ん、小さい時に遠くからしか見た事ないから覚えてないなぁ」

「別人だろ、俺達みたいな一学生なんかの御者を一国の宰相がするわけないだろが」

「でもでも!私はちゃんと礼儀正しくした方が良いと思うんだよ!!」

「まぁ、意外に評価されていたりな」


世の中何が起きるか分からないから恐ろしい。

どうなるんだろうか…


「なぁ、だんだん都市部に入ってないか?」

「…マジか。本当だ」

「あれ?あんな所でパパが買い物してる」


窓から外を見ていたジルが、八百屋を指差す。

横から見ると、確かに親父さんが八百屋のおばちゃんと値切り競争していた。

おもむろに窓を下げたジルは、大声で親父さんを呼びながら手を振る。


「パパー!元気ーっ!!」


その声にキョトンとして振り向いた親父さんこと子爵殿は、ジルを見て笑顔になったがすぐにギョッとした顔をして、こう叫んだ。


「何故お前達がその馬車に乗ってるんだーっ!?」


親父さんはそのまま過ぎ去ってしまった。

あの反応は絶対に尋常ではない。

この馬車は普通ではないと言うことだ。


「ややややっぱりヤバイんじゃないか!?」

「おお落ち着け」

「ロッ君も落ち着かなきゃ」

「なんでジルはそんなに平然としていられるんだ?」

「それは、将来ロッ君のお嫁さんになるんだも「寝言は寝てから」寝言じゃないもん!」

「……もうお前らの夫婦漫才は見飽きたぜ。いっそ結婚しちまえバカ野郎。あれか?連続三十人にフラれ続けている俺への当て付けか?その喧嘩、買った!!」

「お、落ち着くんだジョン。話せばわかる」

「そうだよジョン君!ロッ君は未来の旦那様なんだからね!」

「話をややこしくするなぁぁぁ!?」

「ロキニウス、お前は俺を怒らせた…殺す!」


ドッタンバッタンと馬車が揺れ、街の人は何事かとその馬車を見送る。

滅茶苦茶に跳ねる馬車を操る御者も凄いのだが、本当に凄いのは本人達は知らぬとは言え、王家の紋章が入った馬車で暴れる事が出来る三人なのかもしれない。


「やれやれ、最近の若者は元気ですねぇ…私もそのくらい元気であれば、妻を喜ばせるのですが(物理)。しかし、あの御方も面白い事を考えなさる…久々の悪戯は成功しそうです」


自虐的に苦笑してボソボソっと呟いた言葉は、馬車の走行音に掻き消され、誰にも聞こえる事は無かった。




「おい、ジョン。なんか更に不味い所に近付いてないか?」

「あぁん?なんだテメェ……って、あれ王城じゃね?」

「王城だねぇ。おっきいねぇ。ロッ君」

「な、なんだよ」

「私達の家もあのくらい大きくしよ?」


くっ、潤んだ眼で上目遣いなんて…卑怯過ぎるっ!


「し、知らん!」

「子供は十人位欲しいね!」

「聞こえない聞こえない。俺は知らない何も聞いていない。俺は無実だ」

「お前は有罪だ」

「そうそう、俺は有罪…って!」

「聞こえてるじゃねぇかよ」


ダメだ、ジルを直視出来ない…そんな危険をおかせないぞ。

ジルは立派な爵位持ちのお嬢様で、次期当主。

俺は名字も無いような、最下層の平民だ。

吊り合う筈がないのだ。

世の中はそう甘くない。

だから、わざとこう言う時に冷たく当たるのだが、何故かジルは更に詰め寄ってくる。

昔雑誌で呼んだのだが、これは効果を疑うな。


「ほら、そんな事より今は王城に向かっている事を考えよう」

「そ、そうだな」

「なるようになるよ。きっと」

「…余裕だなぁ」


ヘラヘラしているジルを見ていると、確かに緊張はなくなるが、逆に怒りが沸いてくる何故だろうか。


そうこうしている間に、ついに城門の前にまで来てしまった。

そして、なんの誰何も無く開門している城門を潜り抜け、そのまま正面玄関で止まる。

レンドルフと名乗った御者は回り込み、ドアを開けてくれた。


「到着致しました。どうぞこちらに」


馬車から降り、玄関を潜るとズラリとメイドが並んでおり、一斉に頭を下げた。

その一手挙動は俺達のパレード行進よりも揃っていて、背筋や腰の折る角度まで緻密に計算されており、ちょうど絨毯で出来た道の真ん中に居る俺達にそのたわわな山脈の谷間が見えるようになっている。

けしからん、実にけしからん。

なんて所に黒森女史は住んでいるんだ!

是非ともメイドさん達と一緒に夜のパレードをしたい。


既にジョンの視線はメイドさんに釘付けになっている。


コホンと咳払いが聞こえ、振り向くとジト目のジルと並んだレンドルフ(仮)が苦笑していた。

それから並んでいるメイドさん達に目配せすると、行列の中から三人のメイドさん達が歩み出て、俺達に向かって一礼をする。

慌てそれにお辞儀で返した。

隣でプッと小さく吹き出す音がして、レンドルフ(仮)さんを見たら顔ごと背けている。

いま絶対に吹き出したのはコイツだな…


「この度お部屋までご案内させて頂きます、レギナと申しますわ」

「セレスです」

「ルキナと申します」


そう挨拶してきた三人のメイドさんに視線を戻すと、その美しさに眼を奪われた。

一言で言い表すなら、凄い美人。まるで何処かの大貴族の令嬢や姫君と言っても納得してしまいそうな程だ。

だが、どこぞのバカのように気安くナンパを仕掛けられない雰囲気を纏っている。

そう、とても高貴で気高く、ジルや我々なんか到底醸し出す事さえも不可能な、そのような雰囲気。

…飲まれそうだ。


「あのぅ、自分ジョン=マクカーレンと言います。是非宜しければ、今度四人でお茶しませんか?」


バカは早速ナンパにかかっていた…なんてぶれない奴…


「クスッ…面白い方。考えておきますわ」


なんか成功してるっぽい。

どうなっているんだ?


「よっし!」


身体全身で喜びを表しているジョンを一発殴って正気に戻し、メイドさんに案内してもらう。


「あ、あの…黒森女史は、王家の方々と何か関わりがあるんでしょうか」


長い廊下を会話無しに歩くのは、精神的に辛い物を感じたので、話を振ってみる。

これで、何か情報が釣れれば御の字だ。


「あら?…何も聞かされていないのですか?」


ちろりとレギナさんがレンドルフ(仮)さんの顔を見ると、全力で首を横に回す。

どれだけ顔を見られたくないんだ?


「そうですか、ではご本人にお聞きした方がよろしいですわ」

『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ

このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!

正解しても何も無いけどね。

それでは行きます!


『椪柑』


これはなんと読むのでしょうか!

出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。

そして、前回の答えの発表です!


『海松』と書きまして、『みる』と読みます。

みるとは、ミル科の緑藻で、波の静か海底に生え、平安時代には食用や観賞用に用いられたようです。』

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