我、救出作戦ヲ開始セリ(1)
「やぁ、暗黒院君」
ギルドに一歩踏み入って最初に聴いた雑音が、それだった。
取り敢えず、一歩戻ってギルドから出て背を向ける。
「エンガチョ!エンガチョ!」
「遅かったじゃないかぁ。待ちくたびれてしまったよ。…何をしているんだい?早く入りたまえよ」
なんとギルドの中に居たのは、王都の冒険者ギルドのギルマスと言う名のガキンチョだった。
あの尊大な口調とノンナさんの尻に敷かれていた、あのギルマスだ。
「なんでギルマスがここにいるんだぉ……」
どうやって私よりも先に(だと思われる)、この国に入ったのかが疑問過ぎる……
私と朱点みたく、崖を登って来たとも思えんし。
「いやぁ、ギルドにはお互いを行き来するために、転移陣と言うのが有ってだね……」
「……な、ななな…なにぃぃいいいぃいぃいいいぃぃぃッッ!?!!」
あ、足から力が抜けて…
「私の苦労って一体……」
「転移陣は、ギルド職員でしか使えない規則になっているから、どの道暗黒院君は使えんよ」
くっ、なんたる屈辱!!
謝罪と賠償を要求するニ…すいません。
「もういいよ、今日は依頼を物色しに来たんだし、別にギルマスなんて捨て置けば」
後ろの方で、何やらギルマスが喚き散らしているのが聞こえるが、取り敢えず無視を決め込む。
関わったら負けだと思われ。
「ふむふむ、めぼしい依頼はっと……」
クエストボードに貼り付けられている紙を物色する。
〈行方不明になったペットを捜して!〉【ストーンランク】
報酬 公用銀貨二枚
【詳細は依頼主に聞くこと】
〈月花草の採取〉【ブロンズランク】
報酬 公用銀貨八枚
【五株程、根っこごと採取する事】
〈夫の浮気を調査して〉【ブロンズランク】
報酬 公用銀貨五枚
【必ず依頼人の元に行くこと】
〈娘を助けて下さい!〉【シルバーランク以上パーティー推奨】
報酬 公用銀貨十枚
【ガイシャはゲルン盗賊団に拉致された模様、盗賊を討伐した際の懸賞金は有効生死問わず】
「よし、おにゃのこだと聞いて…殺るしか無いでしょ。主に盗賊羨ましい」
まぁ、シルバーランク以上で、報酬が銀貨十枚だったら、物好き以外やらんでしょ普通。
家が貧しいのかな?
まぁ、盗賊ぶっ殺したらお金貰えるみたいだし、一丁やったりましょう!
早速、娘を助けて!の紙を引っ剥がし、ちょっと可愛い女性職員の窓口に出す。
「こんにちは、ギルドカードの提示をお願いします」
「あ、はい」
言われた通りにアイテムボックスからギルドカードを取り出して、金キラ金に輝くカードを手渡す。
お姉さんには、急に出てきた様にしか見えなかった筈。まぁ、その通りなんだけどね!
一瞬ギョッとしたが、直ぐに営業スマイルに戻ってギルドカードを返してきた。
「ありがとうございます。確認が取れました。申し訳ありませんが、このクエストは緊急クエストなので、直ぐ出て頂く事になりますが、よろしいですか?」
返事をしようとしたら、小躍りしながらギルマスがやってきて、女性職員の脇から依頼書を覗き込んでは、ニヤニヤしてやがる。
「おや、早速キワモノ依頼を選んだようだね。さすが救国の英雄は一味違うな!よし、もし盗賊団を全滅させたら、君を【プラチナランク】に昇格しよう!」
「ガキンチョはだまらっしゃいっ!昇格はするけどねっ!…あっ、お姉さんこっちは今からでも平気ですんで」
「は、はぁ……で、ではクエストを承認しました。こちらが詳細書になります。お気を付けて」
最後までニヤニヤしていたギルマスを一瞥してから外に出ると、建物の外でエーリカんが待っていた。
何故か街の女の子に囲まれて…なんとやるせない私……
まぁ、確かに男勝りだし綺麗だもんなぁ。
所詮私は喪女ですよっ!?
悪かったな!!
冷や汗を掻きながら、女子軍団に迫られて何やら話していたエーリカんは、私が出てきたのを見て、『我勝てり』と言った表情をした。
女子軍団は、その表情の変化を見逃さず、ギンッと音がしそうな視線殺人ビームを一斉に飛ばしてきた。
ひぃぃぃいいいぃいい!?
私が何をしたって言うのさっ!?
「伯母上!」
「お、おう」
殺人ビームが、今度は一斉に疑問ビームに変わった。
そんな眼で見ないでぇぇぇ。
『伯母上、助かった……一人では大変でしたので』
『そ、そっかぁ。あ、今から緊クエ行くけど、どうする?』
『取り敢えずご一緒します』
「あの、エーリカ様…」
我々がひそひそ話をしていると、エーリカんのファン筆頭と思われる、縦ロールのマリーアントワネットが口を挟んで来た。
す、すげぇ…初めて縦ロールなんて見たぉ…
格好もドレス然とした防寒着だし。
「そちらの方は…どの様なご関係で?」
「あ、あぁ。私の伯母上ですマリー殿」
名前もマリーかよっ!?
処刑されそうな女の子だなをぃ!!
まぁ、あの有名な台詞を吐いたのは違う貴族だったみたいだけど、ちょっと言ってもらいたいなぁ。
「伯母上様…そうでしたの。てっきり私ったら勘違いをしていましたわ」
私をなんだと思ったんだぉ……
まぁ、素顔なんかも隠してるからなぁ。
「エーリカん、緊急クエストなんだ。急がないと…人命が懸かってるんだぉ」
「人命が…?分かりました。マリー殿、申し訳ありませんがこれにて…」
「えぇ、仕方ありませんわね。エーリカ様の武運長久をお祈り致しますわ」
……私にはお祈り無いんですね。
キャピキャピと追っかけがうるさい。
もう私の中じゃあ、コイツらヴィッチ決定だかんね!!
『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ
このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!
正解しても何も無いけどね。
それでは行きます!
『黙』
これはなんと読むのでしょうか!
出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。
そして、前回の答えの発表です!
『禿』と書きまして、『かぶろ』と読みます。
かぶろとは、遊郭において上位の遊女につく12~14歳くらいの見習いの女の子です。名前の由来はその髪型から来ているようです。』




