侵攻(2)
そろそろ、第二章が終わる予定です。
多分、現場指揮官や士官の連中は夜営の真ん中の方にいるはずなので、リスクは高いけれども深くまで侵入する。
何だか大人数で、某有名潜入ゲームをやってるみたいで、ドキドキする。
まぁ、みんなには気付かれないように魔法を使っているので、ちょっとやそっとでは寝てる連中は起きないはず。
だけど、唯一の懸念はフンメルこと雄輔と、雄輔の子供らしい黄緑騎士なんだよねぇ。
まず、あの二人に効くかどうか…雄輔は効かないと思うけど、その遺伝子を引き継いでる黄緑騎士も効かなそう。
そんなこんなで、先頭を率先して進む。
暫く静かに殺戮しながら進んでいると、明らかに質感が違う天幕が張られているエリアに出た。
どうやら、現場指揮官である下士官や、士官連中の寝床に出たようだ。
「やれ」と手信号で大隊長に指示を送ると、二人はしっかりと頷いて次々と手信号で部下に命令を送って行った。
前以て命令は伝えてあるので、見るからに偉そうなヤツは殺されないはず…はず。
蜘蛛の子を散らす様に、一斉に兵士達が天幕に向かって走り出した。
でも、足音を立てない様に気を配っているようで、魔法使い達も含めてヒョコヒョコ走っているので、実に滑稽だ。
暫くすると、数人の兵士達が取っ替え引っ替えに高級士官に見える連中を簀巻きにして連れてきた。
口には猿ぐつわを噛まされていて、怯えた目をしながら頻りに唸っていた。
これまた「連れて行け」と手信号で合図して、塹壕の近くに隠してある輸送部隊の荷車に、連れて行くように指示した。
捕虜達は三人係で連行されて行った。
全体で九十万人もいるので、士官連中も数がおかしい事になっている。
さすがに、士官全員を始末している暇は無いので、適当にそこら辺にいるヤツらだけに絞っておいて、狙うは高級士官の拉致と、将軍や諸王の誘拐、そして大王に対しての脅迫をする。
まぁ、明日もやる予定だから、今日は適当に勘弁しといてやる。
でも、出来るだけ将軍とかは拉致る。
フヒヒヒ…身代金でガッポガッポ…そのお金でハーレムに一歩前進…ふぅっはっはっはっはっはっはっはっはぁっ!!
「…………………………………………………!!」
え?声を出すかと思ったって?
部下に喋るなって言った本人が、大声で笑うわけ無いじゃ無いですかぁ。
士官天幕ゾーンはこの辺にして、取り敢えず先に進む。
勿論、進行方向にある天幕は仕方無いよねぇ。
本当にど真ん中に、将軍の天幕と諸王の天幕。
そしてそれらの中心に、大王の大天幕。
使っている素材は、誰が見ても一流品だと分かる。
「(良いか?大王の天幕には近付くな。あとフンメル諸王のもだ。それ以外なら問題無い。片っ端からかっ拐え)」
声を極限まで潜めて、大隊長に命令する。
あとは勝手にやってくれるので、私は雄輔の天幕を探す事にした。
惨敗を喫したから、かなり端っこに追いやられているはず……
あったあった。
一つだけ入り口が外向きで、本当に隅っこに追いやられてて、入り口の前に件の黄緑騎士が立っている天幕が…
なんかだいぶハブられてるなぁ。
やっぱり、黄緑騎士には効いて無かったか。
上手い具合に入り口が外向きで良かったぉ。
コイツに見付かってたら計画がオジャンになってたからねぇ…それにしても、何処から入ろうか。
入り口から真後ろのところの布を件の短剣で切り裂き、内部に侵入する。が…
「…あ」
「…え?」
天幕のど真ん中で胡座を掻いてお酒を飲んでいた雄輔と、目が合った。
お目々とお目々がごっつんこした。
「雄輔」
「…誰だぁ?…なんだ、ねぇちゃんか」
「なんだとはなんだ」
「見ての通りさ、主要な部下をかなり失って、軍は壊乱…逃げた連中は続々と帰っては来ているが、これじゃあ烏合の集となんら代わり無い」
「…そこ、座るぉ…」
「おう……それで、僻んでる連中のせいで左遷。それでここに居る訳さ」
「なぁ、今私軍隊率いてさ、ここに侵入してるんだけどね?」
「………なにぃっぷっ!!」
「(こらっ!声がデカイ!)」
「(一体どう言う事だ!?)」
「(国を護ってるんだぉ!…もうそろそろ諸王達の拉致が完了する。最後には大王に脅迫状を叩き付けて帰る……一緒に来ない?)」
「(…無理だ。小さいながらも俺には国がある……それに、国には嫁さんも居るしガキも居る…ある意味人質に捕られているようなもんだ。だから行けない)」
なんとまぁ…まぁだ子供が居るんかい…
私より後に産まれたクセに、私より早く結婚して子供まで居る始末…嫁さんとギシアンしまくったんだなぁ!畜生めぇぇぇ!!私だってまだヤってないんだぞぉぉぉ!!
「(…クッ!)」
「(すまねぇ…)」
「(…逃げれないなら、国を独立させりゃあ良いじゃない。私が直々に手伝ってあげるからさぁ)」
暫く、何か考えだした雄輔。
まったく、昔はあんなに可愛かったのに、今じゃこんなむさ苦しい姿に…よよよ…
さらに暫くしてから、なにか納得したように一回頷き、濁り酒?が入った杯を煽って、立ち上がった。
「姉ちゃん。お願い出来るか?」
「まっかせなさい。弟の願い位、ちょちょいと叶えてあげますよっと。じゃあ、今回のところは国まで撤退しておいて。私も諸王国連合が退却を開始したのを見計らって、直ぐそちらに向かうから」
「ありがてぇ…ありがとう姉ちゃん」
そろそろ兵糧に火が放たれる時間なので、名残を惜しんで別れた。
天幕から外に出ると、向こうから火の手が上がっていた。
どうやら上手く行ったみたいだ。
あとはここから逃げるだけ…おっと忘れてたぉ…
懐から脅迫状を取り出して、大王の天幕に短剣で突き刺して留める。
これで完璧。
一先ず雄輔の天幕から遠ざかってから、大隊長達と合流する。
報告では、誰一人として欠けていないらしい。
作戦は大成功です!
よし…
「野郎共!!鬨の声を挙げろ!!勝ち逃げだ!走れ走れっ!!」
「「「うをおおぉぉぉぉぉ!!王国万歳!国王陛下万歳!我等が参謀長閣下万歳!!」」」
各々が思い思いの雄叫びをあげて、一つのハーモニーを作り出した。
地を駆ける軍靴の音、声高らかに誰かを讃える雄叫び、装備が擦れ合う金属音。
すべてを数え上げたらキリがないだろう。
それらすべてが調和し、ハーモニーに彩りを加える。
歓声を轟かせながら、兵士達は戦場を後にする。
この日、大陸史上類を見ない作戦が成功した。
後々の歴史家や軍人、評論家達が、この作戦を長きに渡り研究してきたが、不可解な点が数多く見付かった。
だが、現在の戦場の運用は、すべてに置いて謎の参謀長が行ったとされる軍事行動に基づいている。
参謀長の正体に関しての説は諸説あるが、最も有力なのは、大魔王と呼ばれた大魔法使いである彼女だと言うものだ。
一体彼の参謀長は、何を思って戦争に挑んだかが、更なる謎を解く鍵になるであろう。
《週刊王国広報特別号》20ページ 六芒郭要塞の歴史 前文からの抜粋
『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ
このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!
正解しても何も無いけどね。
それでは行きます!
『薇』
これはなんと読むのでしょうか!
出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。
そして、前回の答えの発表です!
『漁火』と書きまして、『いさりび』と読みます。
いさりびとは、夜間に魚を誘き寄せる為に、漁船か焚くかがり火のことです。いまでは、ワット数の高い電球を使うみたいですね。』




