軍師になろう(2)
改めて部屋の中を見ると、いかにも賢者っぽいお爺さんとかオッサン、学者っぽいお兄さんが必死に答案用紙に向かってた。
必死過ぎて、なんか怖い。
邪魔にならないように、ここはさっさと部屋を出た方が良さそうだ。
「試験が終わった方は、別室で待機してもらうよう、指示されておりますので、こちらへどうぞ。御弟子の方も、そちらでお待ちです」
「了解ですよっと」
一旦試験会場から出て、すぐ近くにある部屋に案内された。
「お、フェルちゃんお待たせ」
「ふぇぇ、そんな待ってないですよぉぉ」
待機室には、私と試験官とフェルちゃんしかいない。
まだ誰も試験を終えて無いと言うことだ。
うーん、そんなに難しい問題は出て無かったと思ったけどなぁ。
やっぱり、教育水準の違いってやつ?
「ですが、あの早さで終えてしまって良かったのですか?見落としなどがあったかも知れませんよ」
元からこの部屋にいた試験官が、壁に架かっている古めかしい時計を見ながら言った。
「大丈夫ですよ。あんな問題、高校生でも解ける」
「コウコウセイ?ですか」
「あー、気にしないで下さい」
この世界の人に言ったところで分かる訳無いじゃん。
暫く設けられた椅子に座って居ると、ちらほらと試験が終わった賢者の皆さんが待機室に入って来た。
ローブの下には【アダマン・フルメイル】を着込んでいて、頭にはヘルムを被っているので、それを見られないように、目深にフードを被り直す。
フェルちゃんもそれに倣った。
「それでは、合格者の発表を致します」
数枚の紙を持った試験官が、結果を告げる為に入室しつ来た。
誰もが固唾を飲んで結果を待っている。
私は、落ちる筈が無いのでどうと言うことは無い。
「合格点は、平均75点となっております。それでは、得点の高い方より発表致します…えっ?……失礼しました」
紙を捲って、多分合格者の名前が上がっている紙を見た試験官は、瞬きを数回繰り返して、紙を二度見したが、直ぐに気を取り直した。
「えぇ、第一位は黒森瞳子殿、得点は……百点満点です…」
「なっ!」
誰かが驚きの声を上げた。
続いて待機室がざわめき出す。
いや、驚かれても困るんだけど…
だって内容は中学生の数学と、アホみたいな漢字テストなんだもん。
……あれ?なんで私の本名知っとるん?
…ハッ!しまった!?テストと同じように本名書いてしまった!
うわぁぁぁぁぁぁぁ……身バレしないように祈るしかなぃぃぃ…
「オホン……続きまして…」
試験官がマンガみたいな空咳を決めて皆を黙らせ、次々に合格者を発表していく。
試験と言うものは何時も無情だ。
なんたって、合格者と不合格者がはっきりしてしまうからだ。
歓喜のあまり、万歳三唱する学者のお兄さんが居れば、不合格と聞いて失神する賢者風の老人もいる。
てか、コイツら暢気だなぁ。
これから戦争するってのに。
そもそも、軍師とか指揮官になる人を、その日に決めるって時点で、この国もう終わってるよ。
「それでは、合格者の方々は次の試験を受けて頂きます」
まだあるんかい!?
これ以上何しろってのよ。
「ふぇぇぇん、瞳子さんの眼がこわいですぅぅ!?」
「べ、別に試験会場に嵐を巻き起こそう(物理的に)なんて思って無いんだからね!!」
敗者を待機室に残し、次の試験会場に移る。
そこには、何やら身体測定に使うような器具が幾つか鎮座していた。
例えば、肺活量を測る為の器具みたいな物や、円盤状の握力を測るような器具等々約10点程。
握力測定器なんて、以前使ったのはいつ頃なんだろ。
確かJCの時に二回だけ体育で使った気がした…
左右とも13しか握力無かったような…
あれ?て言うか軍師の試験で、なんで身体測定?
これじゃあ、正確には身体能力測定だけど。
だって、体重計とか身長計とか無いんですもの。
「それでは、名前を呼ばれた方から順番に、左から測定して頂きます…ノートン殿」
「は、はい!」
学者のお兄さんが、威勢よく立ち上がって、なんちゃって肺活量測定器の所まで歩く。
器具に繋がっているチューブを口にくわえて、顔面を真っ赤にしながら必死に息を吹き込んでる。
半分程、目盛りが刻まれている円柱を真っ二つにしたようなモノの手前側が浮き上がる。
担当の試験官が、紙にペンで目盛りの数字を書き込んで行く。
「次の方は…」
肺活量測定器での測定が終わったみたいで、ノートンさんと言う名前らしいお兄さんは、右の器具にずれた。
次々に測定が終わっていき、最後に私の番が回ってきた。
「黒森殿」
「はーいはい」
使う度に洗浄されて綺麗なチューブを渡され、ヘルムのスリットに捩じ込んで良い感じに口許まで持っていく。
頑張ってくわえたら、思いっきり息を吹き込んだ。
だって、私パソコンがお友達だったから、運動しなかったんですもの。
だが何故か、測定器の目盛りがぐんぐん上がって行き、突如測定器が轟音と共に爆裂した。
「うわっ!?何?何!?」
試験官は、衝撃に吹き飛ばされて唖然としていた。
ほかの器具を担当している試験官と、受験生達も然り。
ついでに私もそれに入る訳で…
仕方無いので、次の握力測定器に移り、凄い手加減して取っ手を握る。
大体60くらいで止めようと思っている。
が、
これも何故か取っ手に手を掛けた瞬間に、目盛りが高速回転して壊れてしまった。
これ、弁償しろとか言われないよね…
まぁ、弁償ならどうって事無いけど。
もうその時点で数人の試験官が集まって、私の顔をチラチラ見ながら秘密の会議を始めた。
直ぐに会議が終わったのか、一様に頷いた試験官達は、二人が退室して、残りがこっちへ来た。
「黒森殿、お話が御座います」
「な、なんでしょう」
なんだか圧力を感じるんですけど…
「試験なのですが、黒森殿は合格です」
「はぁ」
「そこで、史上例を見ない結果と言うことで直接陛下に謁見を…」
器具を壊したから、お前は不合格だー!とか言われると思ってハラハラしたぉ…、全然そんな事無くて安心した自分がいます。
いきなり王様とご対面かぁ。
なんか緊張するなぁ…
何話せば良いのやら。
「分かりました、今からですか?」
「はい、御弟子の方も同席頂いて構いませんので、こちらへどうぞ」
『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ
このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!
正解しても何も無いけどね。
それでは行きます!
『阿利乃比布岐』
これはなんと読むのでしょうか!
出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。
そして、前回の答えの発表です!
『大角豆』と書きまして、『ささげ』と読みます。
ササゲはマメ科の一年草。つる性の種類とつるなしの種類があり、アフリカ原産。主に旧世界の温暖な地方で栽培されています。南米では繁栄と幸運を呼ぶ食物と考えられ、正月に食べる風習があるそうで、これは日本と同じですね。
小豆の代わりにお赤飯に入れたりしますからね。
語源には幾つか説があり、莢が上を向いてつき物をささげる手つきに似ているからという説、莢を牙に見立てて「細々牙」と言ったという説、豆の端が少々角張っていることからついたという説などなど諸説あるそうです。』




