フンメル(2)
「お前が…俺の軍を滅茶苦茶にしたヤツか?」
髭ゴリマッチョマンが一層笑みを深くして、凄んでくる。
いやん、そんなにジロジロ見ちゃらめぇ~、全然濡れてこないぉ。
「取り敢えずはそうなるのかなぁ」
「そうかよ。フンッ、こんなヒョロッちいヤツに殺られたのか?コイツらは。情けねぇな」
しゃがんで、イモリの黒炭になっている諸王国連合軍兵士を突っついてる。
なんだか、眼が申し訳無さそうな光を湛えてる。
あら?これは鬼の目にも涙ってヤツでは?
初めて見たぉ。
「ここまでしたからには、キチンと落とし前つけてもらわねぇとなぁ」
両目を爛々と光らせて、大剣を構えた。
ひしひしと闘志が伝わって来る。
中々の使い手のようだ。
「俺の名はフンメル!!諸王国連合傘下、アルカディア国の王だ!!」
「私の名前は『暗黒院艶子』!闇の大魔王様だ!!文句有るか!?あぁん!?」
「…いや、文句なんてねぇけどよ……どっかで聞いた事のあるような…」
シリアスな展開になりそうな予感?
そんなもの、私がこの手でぶち殺す!!
でも、フンメルって何処かで聞いたことあったなぁ…なんだっけ…?
「まぁいい……行くぜ!」
フンメル王は、両手で大剣を上段に構え、一瞬で距離を詰めてきた。
それも、そのままのポーズで。
……は?
マジで?
人間の動きを超越してね?
どうやったら、そんな地面を滑るみたいにノーモーションでダッシュ出来るの?
しかも、なんかヌルヌルした動きで気持ち悪いし…
「ふぅん!!」
「甘いわっ!!」
速度を乗せた降り下ろしの一撃は、フンメル王のオッサンの体重と筋力も上乗せされているので、かなりの脅威だ。
ヌルヌルしてるとは言えだ。
だが、私を倒すには全然足りない。
その大剣、ビムサ先生で両断してくれるわっ!!
白い筒に、魔力を流してブレードを形成し、大剣の腹を狙って横薙ぎを繰り出す。
よし!大剣ごとその首貰った!!
濃い黄緑に輝く光刃が、黒光りする品の無い大剣の腹に触れた瞬間、大きな火花が散り、お互いの得物が弾かれた。
かなり強烈なノックバックを食らい、危うく体勢を崩すところだった。
一体今のはなんだったんだろう…
まるで、金属バットで岩を殴ったみたいな衝撃だったぉ。
手が痺れるぅ。
「お前その剣…まさか…いや、そんなはずはねぇ!!」
「なんの話か、意味分かんないでしょ!!」
「「うらぁっ!!」」
お互いの剣を正眼でぶつけ合い、力を籠めてのし掛かる。
フンメル王のオッサンも、負けじと押し返してきた。
噛み締めた奥歯から、吐息が漏れる。
柄を両手で握り直し、更に力を籠めて均衡を壊して、無理矢理な鍔迫り合いを終わらせようとするも、喉の奥を震わせながら押し返してくる。
まったく、なんてオッサンだよ…
幾ら私が、現在魔法使いだとは言え、私の剛力と張り合えるなんて…
やっぱり異世界って、面白いね。
このままでは埒があかないので、一瞬体を引いて体勢を崩させてから、大剣を上に跳ね上げる。
なんとも恐ろしい事に、跳ね上げた時には既にバックステップに入っていて、横薙ぎをしようとしたら、もう射程圏外。
図体がデカイのに、素早さが比例しない。
もうなんだか訳が分からない…
異世界に来た時点で常識を捨てた筈なのになぁ。
とにかく、コイツはなんとかしなくちゃ。
私と殺り合える位のヤツなら、尚更突破させる訳にはいかねぇなぁ。
まぁ、もっともまだ封印を解いてすら無いから、互角では無いんだなぁ、これが。
「まだまだぁぁ!!」
「ヌルヌル動きやがって!!」
繰り出される切り上げ、切り下げ、刺突、横薙ぎを上手く刃を合わせて逸らせる。
逸らせる瞬間にも、謎のノックバックが発生し、弾かれないように抑えるのが一苦労だ。
フンメル王のオッサンは、再び距離を空けるために大きく後退し、魔法を撃ってきた。
しかも、地味に上級魔法。
どれだけ器用なんだ、あのオッサンは…
まぁ、上級じゃあA.Tフィールドは抜けないから、意味は無いんだけどね。
鋭く尖った拳大の氷塊が、凄い速さで連続して射出され、カン高い音を立てて魔法を阻む障壁に弾かれ続ける。
「せこい技を使いやがって!!チートだろ!!」
「チートじゃない!!これは仕様だ!!努力の結晶だぉ!!」
あれ?なんでチートなんて言葉知ってるん?
もしかして、コイツ異世界人?
「ちょっと待って!お前さん…」
「ごちゃごちゃうるせぇ!!」
ダメだ、話を聞くような状態じゃない!
やっぱり、ある程度痛め付けて無力化するしか無いか…
今度は、フンメル王のオッサンから鍔迫り合いに持って行かれ、再びあの絵が完全する。
だが、私の方が力が上なので、ギリギリと下に追い込む。
「お前さん、異世界人だろ」
「!?……やっぱりお前もか」
更に力を籠めるが、フンメルのオッサンも踏ん張るから、中々押さえられない。
「フンメルってあれかな?ナチの作った自走砲の名前から来てるとか?」
「良く分かったな…だが、それを知ったところで、どうしようも無いがな!!」
まだ余力があったみたいで、力で一気に押し返されそうになる。
だが、まだまだ甘い。
私の中での第一出力限界ギリギリまで押さえ付ける力を上げる。
さすがに、フンメルのオッサンは、そこまでの力は無かったようだ。
「最後まで話を聞こうよぉ」
「チッ!…何者なんだ、お前は」
ギリギリとお互いに力を入れ合い、私が優勢の位置で一度拮抗させる。
端から見れば、戦っている様に見えるはず。
何か喋っているのが見えたとしても、罵り合ってるとしか見えないだろう。
第一、私はヘルムを被っているから、フンメルのオッサンが一方的に喋ってるとも見える。
「何だかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため、愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミーな敵役!瞳子!」
「…フェ、フェルですぅ!」
「銀河を翔る大魔王軍の二人には!」
「ふぇぇぇ、白い明日が待ってますぅぅ!?」
決まった…
最初からやりたかったけど、誰も聞いてくれないんだもんね。
さぁ、これでどうだ!?
「……………」
「……………」
「……あのぉ」
「……馬鹿?」
ちなみに、フェルたんは遠くから叫んでいます。
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『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ
このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!
正解しても何も無いけどね。
それでは行きます!
『海髪』
これはなんと読むのでしょうか!
出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。
そして、前回の答えの発表です!
『羚羊』と書きまして、『れいよう』と読みます。
れいようとは、ウシ科の哺乳類の中で脚が細長く走るのが速い種類の総称だそうで、オリックスやヌーの事だそうです。
ちなみに、カモシカは含まれません。あれは混称されているだけだそうです。』




