人里までの道のり(2)
文章を追加(2013/06/14)
次第に、辺りが暗くなり始めた。
この森の樹は、空が見えない程の葉っぱと枝を張り巡らしていて、日光があまり届かないようだ。
多分夜になったら何も見えないだろう。
まるで、ナウ〇カの腐海のようでもある。
胸ポケットから、回復したミルクたんが顔を出した。
「マスター、あと三時間もしたら完全に、太陽が沈みます。早くこの森から出た方が良いとミルクは進言します」
どうやら、あと三時間らしい。
確かに、何が潜んでいるか分からないなぁ。
しかも、私はこの世界のヒトじゃないから、どれが危険か危険じゃ無いかの区別がつかないのが、一番アレなんだよね。
「おぉ、愛い奴めぇ!どれ、ペロペロしてやろう」
「あ!こら、だからダメって言ってるじゃないですか!」
何はともあれ、何時までもここに居るわけにもいかず、リーラちゃんに先導されて森を歩く。
大人の身長位の太さがある倒木や、苔むした岩、地味に足を取られがちな木の根っこを注意しながら跨いで行く。
足装備が【厠のスリッパ】なので、歩きにくいったらありゃしない。
それでも何とか行軍出来ているのは、大学校で毎朝無理矢理長距離を走らされていたから、なんだろうけどね。
最初居た所から歩き出して、既に三時間とチョットが経過していた。
かれこれ二時間前の段階で、既に真っ暗になっていたのだが、リーラちゃんが魔法で光る球体を出して周囲を照らしていたから、難なく歩けた。
ついでに、私も魔法の練習がてら下級光属性魔法の【ライト】を使って、リーラちゃんと同じ光球を作り出して辺りを照らす。
リーラちゃんの作り出した光球は、静かにリーラちゃんの頭の上で輝いていたけれど、私のはファ〇ネルよろしく意のままに操ることが出来て、自在に飛び回らせることが出来た。
なので、哨戒目的で少し先に先行させて、視認距離を広げながら、森の中をズンズン進んで行った。
やっとの事で森を抜ける事が出来た。
しっかし、普通樹海の中に転移するだろうか、何だか目に見えない何かの悪意を感じる…
ミルクたんが言っていた三時間はとうに過ぎていたので、既に太陽は地平線に沈み、辺りは夜の帳に支配されていた。
だが、不思議とあまり暗くない。
その原因は空にあった。
「す、スゴすぐる……闇の大魔王である私の宿敵、月鐶のライヌーシュの化身が、ここまでふつくしいとは……」
「誰ですか?ライヌーシュって……第一、瞳子さんをどう見たって大魔王には見えないですよ」
「ふっ……この姿は世を忍ぶ仮の姿なのさ…」
「はいはい、そう言う事にしておきましょう」
なんというスルースキル!あそこまで華麗にスルーされると、なんだか…
「…濡れる」
「何が!?」
完璧なタイミングのツッコミ、ご馳走です。
何はともあれ、とても幻想的な夜空だった。
幾星霜の星が煌めき、大中小の三つの月が並んでいた。
特に月が三つある事で、太陽からの光の反射の恩恵は大きく、そこまで頑張らなくても月明かりで充分にラノベが読めそうな程である。
「一番大きい月がディア、二番目に大きい月がニァク、ちっちゃい月がロヴァと言います。今月は月並びの月なので、ああやって月が並んでいるわけなんですよ」
「ほほぅ…ちなみに、一月は何日で一年で何月あるわけ?」
「それはですね…」
リーラちゃんの言う事にゃ、一年は365日で12ヶ月、そして一月は約30日。
地球の暦と大して変わらない。
月の名前は、1月が夜明けの月、2月は新生の月、3月は到春の月、4月は作付けの月、5月が月並びの月、6月が到夏の月、7月が静夏の月、8月が烈夏の月、9月が到秋の月、10月が豊作の月、11月が到冬の月、12月が落陽の月となっているらしい。
名前から分かるように、四季が存在するが、冬が一月分長いようだ。
「成る程ね、理解理解」
「本当に分かってるんですか…?まぁ、良いですけど。私は夕御飯を作るので、待ってて下さいね」
「来ました!リーラちゃんの手作りご飯が!ねぇ、これから私の為だけに作ってくれないかなぁ」
無視されたよ!?ねぇ、無視、無視ですよ。虫じゃなくて無視。
おのれぇ、この大魔王を無視した罪は重いぞぅ。
夜になったら思い知らしてやるぅ……グヘヘへ。
それはさて置き、リーラちゃんは女の子だけど、さすがは冒険者。
あっという間に薪を起こし、鍋を置いて料理を作り、私は何もしないで夕御飯になった。所要時間約15分。
ちなみに火は魔法で点けました、私がね。
出てきた料理は、ビーフシチューみたいなスープとパンだった。
最初は、スープを作ると言って、何処からか取り出したぶつ切りの何かの肉と、何かの野菜と、正体不明の調味料をぶち込んでいたので、一体どんな闇鍋料理を食べさせられるのかと超不安だった事は内緒だぞ★
まぁ、大魔王である私の胃袋に掛かれば、どうと言う事は無いがな!
「ふぅっはっはっはっはぁ!!」
「うわっ!また笑い出した」
「マスターの事ですから…」
それから、三人で夕御飯を囲んだ。
リーラちゃんの精霊と森の神に捧げる祈りのあとに、頂きますの合図で手をつけた。
ビーフシチューもどきは、味こそビーフシチューとは似ても似つかないが、深い味わいが何とも美味い。パンじゃなくて銀シャリがあれば、なおグッド。
「うましうまし。この程よい酸味が…リーラちゃん、これ何の肉使ってるの?」
「……何でしたっけ?」
「え゛?」
何だか分からん肉を使ったと申すか…
「マスター、多分この肉は……」
「言っちゃらめぇぇぇぇ!!」
「マ、マスター?」
「ミルクたん、それ以上はダメだぉ…聞いたら最後人に戻れなくなる気がするぉ」
悪い予感しかしない…
た、確かに私の胃袋は問題無い…筈だが、精神的な面で問題が……
でも、大抵こういう時は悪い結果が伴うのがお約束なんだよね…
「うわぁぁっ!!これ、アンッドプギーの肉だった!!」
キターーーーーー!!
予想的中ですよお姉さん…
リーラちゃん……あれ程言うなて…よりにもよって、私アンデッドの肉を食わされたのか…
ちょっと爽やかな酸味が有ったのは、それのせいだったのですね。
というか、何故死体の肉を剥ぎ取るん?
名前からしてゾンビの豚さんっポイけど…
「うっ…考えたらリバースしそう…」
す、酸っぱいものが…込み上げて…
耐えろ、耐えるんだ私!!
「うぅ無理ぽ…○○○○○」
「きゃぁ!?だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ。問題しかな…○○○○○」
リバースしながら、爽やかな笑みで親指を立ててみた。
結局、食べた物をそっくり吐き出すまで止まらず、スッキリした時には空腹感が襲って来ていた。
なんて現金な胃袋だと、自分の胃袋ながら、改めて思った。
なんだかんだで、私の異世界転移初日は、こうして幕を閉じたのである。