予兆そして始動
短いです。
期待させてすみません。
ちなみに、視点がコロコロ変わります。一人称だったり三人称だったり…瞳子さんではありません。
まだ、名前も出すつもりもありません…登場するまで楽しみにしていて貰えると嬉しいです^^
「こ、これは!」
急に澄んでいた青空が、星を湛える夜空に変わってしまった!
時計はまだ昼時を指していると言うのに…
一体何が起きていると言うのだ!
「殿下!ここにお出ででしたか!」
「おぉ、爺やであったか…見よ、この空を。月並びの月であるというのに、月自体が見えない」
後ろから声を掛けられたので、振り返ると、そこには宮廷筆頭魔法士の爺やがいた。
全身をスッポリ覆うタイプの、紺色のローブをはためかせ、近付いてくる。
いつ見ても、それが高級な素材で出来ていると言うのがわかる。
「これはきっと魔法によるものでしょう…」
「そうか、しかしずっとこのままと言うのは困るぞ?」
夜空は嫌いではないが、昼が夜になってしまったんだ、もしかしたらこのまま太陽が昇って来ない可能性だってある。
そんなのは困る。
暫く無言で空を凝視していた爺やが、問いに答えてくれた。
「それはありますまい…魔法によるものでしたら、時間が経てば戻るでしょう。ですが、儂が懸念している事は…」
「誰が使ったか…であろう?」
「はい、その通りにございます」
爺やがこちらを見て頷いた。
皺の入った歴戦の傷のあるその顔は、硬い表情をしている。
無理は無いだろう、この私とて同じ様な表情をしている筈だ。
「爺やも同じ事が出来るか?」
途端に苦虫を噛み潰したような顔をした。
大体予測はしていたが…
ここまでの事象改変を行う魔法など、お伽噺の中でしか聞いた事もない。
「儂にはとても…多分これは超上級魔法によるもの…知っておいでだと存じますが、儂は上級魔法までしか使えませぬ故」
「なんと!?そこまでの魔法なのか…私は中上級までしか使えないしな…一体どんな者が使ったんだろうか?何の為に?」
「そこまでは分かりませぬな…」
何処の誰が、何故、何の為に伝説上にしか聞かない、最高級の魔法を使ったのだろうか…近い内に騎士を派遣して、徹底的に調べ上げる必要があるな…帝国に先を越されては大変だ。
もし、その者が帝国に組みする者だったらと考えると、ゾッとするな。
「爺や、分かっているだろうが…」
「はい、承知しております。見付け次第、こちらに引き込むよう手配します」
「頼む、父上には私から言っておく」
「はっ」
爺やが一礼して部屋を下がった。
部屋には静寂が戻ってくる。
しかし、月の無い星空がここまでも美しいとは思わなかった。
派手に装飾されている調度品や宝石の類い、そしてこの金銀財宝で飾り付けられた部屋でさえ、この満天の星空には霞んでしまうだろう。
そこまでも美しいのだ。
それを実現した魔法使い…面白い、実に心躍らされる。
「さて、これからが楽しみだ」
自然と口の端が持ち上がるのが分かった。
「…東方で凄まじい魔力の反応を感知しました」
荘厳で厳粛な雰囲気を湛えた地下神殿。その最奥に大きな湖が存在する。
水は透き通り、かなりの深さが在りそうだが底がハッキリと見えている。
これでもかなり“異常”なのだが、それより遥かに際立って“異常”なのが、天井である。
地下であるはずなのに、見上げるとそこには満天に輝く星空があった。
まるで、天井など最初から無いかのように…
その星空に照らされて輝いている湖に浮いている小さな島に、二人の男女が立っていた。
男性は老けていて、真紅の髪の毛に白髪が混じっており、紅いローブと騎士の様な甲冑を着込んでいた。
だが、そこいら辺の騎士達では手に入れる事が出来ないような見事な甲冑で、金色に輝くそれには幾重にも絡まり交差する白銀の模様が入り、胴丸の真ん中には拳大程もある真っ赤なルビーが金色に負けず劣らず星空の元で輝いている。
女性は若く、まだ少女と言っても過言では無い位瑞々しい。
白く、湖の水の様に透き通った美しい肌をしていて、フードのようなもので髪の色は分からないが、燃えるような赤い瞳をしている。
こちらは、白い絹の様な生地を使った、サリーの様な服装をしていて、装飾は何もないが、こちらも高貴な雰囲気を醸し出している。
二人を言い表すなら、男性は豪華、女性は精粗。剛と柔、といった具合だ。
「規模は?」
男性が苦い顔で女性に聞く。
「これまで感知した事がないので、はっきりとした事は言えませんが、おそらくは超上級かと…」
男性の顔が驚愕の色で塗り潰される。
人生でこれ程驚いた事は無い、そんな言葉が聞こえて来そうな程の表情だった。
「…!?なんだと!?」
一瞬遅れて言葉が紡ぎ出された。
今まで言葉を出す事を拒絶されていたのを、無理矢理吐き出したような、掠れて小さい声だったが、静寂に支配されているこの空間において、隣にいる少女に聞こえる分には、十分な大きさだ。
「…私も同じ思いです。事は早急に運ぶのが上策かと…」
少女の言葉にハッと我に返った男性は、対岸に控えている騎士達に聞こえるように、大声を張り上げた。
「貴様ら!!支度をしろ!!大臣達を集めるのだ!!」
その声は、この空間が閉鎖空間と言う事を思い出させてくれるかのように、反響し、ビリビリと空気を振動させる。
「…わたしも出席しましょう」
その声量を真隣りで聞いたにも関わらず、少女は顔色一つ変えずに男性に告げる。
「頼む…」
男性は、大きく頷いてその助けを受けた。
質素で、あまり家具や調度品の無い部屋に一人の老婆が静かに佇んでいる。
場は静かと言えど、空気は凛と張り詰めており、まるで戦場に来たかの様な錯覚に陥る。
だが、それも一人の銀髪の若者が入って来た事で、粉々に粉砕されてしまった。
「婆さん、一体何事だ?空が急に夜みたいになっちまった」
暢気な声で入って来た銀髪の若者は、青色で統一された甲冑とマントを着込んでおり、胸甲が男性のそれと比べてさらに湾曲している事から、この若者が女性と言う事がわかる。
耳には、これまた青い宝石を使ったピアスをしており、よく見るとそのピアスの宝石の中で、小さな魔力の渦が巻き起こっていた。これが普通のピアスで無い事が分かる。
海の様に深蒼な瞳を面倒臭そうに瞬きながら、猫背になって小さい老婆に近付く。
「遅いぞ坊主」
老婆が、手にしていた杖を、その体からは想像もつかない速度で若者に突き出した。
一方、若者はなんでも無いかの様に身体を捻って回避して見せた。
「…まぁ良い、空についてじゃが…」
老婆が、杖をゆっくりと引き寄せ、腰を擦りながら窓の外を顎で指した。
「おう」
若者は欠伸を噛み殺す事もせずに大きく口を開けながら、先を促す。
「超上級魔法を誰かが使ったらしい」
ピタリと若者が動きを止め、ゆっくりと体を戻す。
既に、先ほどまでの暢気な気配は無く、真剣な表情を浮かべていた。
「なにぃ?あの伝説の十二英雄の一人が使ったっていうヤツかぁ?婆さんなら出来るんじゃねぇのかよ」
若者は腕を組みながら老婆を訝しむような口調で言った。
その言葉に、老婆は肩を竦めながら諭す様に言う。
「バカを言うんじゃ無いよ…使えたら、とっくに使っているさね」
バカの部分を強調して老婆が言ったので、若者は釈然としない顔で短く唸った。
「ふ~ん、まぁ良いがよ。それで?オレは何をすれば?」
開き直った様子で、両手を降参したように上げ、そのまま右手で短く切り揃えてある髪の先端を弄る。
「決まっておろう…其奴を見付け出し、会ってこい。お主の糧になるじゃろうて」
聞いた途端、若者は顔をげんなりさせてポリポリと後頭部を掻き、肩を竦ませた。
「あっそ…そう言う事ならちょっくら行って来るわぁ」
だるい…と体全体で語りながらも、入口に向けて踵を返した。
「気を付けて行くんじゃぞ」
老婆の声に、若者はひらひらと後ろ手に手を振り、部屋を後にした。
文章の書き方が何時もと違うので、え?誰?と思われた方も少なくないはずです。
さて、ここで登場した人物達が、どう物語に関わって来るのでしょうか。
それは、これからのお楽しみと言う事で…
魔法の等級の補足説明。
一番下が下級から始まり、
中下級
中級
中上級
上級
超下級
超級
超上級
神級
となっています。
そうなると、いかに瞳子さんが強いかが分かりますね。
というか、この世界の人達が弱いだけ?
そんな事はありません。
私が行っても、一瞬で消し炭にされる自信がありますw




