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完全勝利ベアト

皆様ご無沙汰しております。

題名から既に出オチなのですが、ツッコミは無しでw

「ぅあ…えっと………こうなった時は、とにかく逃げる!!」


周りからの歓声に私のSAN値が現在進行形でゴリゴリと削れて行くので、ここは早い所撤退するに限る。

耳を両手で押さえたままキョトンとしているベアトを引っつかんで、そのまま肩車をして冒険者ギルドの方へ走る。


声が聞こえて来なくなる所まで逃げ切り、ぶるりと肩が震える。


「あー怖かった…うわっ、チキン肌立ってるじゃんよ」


あの毛穴の膨らんだ状態が、どこのハスコラだよって思うようなグロさを持っているのが嫌なんだよね…


ちょうど、逃げた方向が冒険者ギルドの方向だったので、ここからよく見える近さの所にまで来て居た。

ベアトを肩から降ろして、迷子にならないように手を握る。


ギルドに入る前に少しだけ変装して、私だと分からなくしてから入る。

ギルド内は和気藹々としていて、意外に活気に満ちていた。


そのまま受付まで進むと、受付嬢のオネェサンがニッコリと微笑んで来た。

あっ、チキン肌再び。


「あらん、いらっしゃ~い。見ない顔だけどぉ、御用は何かしら~ん?」


スキンヘッドに口ひげマッチョのおっさんが口紅と薄いアイライン引いてるとか…悪夢意外の何物でも無い……いや、別にオネェを否定してる訳じゃ無いのだぜ?無いのだがなぁ………なんだかなぁ。


「………あ、うん。登録をしようと思って」

「あらん?しっかりとした装備を持っているのにぃ、登録をしてないの~?変ねぇ」


お前ほど変じゃないわ!!ボケェ!!………なんて事は口が裂けても言えません。


「ほ、ほら。入るなら形からって奴ですよ!」

「そうねぇ~、確かにぃそう言う子も居なくは無いわねぇ。まぁ、良いわぁ~。冒険者ギルドは余計な詮索をしない事がル~ルだからねぇ~」


依然として仏の様な微笑みを消さないオネェサンが、スッと登録用紙を謎カウンターの中から出して上に置いた。


じゃあ、ここに書いて頂戴ね。と言うなりオネェサンは受付から立ち上がり、向こうで屯していた冒険者三人組の所にノッシノッシと歩いて行き、何をするのかと思っていたら、突如ムキムキの腕を振り上げて冒険者目掛けて振り下ろした。


「だぁれがタコですってぇぇぇ!!?」


ドゴンッ


拳が直撃した冒険者が、他の二人を巻き込んで天井を突き破り消えて行った……

なんでギルドの受付嬢って、天下無敵そうな連中しか居ないの?

ノンナさん然り、このオネェサン然り。


「あらやだん!小さい子がいたのねん!恥ずかしいわぁ!!」


ベアトの姿を見たオネェサンは、イヤンイヤンと身体をクネクネ拗らせながら、受付に戻って来た。

何これ怖い。すごい茶番劇を見た気がする……

ちなみにベアトはポカーンとした状態で固まっている。


気を取り直して用紙に向かおうとするが、漢字のあまり普及していないこの世界で漢字を多用していたら身分に疑問を持たれそうなので、代筆を頼む事にした。


「あ、あのぉ…代筆ってやってますか?」

「やっているわよぉ~。銅貨五枚ねぇ~」

「ちょっと待ってね…じゃあ、ベアトも代筆で二人分。はい、銅貨十枚」

「確かにもらったわよ!は~い、じゃあ背の高い貴女からねぇ?名前は?」

「えっと、暗こ…」


いや待てよ?ギルド長のガキンチョには暗黒院の方で通って居る訳だから、被ったら不味くね?


「あ」

「あ?」

「あ、あん…アンコです」

「そう、アンコちゃんって言うのねぇ!ちなみにぃ、アタシィはジュリアンヌって言うの、よろしくねぇ」

「あ、はいぃ……」


よろしくしたくは無いなぁ…

そんなこんなで代筆が進んで行き、最終的にこうなりました。


名前 アンコ

年齢 22歳

性別 女

種族 人間

出身地 オプタティオ帝国


名前 ベアトリーチェ

年齢 10歳

性別 女

種族 人間

出身地 オプタティオ帝国


になった。

と言うか、ベアトって10歳だったんだ。初めて知った。

この登録用紙に書き連ねたあと、受付けのオネェサンは件の謎カウンターにてゴソゴソして、鉄の冒険者カードを二つ取り出した。


「はい。これが冒険者カードだから、無くしちゃダメよぉ~」

「あ、ありがとうございます…」


一々クネクネするのやめてー。

未だかつて受けたことの無い程強力な精神攻撃がぁ……

ガクブルガクブル


「あっ、そうそう」


冒険者カードを受け取ったので直ぐ回れ右して立ち去ろうとしていたら、声が掛けられた。

まだ何かあるんかい。


「ランクの説明はぁ、した方が良いかしらぁ?」

「いえ!大丈夫です!ありがとうございました!!」


ビシッ!と敬礼して、依頼が貼り出してあるボードの所まで早歩きする。ここでダッシュしなかった私を褒めて欲しいぉ。


「ふむぅ、はてさてどれにしましょうか」


ここの冒険者達は仕事熱心なのか、塩漬け依頼が一つも見つからない。

とても良いことなのだけれども、逆にベアトを連れて行っても大丈夫そうな依頼が少なくてどうしようか悩む。


「………これにしようかなぁ」


ボードから依頼の一つをピッと剥がしてオネェサンの居る受付けに持って行く。


「こ、これをお願いします」

「はぁい…これねぇ~。 畑に出たヒュージラット五匹の討伐ねぇ。討伐部位は前歯だからぁ、必ず引っこ抜いて来てねぇ~」

「了解しました」

「はい~、いってらっしゃい~」


オネェサンに見送られたあと、早速ヒュージラットの被害にあっている農家さんの所へ出向く。

大して遠い所でも無いので歩いて行くことにした。


ちなみに、ヒュージラットは体長五十センチ程のデカイネズミで、ポケ◯ンのラ◯タみたいな姿をしている。攻撃方法は爪による引っ掻きと前歯による噛み付きの二種類。デカネズミとバカにしていると、強靭な前歯に噛まれてシャレにならない程の大怪我を負う。別に黒くて二足歩行とかはしない。


「そう言えば、何と無く魔女っ子スタイルの服を着させちゃったけど、ベアトは何か魔法使える?」

『つかえないよ』


うーん、かと言ってベアトに剣を持たせて突撃とかさせたくないしなぁ…

あ、ちょうどお誂え向きな武器が有ったぞ。


アイテムボックスから先端の捻れた木製の杖を取り出す。


「たったかたったたったったー、【暴風の杖】ぇ~」


説明しよう。【暴風の杖】とは、風属性の中級魔法がスキルの有無に関わらず使うことが出来る杖であ~る。デメリットは魔力を十分の一程余分に消費してしまうのと、二百回魔法を放つとダメージは無いがアフロになる大爆発を起こす。

ちなみに、取り出した時の効果音はドラ◯もんのアレ。


「良いかい?これはベアトが魔法スキルを持って居なくても、風属性の中級魔法までを撃つ事が出来る杖なんだ。ベアトがどの位魔力を保有しているか分からないけれど、どんな人間も下級魔法なら十発は撃てる魔力があるから、もしヒュージラットが居たら【エアカッター】を撃ってみて。頭の中で念じれば効果あるから」

「(コクコク)」


実はこの【暴風の杖】、これを使って魔法を使い続けると、知らない間に体が魔法を覚えて知らない間にスキルを習得していると言うスグレモノであったりする。




農家さんはけっこう大きめな畑を持って居た。

それこそ東京ドーム2個分くらい。

こんな年がら年中雪が降っているような土地で何が採れるのか分からないけれども、こんなに広いんじゃ大変そうだ。


「あんた達が依頼を受けてくれた子達かい?」


農家の奥さんはふくよかな女性で、優しそうな趣をしている。

その奥さんが言うことにゃ、この畑では根菜類を栽培しているそうなのだが、何故か最近ヒュージラットが大量発生しているそうで、農作物が掘り返されて被害が出ているのだとか。旦那さんと退治はしているのだけど、如何せん数が多くて手に負えず冒険者ギルドに依頼を出したと言う経緯らしい。

これはどうやらヒュージラット自身を根絶やしにしないとダメかも知れない。


「内容は分かりましたよ。じゃあ早速仕事に掛かりますね」

「悪いけどよろしく頼むよ」


早速畑に行くと、彼方此方でヒュージラットがカブの様な根菜を齧って居た。

しかも堂々と。


「これは酷い…」


今なら元ネタの村長の気分が少しだけ分かる気がする……ほんの少しだけね?


「まぁ、こんだけ堂々とやられちゃ大魔王様の名が廃るってぇもんよ。ベアト、あの手前側で根菜齧ってるデカネズミ居るじゃん?分かる?」

「(コクン)!」

「アレ目掛けて、頭の中で【エアカッター】って唱えてみ。目線はヒュージラットとか放しちゃダメだよ」

「……(コクン)」


じっとヒュージラットを見つめて神経を集中するベアト。

【暴風の杖】がベアトから魔力を吸い出し、増幅して今にも飛び出さんと待機しているのが見える。


「!」


【暴風の杖】から不可視の魔力の波が撃ち出されて、呑気に根菜を齧って居たヒュージラットの首辺りから鮮血が飛び散った。


「お、良いぞ~」


ザックリと首を空気の層で切られたヒュージラットは、断末魔の叫びも上げられずに昇天する。

ささっとひっくり返ったヒュージラットに二人で近付き、前歯を力任せに引っこ抜く。


「うわっ、切断面綺麗だけどキモイィ……吐きそう」


いや、吐かないよ?だからベアト後退るのはやめて。お母さん傷付くから。


ともかく、【エアカッター】でもきちんと効果が有るのが分かったので、ベアトのレベル上げを兼ねてお掃除(虐殺)をしようと思う。


やり方は至って簡単。

ベアトを肩車して畑を走り回るだけ。

ほんとにこれだけ。


敵さんを視界に収めてさえいれば良いので、私がゆっくりと走り回っている間に、呑気に根菜齧っているデカネズミに必殺【エアカッター】をぶちまかしてもらうだけで全てが片付く。


七発程ベアトが【エアカッター】を放ち終わる頃、ベアトの息遣いが荒くなり始めた。そろそろ魔力が底を突き始めたのと思う。

あらら、やっぱり子供だから最大値はかなり少ないかぁ。


仕方ないなぁ、まぁ私には【魔力譲渡】のスキルがあるからあんまり関係無いのだけどね!

どーだ凄いだろう、そうだろうそうだろう。

フゥッハッハッハッハッハッハッハッハァーッ!!!!

……え?別に凄く無い?…あ、そうすか。


【魔力譲渡】の発動条件は対象への接触なので、クリアしている。

ベアトの最大値だと思われる数値より少しだけ多めに渡しておく。

すぐにベアトの息遣いが正常なそれに戻った。


ベアトが【エアカッター】を連射し、魔力が枯渇しそうになったら魔力プールと化した私がその場から補給していく。

これぞ分業と言う。


ヒュージラットの死体がだいぶ散乱してきた頃、次第にベアトの息切れになるまでの間隔が長くなって来ている。つまり、レベルが上がって魔力の最大値が増えていると言うことだ。もう、なにかしらのスキルを取得していてもおかしくは無いだろう。



二時間程時間を掛けて地上に見えるヒュージラットは全滅させる事が出来た。

だが、【索敵】を使うと地中の中にまだ沢山居るようだ。どうやら巣を作ってしまっているらしい。

だから中々減らないどころか、逆に増えて行く一方なのだろう。

ここからは私の出番のようだ。


「【アクアバイト】」


どこからともなく水の球体が現れて、グングンと成長していく。

球体の直径が二メートル前後まで成長した時、今度は球体がぐねぐねと動き始め形を作り始めた。

そして出来上がったのは、体長四メートル前後、胴回りは七十センチ程もありそうな水製のアナコンダだ。

なんとこのアナコンダ、ブレスまで吐けるスグレモノ()。


「ドウモ【アクアバイト】サン、瞳子サンデス」


取り敢えず頭を下げてみる。

ベアトも一緒に下げてみる。

彼方も頭?を下げてくれた。


「そこにヒュージラットの巣穴が有るんですけど、巣から駆逐してくれませんかねぇ」


すぐに頷いて巣穴に直行して行った。

体が水で出来ているだけあって、変幻自在なのだ。密閉されてさえ居なければ、何処にだって入ってしまう恐ろしいアナコンダなのである。


現在地中で何が行われているか想像したくは無いが、【アクアバイト】サンが帰って来るまでベアトのレベル上げの成果を確認する事にした。


「ねぇねぇベアト、いまから【鑑定】のスキルを使うけど拒絶しないでね」

「?……(コクリ)」


【鑑定】スキルは物の状態や詳細を知るためのスキルで、この世界の誰かしらが対象を知っている場合のみ

鑑定が可能なのだ。なので、全く未知なる物体は鑑定が不可能と言うことになる。人にも掛ける事は出来るが、相手の合意を求める必要があるのと、名前とレベルと性別、そして職業しか出てこないので、あまり必要性が無い。


「【鑑定】」


ベアトを鑑定して出た結果は、現在十五レベル。始めた時にレベルを確認しなかったので、幾つレベルが上がったか分からないが、駆け出しの冒険者が大体これ位のレベルだと思った。

ベアトは駆け出しの冒険者位までレベルが上がった訳だ。


まぁ、基礎レベル上限の三百レベルまでレベルを上げるのは無理だろうけど、職業レベルは比較的簡単に上がるから、そちらは三百レベル位まで行けるだろう。ちなみに職業レベル上限は千となっている。

ベアトの職業は見事に見習い魔法使いになっていた。

まぁ、【暴風の杖】を使っていたとは言え、あれだけ魔法ブッパしてれば魔法使いの解放条件の一つや二つは楽勝だろう。

あと四属性で魔法を使えば【魔法使い】になれるだろう。見習いの文字が取れるかどうかは別として……


「ベアトおめでとう!レベルが十五まで上がってて、職業が見習い魔法使いになってたぉ!!」

『おかあさん、やりました!』

「よしよし!」


頭をなでなでしてあげると、笑顔か大輪の花を咲かせたとさ。

ベアトの頭をなでなでしてほんわかしていたら、巣穴から【アクアバイト】サンがニョッキ頭を出した。

どうやらお掃除と言う名の虐殺が終わった様である。


「ドウモアリガトウ【アクアバイト】サン」


頭を下げると、やはり下げ返してくれる律儀なアナコンダさんだ。

【アクアバイト】サンが水に戻ると、もう一度【索敵】を使う。

もう畑からはヒュージラットの反応は返って来なかった。完全に駆逐されてしまっている。


さて、早速奥さんの所に報告しにいかなくては。



「もう終わったのかい?!少し確認させてもらうよ」


スタスタと畑の方に歩いて行く奥さん。どうやらこの奥さん、【索敵】スキル持ちのようだ。


「おや!地中のヒュージラットも退治してくれたのかい!これは嬉しいね」

「依頼は達成ですか?」

「もちろん!ジュリアンヌちゃんに報酬の上乗せをお願いしておくよ!」


……ジュリアンヌ…あっ、オネェサンの名前か。


「良いんですか?」

「良いの良いの!これで暫く退治しなくて良いから、こっちの方が助かるのさ!」


そう言われては、有り難く頂戴しておいた方が失礼にならない筈。

依頼書を奥さんに渡すと、成功したと言うことと報酬の上乗せの事を書いてくれた。


「また来ておくれよ!」

「機会があればまた!」


奥さんに見送られて、農家さんを後にする。

手を繋いだベアトが、仕切りに振り返って奥さんにバイバイしてる。

なんて可愛いのかしらん!

きっと目に入れても痛くない筈。



こうして、ベアトの初陣は完全勝利に終わったのである。

で、その後冒険者ギルドにてオネェサンことジュリアンヌさんにゴリゴリSAN値を削られるのであった。

農家の奥さんのイメージは、ラピュタの親方の奥さんです。

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