爆発物処理班
し、死ぬ……本当に死んでしまう…
黒森とか言う名前の新しい教官は、絶対にわたくしが嫌いに違いありませんわ…
この数日間の間に、何度死神が目の前をちらついた事か。
連日連夜に渡る魔法の弾幕に、吹き飛ばされては地面を這いずり回り、土の地面を掘り返しては穴の中で息を潜ませて直下弾に震える毎晩。
食事も睡眠もギリギリで、取ることも出来ない日も少なくありません。
剣術の訓練も容赦無く顔面にも木剣を叩き込んで来ますし、すまし顔で上級魔法をわたくし達に撃って来る始末。お父様に頼んで、黒森教官の素性を探って貰っても、何処の生まれかも何をして居たかも分からず、更に探りを入れようとしても結局何者かの妨害が入って分からず仕舞い。
噂から辿ろうにも、グリング教官の恋人だとか大将軍の隠し子だとか軍務部からの刺客だとか王族の一員だとか、荒唐無稽で信じるに値しないような物ばかり。唯一、信憑性がありそうなのは、冒険者ギルドの高名な冒険者説。ですけれど、冒険者ギルドは冒険者の情報を決して渡す事は無く、王族の圧力にも屈する事が無いと言う話は余りにも有名…
下手をすれば、全ての冒険者を敵に回す事になります。もしそんな事になってしまえば、他の派閥に隙を見せたも同然。あっという間に飲み込まれてしまうでしょう。
出来ることなら、最初に黒森教官がSクラスに入って来た時に戻って、突っ掛かったわたくしを張り飛ばして、関わるなと言ってやりたいですわ。
あの時の第一印象が悪くさえ無ければ、こんな危険な目に合わせられなくて済んだかもしれないのに…
「はーい、ちゃんと見ててねぇ。今から解除するからさ…一歩間違えれば、ドカンと一発だからね~。次に解除するのは、ノイシェフさんだからよろしこ」
黒森教官が、ニヤニヤしながら魔導地雷を手際良く解除していく。
アレを真似しろと言われても無理です…何故わたくしが、魔導地雷なんかを解除しなくてはいけませんの…?少しでも圧力を掛けてしまえば、間違い無くわたくしは粉微塵に吹き飛んでしまいますのに……
考え事をしながら、必死に頭に解除方法を叩き込む。
でないと、本当に粉微塵になりかねない。黒森教官なら絶対にやりかねないのだから…
「……はいっと、まぁこんな感じに解除する訳なんです。で、さっき私が言った通りにノイシェフさんにやってもらいましょうかね」
黒森教官がなんとも愉快そうに笑う。
冗談じゃありませんわ。
絶対に解除して、黒森教官が悔しがる様子をみてやるのですから!
黒森教官と場所を交代して、新しい魔導地雷が置かれた机に向かう。
焦げ茶色をした円形のそれに手を伸ばし、先ずは円の中心に少し飛び出ている火線となる部分の下をそっと摘まんで、ある程度は動かない様に固定する。もちろん、ずっと摘まんでいる訳にもいかないので、Yの形をした器具を使って押さえる。次に、飛び出ている火線(この世界では信管を意味する)をそっと右に回転させながら抜き取り、脇に退ける。これで、第一関門が終わった所です。
ちらりと黒森教官を見ると、相変わらずニヤついたままの表情でわたくしを見ています。
腹の奥底から湧き上がってくる物をなんとか押し込み、何でもなさそうな顔をして再び視線を魔導地雷へと持って行く。
アレはきっと挑発に違いないですわ。それに乗ったらわたくしの負けなのですから、ここは冷静に行くしかないでしょう。黒森教官の方を極力見なければ、そう難しくはないでしょうから。
火線を外しても、魔導地雷にはまだ起爆する手段がある。一つ無効化しても二重三重に火線が無効化された時に備えての予備が存在する。
例えば、そのまま無力化したと思い込んで踏み込むと、直でその振動を魔法陣に伝え起爆させる物や、魔法陣を潰して完全に無害化させる為に上蓋を外すと連動して魔法陣を反応させる物などもある。
一概に言えることは、見た目からでは中身の様子を知る事は出来ないと言う事だ。
しかし、魔導地雷の起爆方法は一つしかなく、それは中央にある魔法陣に魔力を流して反応させると至って簡単なものだ。つまり、早い話が魔法陣に魔力を流さなければいいのだけれども、魔力を流す方法は幾つもあるので、魔導地雷は曲者なのだと言う事である。
この円形の内部にどのような仕掛けが存在するのか分からないのだけれど、魔法で探る訳にもいかない。なので、そっと中央に火線を取り除く事であいた穴に、木製の棒をそっと差し込んで、上蓋の中に何か引っ掛かる様な仕掛けが無いかを探し、見当たらない事を理解した上でゆっくりと上蓋を右に回転させて外した。
上蓋を取り除いて中を覗くと、黒い魔力媒体(この地雷の火薬の様な物だと思ってください)に囲まれた、白い正方形の紙に描かれた青白く発光する小さな魔法陣が見える。発光する様はとても美しいけれど、これに魔力が流れた瞬間にはその表情を一変させてしまうのだ。実に恐ろしい。
ここで早まって、早速燃焼剤となる魔力媒体を取り除こうとしてしまうと大変危険で、こう言った安価で数を揃える為には、どうしても質の悪い魔力媒体を使わなくてはならない為、安定化されてない事も良くあるとのこと。それを安易に取り除こうとすれば、一気に不安定になって魔力媒体自体が爆発する。
更にそれを逆手に取った罠もあるのでタチが悪い。まるで黒森教官みたいですわ。
震えそうになる手を押さえて深呼吸をして、落ち着いてから中央に魔法陣を固定する為の押さえを鋏で切り取る。
自由に動けるようになった魔法陣を鋏で切らない様に力加減をしながら挟み、そっと優しく持ち上げて魔導地雷の上から取り除いた。
魔法陣を挟んだ鋏を右手で持ったまま、左手で水の入った容器を魔力媒体に傾ける。理由は解明されてはいないのだけれども、魔力媒体は水を掛けられると不活性化する傾向があるのだ。
これで殆ど完璧に魔導地雷の解除に成功した。
「……や…や、やりましたわ!」
これで黒森教官を見返せる!
その悔しがる様子を見ようと黒森教官の方に顔を向けると、びっくりした様な形相でこちらに向かって走ってくる。
そして何故だか理由が分かってしまった。
まだ、右手には魔法陣を描いた紙が残って居たことに……
チカッと万歳をした右手が光る。
あぁ、またわたくしヘマをしましたわ…
黒森教官に何をされるか……
その前に、わたくし生きているのかしら。
視界がゆっくりとしていく中で、視界に捉えていた黒森教官の姿が消える。
次の瞬間には、首の後ろから引き寄せられる感覚があり、右手から鋏を引き抜かれたと思ったら地面に引き倒されて、上に黒森教官が覆い被さって来た。そこで衝撃があり、わたくしの意識は暗転しました。
☆
へぇ、かなり慎重だけど上手く解除出来てるじゃん。
私が教えた事をちゃんと聞いていたみたいだし、手順も間違ってない。
やっぱり伊達にSクラスではないのか、最近委員長ちゃんの上達には目を見張るものがある。
まぁ、私が認めるにはまだまだ時間が必要だけど、ちゃんとブートキャンプの効果が出ているのは確かだね。
私の場合は、ゲーム内で嫌に成る程魔導地雷を解除したことがあるのと、盗賊系の最上級ジョブである【怪盗】が持つ、【罠視覚化】と言うパッシブスキルのおかげで、内部の仕掛けまではっきりと透過して見えるので、簡単に解除が出来るのだ。
いやはや、この【怪盗】になる為に魔導地雷を千個解除しなきゃいけなかったのは辛かったなぁ。何回吹き飛ばされて死にそうになった事か…魔導地雷自体が運営の罠と言われたのが良く分かる気がするよ。
委員長ちゃんは、最終段階の一歩手前である魔力媒体に水を掛ける事が終わり、ホッとした表情をした。
「……や…や、やりましたわ!」
満面の笑顔になった委員長ちゃんは万歳をする。その右手に魔法陣を挟んだまま…力が入った鋏は、魔法陣を両断したことで反応を始めた。
その時にはもう委員長ちゃんに向けて走り出していたけれど、魔法陣がチカッと光を放ってしまった。
ヤバイなぁ。このままじゃ間に合わない。【転進】を使うっきゃなさそうだね…はぁ、後で拳骨だなぁ。
【忍】のアクティブスキルである【転進】を発動させて、一瞬で委員長ちゃんの後ろに回り込み襟を掴んで後ろに引っ張る。
右手にはまだしっかりと鋏が握られているので、それを取り上げた。
取り上げたはいいのだけれど、いま投擲しても間に合わないだろうし、生徒の方に投げる訳にもいかない。だとしたら対処はこうするしか無いかぁ…痛いだろうけど。
鋏を持った右手にだけガントレットを召喚装備させ、委員長ちゃんに半身を引きながら覆い被さって、右手を空に向けて掲げた。
次には手の中で大きくなる様な感覚があり、続いて引き裂く様なとんでもない痛みが走る。良く、女は痛みに強いとか言うけど、痛い事は痛いからね!?
爆轟と衝撃が手の中で暴れ、そこから腕を伝って背中を襲う。痛みで息が詰まりそうになるけど、数秒だけ堪えればこっちのもんでしょ……
火炎が収まりパラパラと巻き上がった土くれが落ちて来くる。
酷く痛む右手に視線を向けないようにしながら、委員長ちゃんを抱き上げて他の教官達の方へ向かう。
と言うか、既にこっちに向けて教官達が走り寄って来ていた。
みんな、私の右手に視線が行くと表情が固まっている。
えっ、ちょっと待ってよ…そんなに酷いんかいな。うわぁ、見たくないなぁ。まぁ、見ないと治し様が無いけど…
ひとまず目に付いたグリング教官に気絶した委員長ちゃんを託して、そおっと右手を見る。
「あきゃぁぁぁぁ?!なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」
血みどろなのはさることながら、咄嗟とは言えミスリル以上の金属で出来たガントレットを召喚した筈なのにも関わらず、ガントレットはメキョメキョのボロボロになっており、黒くくすんで元がなんの金属かも分からない様な状態になっていた。
しかも、破れた金属が腕に突き刺さっていて服の袖は消滅していた為に、グロテスクに引き裂かれた右腕が晒されている。唯一僥倖なのが、指が吹き飛んで無い事だ。既に神経が麻痺していて痛みを感じ無いので、突き刺さっている金属片を乱暴に引き抜いて、もう役に立つとは思えないガントレットをアイテムボックスに送還する。無事な皮膚が無いんじゃないかと思う程の惨状に、こみ上げて来そう……
「ひぃっ、ちちち血が……早いとこ治そう……【ハイヒール】」
腕の傷が見る見る内に修復されて行き、あっという間に元の腕に戻る。まるで映像を逆再生したかのようだ。
ちなみに、私が良く使う【ハイヒール】は、ベ○マと似たような物で全回復するところは同じだが、ベ○マと違うのは僧侶だけではなく他のジョブでも習得することが出来る。しかし、レベル上限に近いところまで上げないと習得出来ないと言う欠点がある。
一回出てしまった血はそのままなので、血みどろなのに無傷の腕と言うなんとも奇妙な事になっている。
呆気に取られている教官達を現世に引き戻して、今日はお開きにした。
だって、これじゃあもうに授業ならないじゃん……
あぁ、嫌になっちゃうなぁ……




