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1-5

結局、その後も伯楽は彪榮の前に姿を現さず、人づてに場所と時間を教えられて、彪榮はしぶしぶその場所へ向かっていた。

(全く…。伯楽のやつ…)

 伯楽が仕事を押し付けてくるのはいつものことで、もはや諦めの境地に達していたが、今回ばかりは断ることを本気で考える。

 要人警護の経験がないわけではないが、他国との国交に関わる人物となれば話は別だ。荷が重い。

(丁重にお断りして、伯楽には他の者を推薦してもらおう)

 断る決意が固まるのと目的地にたどり着くのはほぼ同時だった。

 扉をノックする。

「兵部尚書、伯楽の命で参じました」

「入りたまえ」

 中へ入ると白髪で口元に白ひげをたくわえたいかにも人の良さそうな老人が彪榮を出迎えた。今のところ部屋の中にはその老人しかいないようだった。

「礼部尚書、莫 秋謹殿ですね」

「いかにも」

「お初にお目にかかります。兵部の紫 彪榮と申します」

 彪榮は両手を合わせ頭を垂れる。

「伯楽尚書からうかがっています。相当腕がたつとか。今回のことはご存知ですね?」

「はい。実はそのことで折り入ってお話が・・・」

「ございます」と続けようとした彪榮の言葉は、つい今しがた彼が入ってきた扉から聞こえてきた第三者の声によって妨げられた。

「秋謹さま」

 女の声だった。たt

「申し訳ありません。迷ってしまって…」と秋謹のもとに駆け寄るその人物に彪榮はぎょっとした。

 相手もまた美しい青の瞳を丸くして彪榮を見つめた。

「ご紹介いたします」

 忘れもしない。たった2日前の出来事だ。

「こちら、アゼリア国第三皇女」

 金髪碧眼の少女。

「リテンダ・フェンネル様です」

 あまりの驚きに護衛の件を断ることなど、彪榮の頭の中からスッカリ消えていた。


「縁は異なもの」というのはまさにこういうことを言うのだろう。この時ほど身にしみて感じたことはない、と彪榮は思った。

「なるほど、先日リテンダ様を我が屋敷まで送ってくださったのはあなたでしたか」

 3人は秋謹の執務室から続き扉の応接室に場所を変え、茶を飲みながら先日のあらましを話していた。

「あの日は市中をご案内しようと屋敷のものを供につけたのですが、思いのほか人通りが激しかったみたいでしてね。助けてくださったのがあなたで良かった」

 湯飲みを置くと秋謹は微笑んだ。

「この件を引き受けてくださるのがあなたなら、私もリテンダ様も心強い」

「秋謹殿、そのことについてなのですが」

 彪榮は先ほどから胸のうちに抱いていた疑問を口にした。

「今回の件は皇女の護衛とうかがっています。ですがそれと礼部と何の関係が?他国の皇女が外交官と偽っているのは何故ですか?」

 礼部尚書のもとに赴くよう伝えられた時も不思議に思ったものだ。そして目の前の皇女様とやらは、先日確かに自分のことを外交官と言っていた。

 一体何がどうなっているのか。

「なるほど、伯楽尚書もそこまでは説明なさらなかったのようですな。よろしい、私からご説明しましょう。…構いませんか?」

 秋謹は隣に座るリテンダにうかがい、了承を得ると話し出した。

「外交官、というのはあながち偽りではありません。婚姻の公な発表がなされないことはお聞きですか?」

「はい」

「正式な婚姻発表は2年後です。リテンダ様には慣れぬ異国の地。婚姻は知識見聞を広め、この国を良く知ってからでも遅くはないだろうという皇帝陛下のご配慮にございます。それまでは一部の者以外には皇女ということは伏せて、外交官としてこの礼部でリテンダ様をお預かりすることになったのです」

「護衛、というのは?」

「リテンダ様は兼ねてよりこの国や他の国々に興味がおありとのこと。そこでご本人の希望もあって、我々が他国に赴く際にはご同行なさることになりました。彪榮殿にはその道中の護衛をお頼みしたいのです。表向きは外交官ですのであまり仰々しい護衛はできず、しかしリテンダ様の容姿はこの地域では珍しいため、先日のようにいかなる者が危害を加えようとするか分かりません。そこで、一人腕の立つ武人をリテンダ様付きの護衛にと伯楽尚書に申し出た次第です」

(なるほどな)

 皇族の護衛かと聞かれて、伯楽が曖昧な返答をした訳がこれでハッキリした。表向きは他国に赴く外交官の護衛。しかしその実は皇女というわけだ。

「引き受けていただけますか?」

 秋謹にそう尋ねられて、彪榮は自分が今回の任務を断りに来たことを思い出した。それをスッカリ忘れて各部の尚書しか知らないような詳細な事情を聞き、気付けばなし崩しに引き受けるしかない流れを作ってしまっていた。

 その時、応接室の扉が叩かれた。

「秋謹殿、急ぎ連絡したいことが」

 どうやら秋謹の部下のようだった。「しばし失礼致します」と秋謹は席をはずすと扉の向こうに消える。

 はぁ、と彪榮はため息をもらした。

(どうしたものか・・・)

 彪榮は眉間に手をあてて難しい顔をして考え出した。リテンダがそんな彪榮をじっと見ていることにも気付かずに。


伯楽って調べたら「馬の素質の良否をみわける人」って意味があるらしいです。

そう言われてみれば高校の漢文に出てきた気がする・・・

でもこの小説の伯楽は違いますよ(笑)

「人物を見抜き、その能力を引き出し育てるのが上手な人」って点では一理あるかもしれませんが・・・


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