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少女を紙に書かれた住所に送り届けるまでの道中、彪榮は彼女について様々なことを知るに至った。
口下手ではないが共通の話題もない初対面の者と気軽に話すことができるタチではなかった。それでも異国に対する興味から必然的に少女に対する質問ばかりになってしまったのだ。少女は尋ねれば素直に答え、彪榮の質問も尽きなかったため、沈黙して困るようなことはなくて済んだ。
少女は名をリテンダ。歳は18。3日ほどまえにアゼリア国から外交官として陽朱国にやってきて、今日は世話になっている人に街を案内してもらっていたところ、はぐれてしまったらしい。
(随分若い外交官だな)
何か特別な事情があるのか。しかし初対面の相手にそこまで聞くのは気が引けた。
そうして当たり障りのない質問を続けているうちに目的地に着いた。
政府庁舎に近いこの区域は政府に勤める役人の住居が立ち並ぶところで立派な屋敷ばかりだが、その中でも目の前の屋敷は一際立派なものだった。
表札を確認して合点がいく。
莫 秋謹
外交をつかさどる礼部の長官。礼部尚書の屋敷だ。しかも尚書の任について長いと聞く。
「どうもありがとうございました」
門を背にしてリテンダが彪榮に頭を下げた。
それでは、とリテンダは彪榮に背を向けて歩き出し、彪榮がその場を立ち去る間もなくすぐに足を止めて振り返った。
「あの、名前を教えていただけますか」
「名前…?」
そこで彪榮は自分のことは一切リテンダに話していないことに気付いた。
行きがかり上の偶然の出会いで、この先再び会うとも分からないとはいえ、相手の名前を聞いた以上は名乗るのが礼儀というものだ。
「彪榮…。紫 彪榮だ」
「彪榮…」
リテンダはその名を呟くと「ありがとうございました」ともう一度頭を下げて礼を述べると、今度こそ振り返らずに屋敷へと小走りで向っていった。
その背を一瞥してから彪榮ばその場を後にした。
ちょっとずつの亀更新ですが、どうぞよろしく。