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うふふ…4か月ぶりww
李駿はまだ秋瑾との話の途中であったため、舒宥に席をはずすように言われた宥碌は不服そうにするが、李駿に頼まれるとあっさり頷き、一人ではつまらないからとリテンダを誘って屋敷の中庭に出た。無論、彪榮も一緒だ。
リテンダは木陰のベンチに腰掛けて本を開いている。
彪榮は宥禄の花の水やりを手伝うように言われ、しぶしぶとそれに従ったが、当の宥禄は何をするでもなく彪榮のそば近くに立ってしきりにリテンダと彪榮に視線を寄越す。
「え…と…、何か?」
耐えかねた彪榮が手を止めて宥禄に尋ねる。
「あなたは彼女の下男なの?」
どういう意図があるのか分からない問いに返答に窮したが、その目はいたって真剣だったので、彪榮はその問に答えることにした。
「下男ではなく、雇われた護衛です」
「どれくらい仕えているの?」
「まだ会って一ヶ月と少し。正式に雇われたのはついこの前です」
「そう…」
彪榮の答えを聞いて何かを考える様子を見せた宥碌は、ふと家屋に目を向けじっと見つめた。彪榮がその視線を追うと、その先には窓からちょうど李駿たちのいる様子が窺えた。
何の話をしているかは分からない。肌寒く感じたのか、李駿が腕をさする様子を見せればひざ掛けと温かな飲み物を持ってくるし、筆記具は李駿が必要とする前に察して舒宥が差し出す。何とも甲斐甲斐しい。
「まるで夫婦みたい」
今まで黙って部屋の中を見つめていた宥碌が唐突に呟く。その視線はどこか悲しそうにも見えた。
その言葉を残して家屋から視線をそらせた宥碌は、何事もなかったかのようにリテンダの横に腰を下ろして話しかける。
それからはリテンダと宥碌、互いの国のことや宥碌が父親の行商で見てきた他国のことについて話し、リテンダも人見知りというわけではないのですぐに打ち解け、二人で和気藹々とした会話が続いた。
彪榮は宥碌が発した言葉の意味を計りかね意図を考えあぐねていたが、結局分からずじまいだった。
それからほどなくして、話し終えた秋瑾たちが庭へと姿を現し、今日はこれで宿に帰ることになった。
次にリテンダが李駿と会うのは3日後の任命の儀の後。秋瑾と益史、伯楽等はその儀の来賓として出席する。リテンダは本来アゼリア国第5皇女そして陽朱国第3皇子の婚約者という肩書があるが、その身分を伏せている以上、一介の外交官としての出席はまかり通らない。
任命の儀というものがどのようなものなのか、彼女にとってはかなり興味があるものだが、そこはやはり自分の立場というものを十分に理解しているのであろう。道中の宿にて秋瑾が説明すると「わかりました」とあっさり受け入れていた。
「貴重な本を貸していただいてありがとうございます。任命の儀が無事終わったら返しに来ます」
玄関先で李駿に礼を言うリテンダは3冊の本を両手でしっかりと抱えていた。あれだけの書物の中から、かなり悩んだ末に厳選したのだろう。
「今となっては私もあまり手に取ることが少なくなってしまったので、読みたいという方に読んでもらえた方が嬉しいです。任命の儀の後と言わず、読み終わったら任命の儀の前にでも返しにいらっしゃって、また別のものを借りていっても構いませんよ」
「本当ですか!?」
リテンダのこの返答に、儀式前にまた一度ここに来ることを彪榮は確信した。
「宥碌はしばらくこちらにいるのですか」
リテンダたちの一行とともに李駿の屋敷を後にすることになった宥碌に李駿が尋ねる。
「はい。遠方への表象はしばらくないと父が言っていましたわ。だからお姉様、毎日遊びに来ますね!」
宥碌は満面の笑みで答えると李駿も顔を綻ばせる。
「それはうれしい。にぎやかになりますね、舒宥」
「だめですよ。李駿様。宥碌も」
李駿と宥碌が和気藹藹と話しているところへ話をふられた舒宥はぴしゃりと言い放った。
「任命の儀が近いのですから、李駿様にはそちらに集中していただかないと。宥碌、李駿さまにお前の相手をしている時間はありません。儀が終わったら終わったで今まで以上にご政務で忙しくなります。遊んでいる暇はありません」
「手厳しいなぁ、舒宥は」
「お兄様のケチ!」
「なんと言われようと結構です」
宥碌が舒宥に対して食って掛かるのも、当の舒宥は聞き耳持たずである。
「それでは李駿殿、私たちはこれで」
秋瑾が李駿に声をかけると、舒宥は慌てて居住まいを正した。
「申し訳ありません。お客人の前で見苦しいところをお見せしました」
「構いませんよ。ではまた任命の儀で」
互いに挨拶を交わし、リテンダたち一行そしてそれに続いて宥碌が、舒宥に促されてしぶしぶ李駿の邸を後にした。
短いですが、次から回想が入るので…