1-2
騒動の場から幾分離れ、通りから1、2本横道に入ったところで二人は足を止めた。
「大丈夫か?」
多少息は上がっているものの、疲れの色などほとんど見えない彪榮が尋ねる。
対照的に少女は肩を大きく上下させて荒い呼吸を繰り返している。彪榮の問いに対する返答には少々時間を要した。
「えぇ…大丈夫です」
ようやく息を整え終えた少女が顔を上げ、そこで再び彪榮は息を飲むことになる。
見事な碧眼だった。
先ほど離れたところから目にした金髪にも驚いたが、曇りのない透き通った色のそれに、彪榮は束の間目を奪われた。
「助けていただき、ありがとうございました」
少女が礼を口にして頭を下げたところで、彪榮はふと我に返った。
「あぁ…」
そこから特に会話に発展することもなく二人の間に沈黙が流れる。
「それじゃあ、これで」と立ち去れば良いのだが、金髪碧眼の異人というのは多少なりとも興味をひかれるものであり、去るに去れず彪榮は沈黙をやぶって尋ねた。
「あんた、この国の人間じゃないよな。どこから来た?随分流暢にこの国の言葉を話せるようだが」
突然の質問に少女は戸惑い、しかしハッキリと答えた。
「私はアゼリア国から来ました。言葉は、もともとこのあたり一帯の国に興味があって勉強していましたので…」
アゼリア国。どこかで聞いた名だ。
あぁ、そういえば。と彪榮は上司の言葉を思い出した。
(確かそんな名の国との同盟が成り立って、国交が開けたとか言ってたな…)
「それで、あんなところで何してたんだ?」
彪榮は続けた。
「人と一緒だったのですがはぐれてしまって…。こちらには来たばかりで地理もわからないので、人に道を尋ねていたんです」
少女は懐から小さな紙を取り出し彪榮に見せる。その紙には陽朱国の文字で住所が書かれていた。
「この住所のお屋敷に住まわせてもらっています」と少女が補足した。
彪榮は紙と少女の顔を交互に見てから、小さくため息をついた。
根っからの善人というわけではない。しかし異国の地で一人心細そうにしている少女を見過ごせるほど悪人でもなかった。
そして彪榮は住所の場所まで送っていくという申し出を口にした。