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ここはどこだろうか。
大きめの家屋ではあったが薄暗く、どこかからは水が滴る音が聞こえてくる。
周囲を見回すと今はもう使われなくなった、廃材の集積場所のようであった。
この町の地理に明るくないリテンダは、ここが中心街からどれほど離れているのか見当もつかない。だが、市街地から連れられてきてからそう時間は経っていない。
両手を後ろで縛られ、周囲を大柄な男たちに囲まれていた。
リテンダを連れ去ったのは、その中の一人で彼女が陽朱国に来て間もないころに市街で絡んできた男とその連れだった。
その男をのしたのは正確には彪榮だったが、大衆の前で恥をかかされたことを根に持っての行動だった。
「こいつが例の異人の女か」
「ホントに見事な髪だなぁ、おい」
リテンダを品定めするかのような目で見てくる男たちの視線がリテンダは気持ち悪かった。
しばらくすると、小さく音がして家屋の奥から1人の男が現れた。リテンダの周りを囲むいかにも武闘派な男たちとは対照的に、現れた男は中肉中背、しかも見るからに高価な服と装飾品をじゃらじゃらと身につけていた。
その男はリテンダに歩み寄ると周囲の男たちと同様の視線でリテンダを上から下まで見ると、あごに手をかけて自分の方を向かせる。
「なるほど。確かに上玉だ。これならすぐに買い手がつく」
「買い手」という言葉にリテンダは嫌な汗が噴き出した。
何かの資料で読んだことがある。これは「人身売買」だ。多くの国で犯罪行為として認識され禁止されているものの、容認している国や違法に行っているケースは多々あると聞く。
青ざめるリテンダをよそに、男はリテンダから手を離すと懐から小さな袋を取り出し床に投げ出す。
「約束の金だ」
近くにいた男がその中身を確認し「確かに受け取った」と懐にしまう。
「商品はあとで取りに来る。それまでは好きにしろ。ただし、傷をつけてくれるなよ。価値が下がる」
そう言ってその場をあとにしようとする男が不気味に微笑むと、相次いで周囲の男たちから下卑た笑いが漏れる。
にじり寄ってくる彼らから逃げる術もなく立ちすくむリテンダに、男の手がかかろうとした時だった。
バキッという大きな音と共に、壁の一部に大きな穴が出来ていた。
「リテンダっ」
その穴のむこうに現れたのは、息せき切った彪榮であった。
「なんだぁ、お前」
突然の乱入者に男たちはすぐさま臨戦態勢に入る。
「お前、あの時の!!」
衆目の前で彪榮にやられた男は鼻息を荒くし、男たちの中で誰よりも早く彪榮に向かって突進していった。
彪榮は軽やかにそれをかわすと、男の背に回し蹴りをくらわせる。男は自分の勢いもあって顔面から壁に突っ込み、彪榮が蹴り破った隣にもう一つ穴を開けると、そのままのびてしまった。
一瞬の出来事過ぎて呆気にとられていた他の男たちも、すぐに我に返ると一気に彪榮へ殴りかかった。
男たちは容赦なく彪榮に拳を繰り出すが、豪快で大ぶりな動きとは対照的に彪栄は最小限の動きでそれらをかわしては男たちの急所を狙って蹴りや突きを入れていく。
1人、また1人と戦闘不能になっていくものの、彪榮1人に対して敵の数が多すぎた。分が悪いとみた1人が応援を呼びに行くのを防ぐことかなわず、気づけば最初の6,7人の敵が今や20数人へと増えていた。
「さすがに厳しいな…」
ぐるりと周りを囲まれ、彪榮が敵と間合いをはかっていると、小さくリテンダの悲鳴が聞こえた。敵に集中していた意識をそちらに向けると、金を払った男がリテンダをこの場から連れ出そうとしているところだった。
「やめろっ」
彪榮が敵との間合いを躊躇なく詰めようとすると、男はリテンダに刃物を突きつける。
「動くな!!こいつがどうなってもいいのか?」
その言葉に彪榮はぐっと足に力を込めて踏みとどまる。
彪榮が大人しく動かないのを見ると、男はそのままリテンダを連れて行こうとする。
まただ。
また同じことの繰り返しだ。
状況の悪さは言い訳にはならない。
不利にならないため気転をきかせる余地はあったはずだ。
それをしなかったのは己の落ち度だ。
(また、守れないのか…?)
彪榮が、血が出るのではないかというほど強く唇を噛みしめたときだった。家屋に近づく足音が聞こえてきた。それも大勢。
「来たか。全く…たった1人にてこずりやがって。だがこれで…」
更なる応援の到着にほくそ笑む男だったが、ナイフを持った手を後ろからガシリとつかまれて、ようやく異変に気付く。
「一件落着ってか…?悪いがそれはこちらのセリフだな」
その声に、彪榮はハッと顔を上げた。
「伯楽!!」
現れたのは伯楽とその部下数名だった。
「まったく、お前は1人で突っ込むところは成長しないな。ホラよ!」
空いた方の手で伯楽は彪榮の長棒を投げてよこす。
「こちらは気にするな。さっさとそいつらを片付けろ」
彪榮が相手にしようとしている敵は20人強。しかし、伯楽及びその部下は加勢しようとする動きを見せない。
「ふん、たった1人であれだけの人数を相手になどできるはずなかろう」
圧倒的な人数差に己の勝ちを未だ信じる男だったが、彪栄の一振りで一気にその顔は青ざめるのだった。
今日1日ずっと小説を書いてました///
しかし、進みはあまり良くない…orz
でもそろそろ第二章終わりです~
彪榮やリテンダの絵をまた描いたのですが
スキャナーが壊れてしまったので載せられない…(泣)




