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第1章
金髪碧眼の少女、陽朱国に来。
ここ陽朱国は連日晴天続きであった。その中でも今日は一番の快晴。
「おい嬢ちゃん。ぶつかっといて謝罪の一言もねぇとはどういうことだ?」
いかにもチンピラが使いそうな常套句である。昼間の、それも晴天下には似つかわしくない下卑た声が大勢の人でにぎわう市中に響いた。その声の主は見た目もチンピラそのものといった、がたいの良い男だ。
「なんですか」
その男が行く手を阻むようにして言い寄っているのは一人の少女。少女、と判断できるのは背格好と男が「嬢ちゃん」と呼んだこと、そして声からのみだった。何せその少女―と思われる人物―は頭から足元までをすっぽりと覆う外套を身につけていたのだ。
「ぶつかってきたのはそちらじゃないですか。私が謝るのは…えっと、“お門違い”です」
あぁ、やってしまった。
彼らを遠巻きに見守っていた誰もが思っただろう。彪榮もその中の一人だった。
逆効果だ。怒らせてしまったに違いない。
今日の仕事が終わり、なんとなく市中の出店が並ぶ通りをぶらついていた。もちろん、このようないざこざが怒るのは珍しくない。大抵は絡まれた相手が要求されるままに金を払うため大事にならないが、今回はどうやらそうもいかないらしい。しかも相手は女ときた。
そこまで強い正義感があるわけではない。しかしここで見過ごしたのではどうにも後味が悪すぎる。
「あぁ?随分生意気な口きくじゃねぇか、嬢ちゃん。隠してないでそのツラ見せてみろよ」
そうこうしているうちに男が乱暴に少女の外套に手をかけた。
いけない。
相手が女とはいえ、いつ男が手を出してもおかしくない状況に焦った彪榮は足を踏み出そうとして、少女の頭を覆っていた外套が外れると同時に踏みとどまった。
「ほぅ…」
男が感嘆の声を上げた。彼らを見守る群衆も息を飲み、次いでどよめきが広がる。
外套の下から現れたのは、陽朱国では滅多に見ることのない金色の髪。
「珍しいな…。異国の者か」
男がしげしげと眺め、その髪に触れようとしたその手を少女は強く払いのけた。
周囲が今度は別の意味で息を飲んだ。
怒りの色が男の顔にハッキリと浮かぶ。
「なめたマネしてくれるじゃねぇか。女の…しかも異人の分際で…っ」
「…っ!」
男は綺麗に結わえられた少女の髪を無造作に鷲づかみにし、もう片方の手で懐からナイフを取り出し、脅すように少女の顔の前にちらつかせる。
「謝らねぇ、金も払わねぇってんなら、代わりにこの髪切り落として売りに出してやるよ!珍しい髪だ。かもじにして売りゃ高く売れるだろうよ!」
今度こそ彪榮はその足で地面を強く蹴り出すと、一気に二人のもとまで間合いを詰める。ナイフを握った男の手をつかみ、何事かと視線をよこした男の顔をもう片方の手で殴りつける。
突然の衝撃に少女の髪からその手が離れ、うめき声をあげてよろける男。そのまま倒れなかったのは、がたいが良いだけあってそこそこに鍛えているからだろう。
「うぅっ…テメェ!なにしやがる!」
男はすぐさま反撃に転じナイフを彪榮に向かって突き出す。彪榮はそれを身を低くして避けると間髪入れずにその姿勢から足払いをかける。前重心になっていた男の巨体はいとも簡単に地に伏す形で倒れた。
「来い!」
男の手から解放されたものの、呆然と立ち尽くしたままの少女の手を取ると彪榮は群衆の中に突っ込んだ。
友達に触発(?)されて妄想を形にすることにしました(笑)
勢いで書き始めたので設定もあまりしっかりしていません。
更新停滞が予想される上に、ちゃんと完結するかも謎な小説ですが、宜しければどうぞ