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2-3

挿絵(By みてみん)


 その日、珍しくリテンダ長屋に来なかった。いつも紅桓が事前に迎えに行く時間を伝えていて、リテンダはその時間には必ず秋瑾宅の門の外に居たのだが、今日はいつまでたっても現れなかった。

 勝手に一人で市街へ出て迷ったのかとも思い、紅桓が街の人に聞いてみるもリテンダらしき人物を見たという人はおらず、目立つ容姿であるために目撃情報がないのならと、一人で街へ出たという線は消えた。

 いつものように仕事帰りに長屋に寄った彪榮はその旨を紅桓から聞いて、リテンダに何かあったのかと不安がよぎった。だが確かにあの日自分はリテンダを屋敷まで送り届けたし、聡明な彼女が夜に一人で出歩くとは思えなかった。第一、リテンダに何かあったのなら政府庁は大騒ぎ間違いなしだ。例え彼女の正体を一部の者しか知らずとも伯楽を通して彪栄に伝わることは確実だ。

 心配する藍華や緑華に「きっと何か急な用事が出来たんだよ」と、そして明日の仕事の帰りに屋敷によって様子を見てくることを約束した。


 翌日、仕事を終えて帰ろうとしていた彪榮のところに伯楽が現れた。

「なんだ、伯楽。悪いけど今日は急いでるんだ。話なら明日に…」

「待て、別に大した用件じゃないんだ。すぐ終わる」

 すぐにでも官舎を出ていきたいところだったが、伯楽に前回のようなからかう仕草が見られないため、彪栄は伯楽に向き直る。伯楽はふざけたところがあるが、自分がこなす仕事に関しては真面目だった。部下に押し付けるような些末な仕事については大雑把なのが玉に傷だが。

「あの姫様の護衛の件で、護衛役を変えてくれと秋瑾殿から頼まれたぞ」

「え…」

寝耳に水であった。驚きで二の句が次げない。

「お前、断ってなかったんだな。というか、向こうから断られるなんて…お前、姫様に何かしたんじゃないだろうな」

「するか馬鹿!!」

 思ったよりも大きな声が出て、伯楽はもとより彪榮自身も驚いた。そして彪栄はすぐに伯楽に食ってかかる。

「それ、いつ言われたんだ?」

 急に血相を変えた彪榮の剣幕に伯楽は少したじろいで答える。

「ついさっき礼部の官舎でだよ。今その帰りだ」

「リテンダ…。皇女も一緒だったのか?」

「あぁ、なんでも姫様の希望だとかで。詳しくは教えてもらえなかったが…っておい、彪榮!?」

 伯楽が話し終わる前に彪榮は兵部の官舎を飛び出していた。

 礼部官舎にたどり着き、近くの人を呼び止めて秋瑾の居場所を聞くと、15分ほど前に官舎を後にしたと言われ、再び彪榮は踵をかえして秋瑾宅へと走り出す。

 

秋瑾とリテンダが屋敷の門をくぐろうとしたところで、彪栄は2人に追いついた。

「リテンダ!!」

 突然名を呼ばれたことと、ここに彪栄がいることに驚いた表情をみせるリテンダ。

「おや、彪榮殿。どうかしましたか?」

 彪榮の急ぎぶりに秋瑾が尋ねるが、彪栄はその秋瑾の声には見向きもせず、はずませた息も整えないまま目の前のリテンダにくってかかる。

「護衛の件、断ったって…?なんでっ…!俺は、なにも…」

彪榮の勢いに気おされながら「あの…」と言葉を濁すリテンダ。

しばらくの沈黙の後、秋瑾が口を開いた。

「どうやらお二人の間に齟齬があるようですね」

 先ほど彪栄に無視されたことは気にもとめていない様子で言う。

「お二人で落ち着いて話をされてはどうですか?部屋をお貸ししますよ」

 そう言って屋敷へと向かっていく秋瑾。彪栄とリテンダは互いに顔を見合わせるとその後を追った。


 応接室に通された彪栄とリテンダだが、お互いに何をどう話し出したら良いかわからずに沈黙が続く。

 リテンダはさきほど彪栄にまくしたてられたこともあって萎縮してしまっている。彪榮もそれが分かり、ガシガシと頭を掻いて罰が悪そうに言う。

「あー…。さっきは悪かったよ」

 そこでようやくリテンダが顔を上げる。

「怒ってるわけじゃないんだ。責めるつもりもない。ただ、理由を聞きたい」

 まっすぐな視線を向けられたリテンダは、その視線から逃げるように視線を膝の上に置かれた自分の手に移し、話し始める。

「子どもたちのことが、あると思って…」

 そこで彪栄は首を傾げる。

 まさか護衛の話をしに来て真っ先に子どもたちの話が出てくるとは思っていなかったからだ。

「私付きの護衛になるということは、国外に赴くときの同伴も必然になります」

 そこでリテンダが子どもたちを話に出した理由が分かった。

「今回の華桜国は隣国なので往復で約10日ですが、他国に赴くのは今回だけではありません。長ければ2,3カ月も陽朱国に戻らないかもしれません。その間あの子たちの面倒をみられないのは、あなたのご迷惑になるのでは…と。勝手ながら私の方から護衛の件を断らせていただきました」

「俺は、別に迷惑だなんて思って…っ!」

 身を乗り出した彪榮だったが、その先の言葉は続かなかった。

 何を言っているんだ、俺は。

 護衛の件を断りたかったのではないか。

 だとしたら都合が良いはずなのだ。

 なのに、なぜこんなにもムシャクシャしているのだろうか。

 彪榮はそれ以上何を言って良いかわからず、ただ「そうか」と呟くだけだった。

「勝手にお断りして申し訳ありませんでした」

「いや、俺もまくしたてて悪かったな…」

 再度リテンダが謝ると、互いにもう言葉が尽き、彪栄は秋瑾宅を後にした。


2か月も経ってしまった…

いや、色々と忙しいんですよ。

現在進行形で。


あとイラストは藍華と緑華のつもりです。

紅桓のビジュアルはまだちゃんと決まっていないのでいずれ…


後期が終わる2月までは亀の歩みでの更新になります。

3月は(多分)暇なので結構更新できるのでは…と思ってます。

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