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第二章 旅は道連れ

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)


 その日、全ての仕事を終えた彪榮はいつも通り長屋の子どもたちのところへ向かおうとしていた。だが兵部の官舎を出る寸前で伯楽が後ろからいきなり肩に腕を回してきた。

「重い…」

 ただでさえ仕事で疲れているというのに。

「彪榮、最近お前が若い女を囲ってるって専らの噂だぞ」

 開口一番に何を言い出すのやら。にやにやと笑みを浮かべた伯楽を一瞥すると、彪栄は何も言わずにその腕をすり抜けてスタスタと歩き出す。

「おいおい、待て待て」

 その後を伯楽が追いかけてきて、彪栄の横に並んで歩き出す。

「言っておくが、俺が流したんじゃないぞ。例の姫様だろ。秋瑾殿が話を持ってきたときに一度目にしたが、国交が開けたから港地区ならまだしも、このあたりじゃあの容姿は目立つからなぁ…。そういえば秋瑾殿からまだ連絡はないが、護衛の話引き受けたのか?」

 伯楽の話には無視を決め込もうと思っていた彪榮だったが、さすがに最後の内容は無視できる話ではなかった。

「いや…」

「なんだ、断ったのか?」

 その問いに彪栄は沈黙を貫く。

 承諾はしていない。むしろ断るつもりだった。

 だが、その決意が鈍った。

 その沈黙を伯楽は彪栄が護衛の話を断ったと取ったのだろうか、彪榮の肩にポンと手を置く。

「せっかくの大任だが、まぁいいさ。だが、お前はもっと自信を持っていいと思うぞ。…難しいことだとは思うがな」

 そして伯楽は身を翻すと、今来た道を戻っていった。

 

 長屋への道すがら、彪榮は考える。

(伯楽にはお見通しか…)

 なぜ護衛の話を引き受けないのか。

 簡単だ。自信がないのだ。

 己の力で人の命を守ることが出来るのか。

 出来なかったとき、あの絶望を再び味わうのが怖い。

 だがそんな理由を口にすることは憚られるため、子どもたちの存在を理由に逃げようとしている自分がいる。

 子どもたちは彪栄がいなくても生きていけるだろう。

 だが自分はまだ子どもたちの小さな命を守れているという現実に浸っていたいのだ。

 けれど、自分の話を笑わずに聞いて情けない自分を肯定してくれた彼女を、どこか抜けているあのお姫様を放っておけないと思うのも、彪栄の決意を鈍らせている原因の一つだった。

 そうこうしているうちに長屋に着き、その扉を開ける。

 するといつもの様に真っ先に緑華が、それに続いて藍華が彪榮のもとに駆け寄る。それから、

「お疲れ様です」

と、リテンダが声をかけてくる。

 あれ以来、リテンダはほぼ毎日のようにこの長屋に顔を出すようになった。

 すっかりリテンダに懐いた藍華と緑華がまたリテンダと遊ぶことを望んだのだ。

 表向きだけ外交官の彼女は、特に仕事を与えられることもなくただ日がな一日秋瑾宅で過ごすか街に繰り出すか―かなりの高確率で迷子になるが…―のいずれかという手持無沙汰な毎日を過ごしていた。そのため、姉のように自分を慕う藍華と緑華との交流をリテンダも快く受け入れ、一日の大半を長屋で過ごすようになったのだ。

 極度の方向音痴の彼女が毎日長屋に来られているのは、仕事の始まる前かその合間に紅桓が迎えに行っているからだった。道を覚えたと言うので一度迎えに行かなかったら、案の定迷子になり、仕事中の紅桓が偶然リテンダを見つけて保護するに至った。最近になって「もう大丈夫です、完璧に道を覚えました」と言い出しているが、どうにも信用できないので、相変わらず紅桓が迎えに行っている。紅桓も「面倒くさい」と愚痴りながらも、リテンダを迎えに行くあたり、彼女のことを気に入っているのだと彪榮には察しがついた。

 彪栄が長屋に着くとすでに夕食もその片づけも終わっていて、いつものことながら藍華と緑華がリテンダと戯れていたところだったようだ。紅桓は疲れていたのか、長屋の奥ですでに寝てしまっていた。

 リテンダが来るまでは、彪栄が来る前に紅桓が寝ていることなどなかった。幼い姉妹を守る立場にあることを紅桓は自ずと分かっていたのか。それがこうして姉妹の面倒をリテンダに託しているところをみると、やはり彼女に気を許し信頼している証であろう。

「いつも悪いな」

 足元にまとわりつく姉妹に寝る支度を促してから彪栄はリテンダに向き合った。

「いいえ、私も毎日楽しいので」

 その笑顔と言葉に偽りはないようで、彪栄はリテンダの迷惑になっていないことに安堵する。

「…兄貴?」

 小声で話していたが、物音や人の気配で目が覚めてしまったのか紅桓がむくりと起きだす。

「悪い、起こしたか」

「ううん、大丈夫」

「今日は遅かったからもう帰る。あとは頼むな」

「わかってる。兄貴こそ、そいつをよろしく」

 そいつ、とは無論リテンダのことだ。迎えに行くのが紅桓の役目で、送り届けるのが彪榮の役目である。

「あぁ、それじゃまた明日な」

「また明日」

 まだ少し寝ぼけ眼の紅桓の横で「バイバイ。彪榮にぃ、お姉ちゃん」と藍華と緑華が手を振って送り出してくれた。


久しぶりの投稿…

学校が始まり、部活の大会があり…と忙しかったです。

で、また1ヶ月後に大会だから忙しくなる(汗)


2章突入~

構想が全然できてないけど(^p^)


透明水彩にハマっていて

リテンダと彪榮を描いてみました。

「さぁ行きましょう!」

「いや、そっちは今来た道だぞ…」

みたいな(^p^)


次は藍華と緑華を描きます!!

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