1-13
背中に火傷の跡が残ってしまう以外は、姉妹の体調は順調に回復した。
伯楽の配慮もあり、彪榮は兵部の仕事を休んでしばらくの間2人の世話をすることを許された。最初は彪榮のことを不審がる態度を見せたが、世話をするうちにそれもなくなり、毎朝病室に顔を出すたびに笑顔を見せるようになった。
姉は藍華、妹は緑華といい、妹に先んじて動き回れるようになった藍華は緑華の面倒をよくみる良い姉であった。緑華は人懐こいが寂しがり屋で、常に藍華か彪榮に傍についていてもらいたがり、懐いてからは夜病室から帰ろうとする彪榮に「帰らないで」と駄々をこねて困らせることもあった。
そうして2人が不自由なく動き回れるようになると、重大な問題が待っていた。
2人の今後についてである。
同じ村の者で助かった者たちは家を失い、生活が成り立つまでは政府の援助があるとはいえ子ども2人を養えるほどの余裕はなかった。
陽朱国は孤児などの生活に苦しむ子どもへの対処は充実していなかった。そのため孤児院のような施設はなく、地道に養い親となってくれるものを探すしかなかった。
伯楽と兵部の者があーだこーだと話しながら頭を悩ませているのを見ていた彪榮だったが、自分の傍らで雰囲気を察した藍華と緑華が不安そうな顔で彪榮を見上げ、服の裾を掴んでくると、彪榮は意を決したかのように兼ねてから考えていた案を口にした。
「俺が面倒をみる」
その言葉に藍華と緑華は顔を綻ばせたが、ぎょっとしたのは伯楽以外の兵部の者たちだった。
ちゃんと面倒が見れるのか。
大変だからやめておけ。
反対意見はどれも似たり寄ったりだった。その中で伯楽だけが何も言わずに彪榮の顔から眼を離さず、その決意がいかほどのものであるか推し測っているようであった。
「できるのか」
伯楽のその一言でその場が一気に静まり返った。藍華と緑華も笑みを消して再び不安そうに彪榮の服の裾をぎゅっと掴む。
たった16,17の若造が子供の面倒を見ることがいかに大変か。まして政府庁勤めの彪榮が1日中2人の面倒を見てやることは不可能だ。
そうした諸々の条件を鑑みたうえでの質問だという事は伯楽の口調から察せられた。
だが、彪榮の決意も堅かった。
「やってみせる」
その決意を悟った伯楽は「時々変に強情だな」と笑みを漏らすと「言っておくが仕事を減らしたりはしないぞ」と釘を刺しただけで、それ以上は何も言わなかった。
その伯楽の表情を見て藍華と緑華も安堵すると同時に彪榮の足元に抱きついた。
そうして空家になっていた現在の長屋に2人を住まわせて面倒をみることにしたが、2人の面倒を見るのは予想した通り大変だった。何せ当時藍華は7つ、緑華は4つになったばかり。
すでにしっかりしていた藍華は緑華の面倒を良くみたが、毎日の食事や諸々の家事は彪榮がしなければならなかったし、しっかりしているとはいえまだ7つの藍華と緑華は夜が不安で、彪榮は兵部からの帰りに長屋に寄ってそのままそこで夜を明かしてまた朝兵部へ赴くという生活を繰り返し、ほとんど宿舎には帰らなかった。
それを嘲笑する者もいたが、彪榮は決して2人を見限ることはなかった。
伯楽は宣言通り仕事の量を減らしたりはしなかったが、いつ倒れてもおかしくない彪榮を見かねて助けてくれる者もいた。伯楽はそれを「甘い」と言ったが止めることはなかった。
緑華が段々と2人の手を離れてくると彪榮は藍華に少ずつ家事を教え、要領のいい藍華はそれをすぐに覚えていった。だがまだ夜何があるかの不安は消えなかった。
そして彪榮が2人の面倒を見だして1年と少しが過ぎた頃に長屋住まいに紅桓が増え、当時まだ11歳だったが腕っぷしはそこそこだったので、長屋の夜を紅桓に任せられるようになると、彪榮は今のように兵部の帰りや非番の日に顔を出すだけで済むようになった。
これで回想は終了ですかね。
次で一章が終わって二章に突入ですかね。
まぁド素人なんで、一章とか二章とかテキトーなんですが(^-^;)
この回想編を二章にしても良かったかな~…なんて(笑)
大分登場人物が増えた(?)ので登場人物紹介のページも作る予定です。




