45 お姉ちゃん
ディラックとどうしてもと言い張ったフリードリヒ(ディラックの方が根負けした)がようやく突き止めたドミニゴのアジトに駆けつけると、シュレイドに肩を支えられたエリシアが館の前に立っていた。
「エリシア!?」
彼女の姿を認めた途端、フリードリヒが全力で駆け出した。シュレイドから奪い取るようにしてエリシアを抱きしめ、かすれた声でよかったと呟く。
「無事で、よかった……!」
自身を警戒して剣を構えたディラックをちらりと見やり、「シュレイド」はぽんとエリシアの頭に手を乗せた。
「お迎えがきてよかったね。僕は向こうに行くよ」
そう言ってくるりと踏を返した「シュレイド」を、エリシアが呼び止める。
「あの……! 私、いろいろあったけど……、貴方のこと、どうしても憎めません!」
驚いたように振り返ったシュレイド──ではない誰かが、口元に小さな笑みを浮かべてエリシアの髪をなでた。
「いい子だね、君は。君も祈ってあげて。──あと、五分しかないんだ」
何を言われているのかわからなかった。けれど、ソークルージュが不安げな目をしている気がして、エリシアはこくりとうなずく。
「キリエは?」
「まだ、あの中に。──何があっても、動いてはいけない」
信じて待つんだ。
自分に言い聞かせるように呟いて、彼は館に目を向けた。
そして、何も変化がないまま数分後。館のあちこちが大きな爆発音と共に崩れ始める。
思わず館に向けて走り出そうとしたディラック達に、鋭い声が飛ぶ。
「動くな! 今行っても死ぬだけだ!」
そうして彼は、絞り出すように呟いた。
「……リーが、死ぬはずない……!」
その時、目を見開いたまま呆然と目の前の光景を見つめていたエリシアが、かたかたと小さく震え始めた。
「い……や……」
「エリシア様?」
具合でも悪いのかとディラックが声をかけても、彼女はうわごとのように繰り返すだけ。
「嫌よ……そんな、嫌…………いや……」
ふらりと前に出たエリシアに異変を感じ、フリードリヒがその肩をつかむ。
エリシアが激しく抵抗した。
「放して!」
「駄目だ」
「放してってば!」
「駄目だ!」
背後から腕を回して封じこめ、フリードリヒが語気を荒げたその時、燃え始めていた館が轟音と共に崩れ落ちた。
ディラックが動けなくなる。
ソークルージュが拳を握る。
フリードリヒが血がにじむほどに唇を噛みしめ、エリシアは大きく目を見開いた。
彼女の瞳は虚ろで、唇がわなわなと震えていた。
「──っ、嫌ああああああああ!」
「エリシア、落ちつけ!」
「おね……お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃんが!!」