16/57
閑話4
ようやく情報が届いたか、と〈彼〉はため息をついた。
手際が悪すぎる。
どのような目くらましをされたのかはわからないが、ターゲットの位置を把握するのに時間がかかりすぎだ。
後で情報収集役を洗い出そうと思いつつ、〈彼〉はローブを纏う。
灰色の衣は、〈彼〉の容姿を完全に隠した。唯一見える口元は、無表情に引き結ばれている。
手元の剣の刃を、もう一度確認する。刃こぼれ一つないそれは、微かな光にも充分反射してきらりと輝いた。
それに満足そうにうなずき、ついで興味深い女を思い出す。
あの細い身体のどこから、あんな力が出てくるのか。あれだけのスピードを保ちつつ、かつ剣技で駒達に劣ることもない。空色の髪が印象的だったと、刃に反射する己を見つつ思い出す。
──おもしろい。
このくだらない戯曲の中で、唯一楽しめそうな相手。
台風の目のような、そこにいるだけでこちらの描いた展開を覆す存在。
久々に退屈せずにいられそうだ。
くつり、と喉を鳴らし、〈彼〉は廊下へ一歩踏み出した。