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10 おっさん傭兵のありがたい手助け

「大丈夫か?」



 ドミニゴの刺客を蹴散らすようにして現れた男は、傷だらけのディラックの方を向いてそう尋ねた。

 その腕にはキリエがすっぽりと収まっている。



「は──はい。俺は。ただ、そいつが……」

「ああ」



 苦々しげにうなずいた男は、血で汚れたキリエの顔を覗きこんだ。



「……ったく、まだガキだってのに無茶しやがって」

「全くです」



 ディラック、心から同意。そして同時に、この男に疑問を抱いた。


 突然現れた男。気配を読むことすらできなかった。

 いくら戦闘中であったとはいえ、気配を読めないほど、ディラックは愚鈍ではない。



「あなたは、どうしてここに?」

「んー? まあ、偶然だな。ここの屋敷に雇われてる傭兵だよ」

「あなたが……。ありがとうございます、助かりました」



 あれだけいたドミニゴを、彼はほんの僅かな時間で退けてしまった。その強さに畏怖しつつ、ディラックは心からの感謝を述べる。

 それに軽く笑った男は、苦笑して片手を差し出した。



「俺はコリン。お前は?」

「ディラック。そっちはキリエです」

「ディラックにキリエ、か……。エムスの傭兵だな?」

「はい」

「さすがだ。かなり前から見ていたが、動きのキレがいい」



 まさか観察されていたとは思いもよらず、ディラックの顔に動揺が走る。しかしそれよりも、あの強さを持つコリンに認めてもらえた喜びの方が勝った。

 勝ったが、今は何よりもキリエの手当てだ。



「光栄です。──キリエの治療をしなければならないので、失礼します」



 そう言って近づいたディラックに、コリンは軽く笑う。



「俺、エムスのよりいい薬持ってるぞ。薬草マニアの奴がいてな、そいつの薬がまたよく効くんだ」



 エムスの傭兵にも好評だったと聞いて、ディラックは男の言葉の真実味とキリエの容態を内心で天秤にかけた。

 ──今は藁に縋ってでも、一刻も早くキリエを治したい。



「お願いします」

「おう。んじゃ、仲間を呼び戻してくっから、そいつを西棟の二階、奥から三番目の部屋に連れてってくれ」

「はい」









 小走りにキリエを連れて行ったディラックは、コリンの「仲間」の美人さと、その薬に対する知識の豊富さに対して、舌を巻く事になった。


 余計な調度品が一つもない、こざっぱりとした室内。無造作に置かれているトランクが存在感を主張している。

 二人にあてがわれた部屋には見栄えの良い調度品があちらこちらにあったから、おそらくは彼らの判断で引き払われたのだろう。


 戦闘になっても不利にならない、計算された絶妙の配置。彼らの能力の高さが伺えた。



「突然すみません、ディラックと言います。相棒(パートナー)はキリエと言うのですが……」

「初めまして、クリュートです。その相棒(パートナー)の方が怪我をされているとか」



 色白美人の女にしか見えない傭兵は、心配そうに眉を顰める。その横で、どこか狼を連想させるような男も舌打ちをした。ベッドに沈んだキリエを見る表情は苦々しい。



「こいつ、無茶してたよなあ。あんな猪突娘の相方じゃ、お前も大変だろ」

「はい」



 苦笑したディラックに、クリュートが小さな小瓶を渡す。中には軟膏が収められていた。



「こちらを使ってください。足りなくなったらまた来ていただければ、お分けできますので」

「ありがとうございます」



 一礼してコリン達の部屋を出たディラックは、細く息を吐き出した。扉の向こうに気づかれないように、細心の注意を払って。腕に抱えたキリエの体温が、やけに安心できた。



 彼らの空気、あれは只者ではない。

 相当の手練だ。


 あの場にいるだけで息が詰まるような、そんなプレッシャーを感じた。



 侯爵もずいぶんと腕のいい傭兵を雇ったものだ。

 そして、そんな傭兵のいる場所へ訪れた自分達の巡り合わせに、ディラックは密かに感謝した。

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