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8 展示会

 翌日、佐倉が案内してくれた店は確かに私が好きになる店だった。その店の名物はドラゴンサラダ。ドラゴンとは他界したスーパースター、ブルース・リーのことで私は大ファンだった。このドラゴンサラダを注文すると映画『燃えよドラゴン』のテーマが店内に流れるのだ。サラダは特に変わったものではなかったが三人分は楽にあった。佐倉はこれを面白がって三度も注文した。男が三人いて良かったと思った。私が伴った友人はその日の飲み会を大変喜んだ。佐倉が言うところのモデルも意外と暇らしく月に何度か同じ顔触れで飲むことが増えた。そんな賑やかなことが常習化する一方で社内では営業部長の横領が発覚しその調査は私に依頼された。部長の不始末の後片付けで私は飲み会どころではなくなっていた。部長が担当していた全国に散らばる取引先への対応で私の出張は頻繁になり東京を留守にする日が増えた。

 私が四国の取引先を廻って会社に戻った日も毎度の噂が頻発していた。しかし、その中に私の部長昇格なる噂があったことに驚かされた。この噂は社外にも飛び火して取引先から気の早いお祝いまでいただいた。辞令もない昇格の噂はいつの間にか佐倉の耳にも届いていたらしく当然美人マネージャーにも達していた。自ら噂を否定してもその噂に付いた尾ひれはすざましくトッピングされた根拠は猛スピードで波紋の輪を広げていった。

 噂がどうであれ日常の業務が変わることはない。噂の渦中にあっても私は淡々と日々の業務に精励していた。部長不在のまま数週間が過ぎ夏真っ盛りを迎えた。社内では冬の展示会準備が始まり部長昇進の噂も下火となっていった。

 展示会の前日を迎えると営業部員たちは来社予定の確認に追われていた。私も取引先の来社予定を書類にまとめ新規取引で来社する美人マネージャーにも連絡をいれた。美人マネージャーは佐倉を伴って来社することになった。営業部の男たちは美人マネージャーの来社予定を喜び、他の部署の女子社員たちは佐倉の来社予定に歓喜した。しかし喜びだけだはなかったのだ。人気者の来社を知らされた社員たちが驚くことになったのは来社当日のことだった。

 展示会の初日は慌ただしく時間が過ぎた。私は来訪者たちの対応に追われ佐倉や美人マネージャーのことなど忘れかけていた。しかし当人たちが登場すると社員たちの熱気が私にも届いた。過剰な歓迎ぶりが歓声を呼びショールームが歓喜に包まれた。佐倉は到着早々私の元にやってきて終業後に時間をとれないかと聞いてきた。

「何かあるのか?」私は佐倉に聞いた。

「実はマネージャーのことで相談したいことがあるんですよね。それと私も仕事辞めちゃうのでそのことも話したいんですよ」

「またインドに行くのか?」

「それはまた後で」佐倉は美人マネージャーの元に戻った。展示会の最中でも気がかりを持ち込む佐倉はやはりただ者ではなかった。


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