6 宴
その日の夜は一年のイベントをまとめたような賑わいだった。企画チーフが案内してくれた店は佐倉が選んだエスニック調の飲み屋だった。到着すると佐倉が受付をしていた。来店者にビンゴのカードを配っていた。総勢百名を超える出席者は佐倉を知る者ばかりだった。驚くべき人気者だったことを思い知らされた。佐倉はこの日に備えて店の手配もパーティの段取りも済ませていた。まさに遊びの達人だった。彼女が水曜日を指定したのはこのパーティを予定していたからだったのだ。彼女は来客の全てに愛嬌を振りまいてにわかカップルを次々と誕生させていった。その佐倉が私の元に現れた時一人の女性を伴っていた。
「ご紹介します。こちらは私の上司です」佐倉は伴った小柄の美女を私に紹介した。
「こちらは私の元上司です」今度は佐倉が私を紹介した。
「約束通りご紹介しましたよ。後はちょちょいとやっつけちゃってください」佐倉は紹介が終わるとまた別のカップルを作りに行ってしまった。私は紹介された女性に名刺を渡した。彼女も名刺をくれた。肩書きはマネージャーだった。
「私が仕入れをしていますから今度お店に来られる時は私を訪ねて下さいね」彼女は男が魅惑的と思う笑みを知っていた。私は一目惚れをするようなことはなかったが彼女は大半の男を魅了する術を心得ていたようだった。私は彼女とパーティが終わるまで話しをしていたはずだったのに内容のない会話で終始した。私が彼女の店を訪れる予定を話したことだけが実を結ぶ唯一の内容だった。その時の私にとってそれは新規取引先とのアポイントメントにすぎないはずだった。恋愛の予感などあろうはずもなかった。しかし佐倉が仕組んだ出会いは私の思惑を超えていた。その晩の宴は佐倉の陽気な挨拶で幕を閉じた。春が初夏の装いを整え始めるように社内の恋愛熱も季節に沿ってその温度を上げていった。望んで落ちる恋もあればその期待すらないまま渦中にいることもある。佐倉は帰国ついでに周囲に恋愛熱を注いでいった。それを幸運に変えられた者がどれほどいたかは私にはわからなかった。分かっていたのは私が幸運を掴んだということだった。