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4 予感

 佐倉が私に気づいたのは休憩で店外に出ようとした時だった。

「あっ!ご無沙汰です」佐倉は私に声をかけてきた。

「久しぶりだね。インドはどうだった?」私は挨拶代わりに聞いた。

「思ったほど楽しくなかったです。向こうで出逢った男に惚れちゃったんですけどフラれちゃいました」佐倉は舌を出して自分のおでこを左手で叩いた。

「それは残念だったね」私は無難な言葉を選んで言った。

「残念どころかラッキーでした」

「そうなのかい」

「最低でしたよ。私がすることをいちいち聞いてくるんですよ。鬱陶しいったらありゃしないですよ」

「気になるからだろう」

「気にするなって言いたいですね。デートにちょっと遅れたぐらいで不機嫌になるんですから疲れちゃいますよね」

「時間に遅れるのはまずいよね」

「あっ、そうですね。それはそうです。でも私って絵を描き始めると他のことはすっ飛んじゃうんですよ。だからたまにデートすっぽかしたりしちゃうんです」

「それは怒るよね」

「そうですよねぇ。でもいいんです。ちょっとだけ恋愛気分に浸りましたからね」

「ならいいけど」私にはどうでも良いことだった。

「そういえば、みんな元気ですか?」佐倉は昔の同僚たちについて聞いてきた。会話の繋ぎのようにも思えたが私にとってはありがたかった。

「みんな君のことを気にしているよ」最も肝心なことを私は佐倉に告げた。

「本当ですか?忘れられたかと思っていましたよ」佐倉は意外そうだった。

「みんな会いたがると思うけどな」私は社内ウケも考えて佐倉に再会を促した。

「はぁ…」佐倉はため息混じりで答えた。佐倉自身は再会に興味がなさそうだった。

「時間がある時に会社に遊びに来いよ」私は社交辞令のつもりで言った。

「いいですね。たまには渋谷も悪くないよなぁ」佐倉の言葉はほとんど独り言になっていた。目の前の私よりも頭の中で映しだされる渋谷の光景に関心があったようだった。私には佐倉の元恋人の心労が容易に窺えた。

「今度の水曜日に行きます。お昼頃でいいですか?」佐倉は勝手に予定を決めていた。私は楽しみにしていると答えた。しかし楽しみより波乱が待ち受けていそうな気がした。事実その水曜日以降、桜吹雪の如き恋愛ラッシュが始まった。その渦中で私自身も唐突な恋に落ちていった。


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