不審な車と帰宅しない主
向かいの中田さんの家の前に、最近、奇妙な車が停まっている。夜中、19時~20時頃になるとやって来て、そのまま翌朝の8時くらいまで停まっているようだ。真夜中にコンビニに行った時も見かけたから、きっとそうだと思う。
つまり、夜中の間、ずっとその車は中田さんの家の前に駐車している事になる。明らかにおかしい。しかも毎日である。
更に言うと、その不審な車が停まるようになってから、中田さんの姿を見かけなくなってしまったのだ。
その車は太陽電池を屋根に取り付けてあった。電気とガソリンのハイブリッドらしい。車の窓ガラスは色付きで、外からはあまり見えないが、微かに運転席に誰かが座っているのが分かる。
何者だろう?
中田さんとはそれほど親しい訳じゃないけれど、自宅を見れば人となりはそれなりに分かる。家はカードキーで、防犯カメラを設置していて、車庫はリモコン式、太陽電池が屋根に設置してあって、セキュリティ機能付きのメイドロボも購入している。つまりは電子機器の類が好きで、防犯意識も高いらしい。僕はそれを単なる趣味だと思っていたのだけど、そのような不審な車が現れるとなるとそれだけとは思えない。
或いは、危険な立場にいる人で、確りとした警備が必要なのかもしれない。
――そんなある日だった。
夕刻に中田さんの家の前にサラリーマン風の男性がうろついていたのだ。スパイかなにか、犯罪組織、または諜報機関か公安か…… などと思って興味本位で見ていると、不意に話しかけられた。
「あの……、ここって中田さんの家ですよね?」
まさか話しかけられるとは思っていなかったので、僕は大いに焦ってしまった。
「は、はい。そうです」
下手に関わったら何をされるか分からない。ちょっとビビっていると、おずおずとした口調で彼は続けて尋ねて来た。
「ご在宅かどうかはご存知ですかね?」
「さあ? でも、ここしばらく見ていませんから、いないのかもしれません」
「本当ですかぁ? まいったなぁ」
どうにも怪しい人には思えない。演技しているのでなければ、ごく一般的なサラリーマンだ。
「すいません。あなたは……?」
だから僕はそう訊いてみたのだ。すると、
「僕は中田さんの会社の後輩です」
と、あっさりと答えて来た。
「ここ最近、ずっと中田さんは無断欠勤しているのですよ。でも、連絡もなしに休む人じゃない。それで何かあったのじゃないかと僕が自宅に訪ねて来たという訳です」
なんだか不穏な話だ。ただ、諜報員とかではなさそうだ。それで僕は例の不審な車について話してみた。或いは中田さんの行方不明と何か関係があるのかもしれない。
不審な車の話を聞いて、しばらくその人は悩んでいたようだったのだけど、不意に「それ、まずいかもしれません」などと言うのだった。
「警察…… いえ、救急車に直ぐに連絡を! もう遅いかもしれませんけど」
僕は首を傾げた。
「一体、どうしたのです?」
「思い出したんですよ。中田さんが、そろそろ自動運転車を買いたいって言っていたのを!」
――結局、僕らは警察にも救急車にも連絡をした。夕刻だったので、しばらく待つと件の不審な車は中田さんの自宅前にやって来た。警察が中を確認すると、運転席には既に息を引き取った中田さんの姿があった。死因は恐らく心臓麻痺との事だった。
つまりは、こういう事である。
中田さんは自動運転車を買い、それで会社に通勤していた。そして、その最中に心臓麻痺になり、死んでしまったのだ。ところが自動運転車には、どうやら会社から自宅までの道のりが記録されてあり、しかも朝と夕刻に運転するようにタイマーでセットしてあったらしく、中田さんの死後も毎日自宅と会社の間を往復していたのである。
車庫のキーは、中田さんが持っており、自動運転車では入る事ができなかったので、自宅前に朝まで停車していたのだろう。
誰かが乗っているのは薄っすらと見えていたので、無断駐車とは誰も考えなかったのではないだろうか?
まさか死んでるとは思わないだろう。
――新たなテクノロジーが生まれると、新たな種類の珍事件も生まれるものである。




