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追放令嬢のスローライフ。辺境で美食レストランを開いたら、元婚約者が「戻ってきてくれ」と泣きついてきましたが、寡黙な騎士様と幸せなのでお断りします  作者: 緋村ルナ


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第6章:王都の焦りとドワーフの技

『恵みの皿』の噂は、風に乗って遠く王都にまで届いていた。もちろん、私の元婚約者であるカイル王子の耳にも。

「追放した女が、辺境でレストランを開いただと?しかも、連日満員だと?馬鹿な!」

 執務室で報告を受けたカイルは、苛立ちを隠さずに書類を叩きつけた。彼にとって、追放したリナは惨めに朽ち果てていなければならない存在だった。それなのに、楽しげに成功しているなど、許しがたいことだった。

「ユミ、君の『聖なる力』で、あの女に天罰を下すことはできんのか?」

 カイルが隣にいる婚約者、聖女ユミに尋ねる。ユミは困ったように微笑んだ。

「カイル様……私の力は、人々を癒し、大地に恵みを与えるためのものです。誰かを呪うことなんて……」

 その言葉に、カイルはちっと舌打ちをする。そのユミの「聖なる力」も、最近は翳りが見えていた。

 彼女が祈りを捧げた王国の農地は、最初の数年は確かに豊作だった。しかし、年を追うごとに地力が目に見えて衰え、今では祈りを捧げる前よりも収穫量が減ってしまっている。原因不明の土地の疲弊。それは、王国の食糧事情を静かに、しかし確実に圧迫し始めていた。カイルの焦りは、日に日に募る一方だった。


 その頃、私たちの『恵みの皿』には、珍しい客が訪れていた。

 背は低いが、がっしりとした体躯。見事な髭をたくわえた、いかにも頑固そうな壮年の男。一目でドワーフ族だと分かった。

 彼は店の料理を一口食べるごとに「うむ」「ほう」と唸っていたが、食事を終えると、厨房にいた私を呼びつけた。

「あんたがここの主人か。わしはギル。鍛冶師だ」

 ギルと名乗ったドワーフは、腕を組んで私を睨みつけるように言った。

「この料理、素材の味は確かに一級品だ。だが、野菜の切り方がなっとらん!これではせっかくの食感が死んでしまうわ!」

 いきなりのダメ出しに、私は呆気にとられた。

「わしなら、この野菜の繊維を断ち切らず、旨味を最大限に引き出す最高の包丁を打ってやれる。……どうだ?」

 それは、彼なりの賞賛と、職人としての挑戦状なのだとすぐに理解した。

「ぜひ、お願いします!ギル様!」


 この出会いが、谷に新たな革命をもたらすことになる。

 私はギルに、料理用の包丁だけでなく、農業用の道具の開発も依頼した。

「もっと深く、効率的に土を耕せる鋤が欲しいのです。それから、収穫した麦の脱穀を楽にする機械も……」

 前世の農業機械の記憶を元に、私は次々とアイデアを出す。最初は「女の戯言だ」と鼻であしらっていたギルだったが、私の描く設計図の緻密さと、その熱意に目を見張った。

「面白い……。こんな発想、今までなかったわい……」

 職人の魂に火がついたギルは、自分の工房に籠もり、昼夜を問わず槌を振るい始めた。


 数週間後、ギルが完成させたのは、まさに画期的な農具だった。

 螺旋状の刃を持つ新しい鋤は、少ない力で土を深く、そして柔らかく耕すことができる。足踏み式の脱穀機は、これまでの手作業の十倍以上の効率で麦の穂から実を分けることができた。

 これらの新しい農具の導入により、私たちの農作業の効率は飛躍的に向上した。より広い土地を、より少ない労力で耕せるようになったのだ。

 ギルはすっかり谷が気に入り、レストランの常連客として居座るようになった。

「リナの嬢ちゃんの無茶ぶりに応えるのが、わしの生きがいじゃ!」

 そう言って豪快に笑う彼もまた、この谷の新しい家族の一員だった。

 王都が衰退の影に怯えていることなど露知らず、私たちの谷は、優秀な仲間を得て、ますます豊かになっていくのだった。

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