番外編2:寡黙な騎士の独白
俺、レオンは、あの日、リナ・アーシェットという女と初めて会った時のことを、今でも鮮明に覚えている。
王都から追放されてきたという、世間知らずのお姫様。痩せた土地と、俺の無愛想な態度を前に、すぐに泣き出すか、絶望するかだと思っていた。
だが、彼女は違った。
次の日には、高価だったであろうドレスの裾をまくり上げ、泥だらけになって地面に這いつくばっていた。その姿を見た時、俺は正直、正気を疑った。
俺は、王都に嫌気が差していた。
王国最強の騎士団長。そう呼ばれてはいたが、俺が見ていたのは、権力に固執する王族と、私利私欲に走る貴族たちの醜い争いばかり。正義など、そこにはなかった。
全てに絶望した俺は、死んだことにして騎士団を抜け、この誰にも忘れられた谷で、静かに余生を過ごすつもりだった。
そんな俺の前に、彼女は現れた。
最初は、ただの気まぐれだと思っていた。だが、彼女は来る日も来る日も、土と格闘し続けた。その小さな手は豆だらけになり、日に焼けた顔は土で汚れていた。それでも、彼女の瞳の光は、決して消えなかった。
いつからだろう。彼女の姿から目が離せなくなったのは。
彼女が初めて育てたジャガイモでポタージュを作ってくれた夜。その一口を食べた瞬間、冷え切っていた俺の心に、温かい何かが流れ込んできた。それは、ただのスープの味ではなかった。希望の味がした。
彼女がレストランを開き、楽しそうに働く姿。
谷の子供たちに囲まれて、優しく笑う姿。
俺の無骨な手に、そっと薬草の軟膏を塗ってくれた時の、真剣な横顔。
その一つ一つが、俺の世界を彩っていった。
彼女こそが、俺がずっと探し求めていた、守るべきものなのだと気づいた時、俺の心は決まっていた。
俺は、腐った王国のために剣を振るうのをやめた。だが、彼女のためなら、彼女が作るこの温かい世界のためなら、もう一度、剣を取ることができる。いや、取りたい。
あの日、丘の上で彼女に愛を告げた時、心臓が口から飛び出しそうだったことを、彼女は知らないだろう。
女王となった彼女の隣に立つことは、今でも少しだけ気恥ずかしい。
だが、彼女が「レオン」と俺の名前を呼んで、花のように笑う時、俺は世界で一番の幸せ者だと思うのだ。
リナ。俺の女王。俺の、たった一人の太陽。
お前がこの大地を愛し続ける限り、俺は、お前という光を守る、揺るぎない影でいよう。
そう、心に誓う。




