番外編1:残された者たちの末路
フロンティア国が建国され、平和と繁栄を謳歌する一方で、旧エルグランド王国は坂道を転がり落ちるように崩壊していった。
民衆と有力貴族に見放されたカイルは、父王から王位継承権を剥奪された。民を飢えさせ、私欲のために無謀な戦争を仕掛けた彼の罪は重い。だが、彼を処刑したところで、国民の腹は満たされない。結局、彼は王都の片隅にある小さな離宮に軟禁されることになった。
そして、聖女ユミ。
彼女の『聖なる力』の正体――周囲の生命力を吸い上げて奇跡に見せかける邪悪な力――は、フロンティア国から派遣されたシルの調査によって完全に暴露された。王国の土地が枯れ果てた元凶は、彼女にあったのだ。
人々を騙し、国を破滅に導いた偽りの聖女。彼女を待っていたのは、民衆からの激しい憎悪だった。彼女もまた、カイルと同じ離宮に幽閉され、二度と人々の前に姿を現すことはなかった。
「……また、フロンティア国のパンが配られたそうだ」
がらんとした離宮の一室で、カイルが窓の外を見ながら、ぽつりと呟いた。彼の顔には、かつての王子の面影はなく、ただ疲弊した男の影が落ちているだけだ。
「リナが……あの女が、施しをしているのか。この私に……」
その声は、悔しさに震えていた。
「カイル様……お腹が、すきました……」
部屋の隅で、ユミが弱々しい声で呟いた。力を失った彼女は、今やただのか弱い少女に過ぎない。周囲から吸い上げる生命力がなくなった今、彼女自身が常に虚脱感に苛まれていた。
「うるさい!お前のせいで、私は……私たちは、こうなったんだ!」
カイルはユミに当たり散らすが、その声にも力はなかった。
彼らは、時折聞こえてくる噂話で、フロンティア国の繁栄を知る。
リナ女王が新しい料理を開発したこと。
レオンという夫が、彼女を献身的に支えていること。
国中の子供たちが、笑顔でパンを頬張っていること。
その噂を聞くたびに、二人は自分たちが失ったものの大きさを、骨身に染みて理解するのだった。
カイルが失ったのは、自分を心から愛し、国を豊かにする知恵を持っていた本物の后。
ユミが失ったのは、偽りの力に頼らずとも、地道に努力すれば得られたかもしれない、ささやかな幸せ。
二人は、寂しい離宮の中で、遠いフロンティア国のパンの香りを想像しながら、残りの人生を静かに、そして後悔と共に生きていくのだった。




