表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放令嬢のスローライフ。辺境で美食レストランを開いたら、元婚約者が「戻ってきてくれ」と泣きついてきましたが、寡黙な騎士様と幸せなのでお断りします  作者: 緋村ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/16

第10章:愚者の要請、騎士の覚醒

 王国の使者が『豊穣の谷』に到着したのは、それから数日後のことだった。立派な装束をまとった使者は、尊大な態度で私の前に立つと、カイルからの親書を読み上げた。

「『豊穣の姫』リナ・アーシェットに命じる。王国の危機に際し、貴殿が管理する食糧の全てを、速やかに王家へ無償で献上せよ。これは王命である」

 命令、献上、王命。その言葉の数々に、私は思わず乾いた笑いを漏らしてしまった。隣に立つレオンの周りからは、氷のような怒りのオーラが立ち上っている。

「……お断りします」

 私のきっぱりとした返答に、使者は目を丸くした。

「な、何を言うか!これはカイル王子殿下、いや、国王陛下からのご命令であるぞ!」

「元、ですが、婚約者だった私を一方的に断罪し、この地に追放したのはどなたでしたかしら?私はもう、あなた方の国の人間ではありません。そして、この谷の食糧は、この谷で懸命に働く私の民のものです。彼らを飢えさせてまで、あなた方を助ける義理はございません」


 私の毅然とした態度に、使者は顔を真っ赤にしてわめき散らした。

「反逆罪だ!貴様、国に逆らう気か!」

「お引き取りください。これ以上、聞くべき言葉はありませんわ」

 冷たく言い放つと、私は使者に背を向けた。


 報告を受けたカイルは、案の定、激昂した。

「あの女、この私に逆らうというのか!許さん、絶対に許さん!」

 プライドを傷つけられた彼は、我を忘れていた。

「軍を派遣しろ!力ずくでも、食糧を奪い取ってこい!」

 側近たちの制止も聞かず、カイルはついに軍隊を『豊穣の谷』へと差し向けた。それは、王国の正義が完全に地に落ちた瞬間だった。


 王国軍が谷の入り口に到着した時、彼らを待ち受けていたのは、意外なほど少数の兵だった。その中心に立つ、熊のように大きな一人の男を除いては。

「これより先は、我らが『豊穣の谷』。女王リナ様の許しなく、一歩も通すわけにはいかん」

 レオンが、静かに、しかし腹の底に響く声で言った。

 王国軍の指揮官は、彼の姿を見て嘲笑った。

「たかが辺境の田舎領主が!どけ、さもなくば踏み潰すまでだ!」

 指揮官が突撃命令を下そうとした、その時。彼の背後にいた副官が、青い顔で叫んだ。

「ま、待ってください、将軍!あの方の顔、どこかで……そうだ!あの構え、あの眼光……まさか!」


 副官の言葉が終わる前に、レオンは動いた。彼は腰に差していた、飾り気のない長剣を抜き放つ。その瞬間、空気が変わった。彼の周りだけ、時間が歪んだかのように、凄まじいプレッシャーが渦巻いた。

「……『不動のレオン』!元王国騎士団長、レオン様だ!」

 誰かが叫んだ。

 かつて王国最強と謳われ、たった一人で敵国の一部隊を壊滅させたという伝説を持つ英雄。数年前に突如として姿をくらました、あの『不動のレオン』が、なぜこんな辺境に。

 王国軍の兵士たちに動揺が走る。

「か、構うな!多勢に無勢だ、かかれー!」

 指揮官がやけくそ気味に叫ぶ。だが、それは悪手だった。


 レオンは、押し寄せる兵士たちの波に、まるで岩のように微動だにしない。そして、一歩踏み込むと、剣を振るった。

 それは、力任せの斬撃ではなかった。水の流れのように無駄がなく、雷光のように鋭い、洗練され尽くした剣技。王国軍の兵士たちは、彼の剣に触れることすらできず、次々と武器を弾かれ、地に伏していく。

 レオンが鍛え上げた谷の領民兵たちも、地の利を活かした巧みな戦術で、王国軍を翻弄した。

 戦いは、もはや一方的な蹂躙だった。

 王国最強の騎士が目覚めた瞬間、王国軍はなすすべもなく崩れ落ち、無様に敗走していったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ