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婚約破棄から始まる物語~真実の愛と言う茶番で、私の至福のティータイムを邪魔しないでください  作者: をち。


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7、机上の空論では何を言っても人には届かない

 もう隠す気すら失せて「ハッ!」と鼻で笑ってやりました。


「ねえ、これまでお教えいたしましたでしょう?【机上の空論では何を言っても人には届かない】のだと。そこまでおっしゃるからには、あなたの頭の中以外にも私に非があるという《《確固たる証拠》》があるのでしょうね?」


 ハク、と空気を飲むアレックス様に向かって優雅に小首をかしげてダメ押しです。


「まさか無いだなんておっしゃいませんわよね?まさか、何の証拠もなしにこの筆頭公爵家ジーニアスの娘である私を責めるなどあり得ませんものね?」


 うふふ。もう返す言葉すらないようですわね。


「ちなみに、私にはございましてよ?あなたの不貞の証拠も、横領の証拠も。横領の証拠は先ほどご覧にいれましたわよね?ね?つまり、あなたからの婚約破棄など認められないのです。可能なのは、()()()()()()()()婚約破棄を申し出ること。その逆はありませんの。今回の件、私から陛下と父に婚約破棄を願い出ます。よろしいですね? と申しましても、肯定以外の答えは認められませんけれども」


 悔しそうに唇を噛みしめる殿下から、ギリィ、と歯ぎしりが聞こえました。


「あら、はしたない。せっかくの美貌が台無しでしてよ?ハンカチをお貸しいたしましょうか?」


「煩いっ!お前のそういうところが私は大嫌いなのだっ!この悪女めっ!必ず痛い目をみせてやるからなっ!」

「まあ!恐ろしい!今度は脅迫ですか?」


 大げさに怯えて見せると、何人かの紳士がガタリと立ち上がるのが見えました。殿下とは違い、貴族として矜持をお持ちの方もいらっしゃるのです。


「ご令嬢。()()()()()()()()()()()、そちらの男性が『痛い目をみせる』という不穏な言葉を口にされたのが耳に入りまして……。私の手は必要でしょうか?」


 ああ。あくまでも「第一王子」ではなく「誰だかわからない一貴族とご令嬢のもめごと」とするのだと、そういうことなのですね。

 エクセレント!素晴らしいご判断ですわ。


「ありがとうございます。あなた様は……」


「ロレイン伯爵家が三男、トーマス・ロレインと申します。あちらの方の紳士とは思えぬ暴言が聞くに耐えず、僭越ながらお声を掛けさせていただきました」


 中立派と言われるロレイン家のご子息だわ。これはつまり「中立派もジーニアス側につく」ということなのかしら?


 軽く目を合わせ「ロレイン伯爵家の方でいらしたのね。私の味方をしてくださるの?」と確認してみました。

 すると「ええ。我々は()()()()()()()です」との言葉と共に、私に向かって貴族の礼をしてくださいます。

 つまりはそういうこと。ジーニアスが王家に反意を示すような事態とならば、中立派も王家を見限る、と。


 彼はここでわざわざそれを伝えてくださったのです。

場の空気を読む力、判断力、行動力、全て申し分ないわ。三男、ということは家を出るのね。公爵家に欲しいわね。お父様の側近候補にどうかしら? 


「大丈夫ですわ。このような公の場所で脅迫など、まさか本気のはずがございませんもの。お気遣いに感謝致します。今は名乗れぬ無礼をお許しくださいませ。ロレイン様とはまたぜひお話させて頂きたく存じます」


 軽く頭を下げて目配せをすれば、私の意を汲み「ならばこの場は引きましょう。()()()()()お声をおかけください」と引き下がってくださいました。引き際も心得ているのね。

 私は我が意を得たりとにっこりと微笑んで見せた。

 アレックス殿下が怖いわけではございませんが、味方がいるというのは心強いものですわね。なんだか肩の力が抜けたような気が致します。


 するとあちこちから「私も協力致しますわ」「紳士たるもの、ご令嬢への暴力は許しがたいですからね」などの声が上がりました。どうやらみなさま、私に助力するタイミングを見計らっていてくださったようです。

 相手が第一王子だと気付いたでしょうに。王家を除けばこの国もまだ捨てたものではございませんわね。

 彼らのためにも、決断しなければなりません。私はひそかに決意を固めました。


「みなさま、ありがとうございます。婚約者、いえ、もう元婚約者、と言った方がいいのかしら?彼のあまりな仕打ちに私のか弱い胸は張り裂けそうなほどに傷んでおりましたの。ですが、みなさまのお心遣いに大変励まされました。本日のお代は私からのお礼とお詫びとさせてくださいませ。場を乱してしまい申し訳ございません。どうぞお茶をお楽しみください」


 そう言って謝意を示せば、みなさま軽く頭を下げ、何事もなかったかのように会話に戻られました。

 でも、「見ておりますわよ」「ご令嬢に何かすれば我らが出るぞ」と釘を刺すかのように時折殿下に厳しい視線を投げかけてくれております。


 殿下とご令嬢は急にオドオドし始めました。

 自分たちに向けられるとても好意的とは言い難い視線に、「ここにいる観客たちは『真実の愛に生きる恋人たち』に優しくはない」とようやく気付いたのでしょう。

 

「あ……ど、どうして私たちをあんな目で見るの?悪役は彼女のはずよ!」

「どういうことだ?舞台ではみなが二人に協力してくれていたのに……!真実の愛なのだぞ?」

 

 まだ分からないのかしら。

私はものわかりの悪い生徒たちに優しく教えてあげました。


「答えを教えてさしあげましょう。ここが舞台ではなく現実だからですわ」


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