10、「真実の愛」など茶番です。
こうして父と陛下の《《話し合いによって》》私と第一王子殿下の婚約は「ジーニアス公爵家からの婚約破棄」という形で《《穏便に》》解消されました。
そうそう。
アレックス様と、お可愛らしいエリー様は「真実の愛」とやらを貫かれるようですよ?
アレックス殿下は廃嫡となり、心からの愛だけをお持ちになってエリー様のいらっしゃる男爵家に婿入りされることになりました。
学園はまだ卒業前ですが、仕方ありません。婿入りしなければ、即座に「ただの平民」となってしまいますもの。
エリー様には10も年上のお兄様がいらっしゃいます。
お兄様は妹であるエリー様を何度も諫め、注意していたそうです。私にも何度も詫び状が届いておりました。
エリー様があのような性格になられたのは、ひとえにご両親のせいなのです。ご両親が年齢がいってからのお子だというのでエリー様を溺愛し、甘やかしたから。
そのご両親も、昨年お兄様の《《強い要望》》で家督をお兄様に譲り引退されました。
つまり、今の男爵家の当主は、エリー様に甘いご両親ではなく、優秀だと名高いお兄様なのです。
婿入りしたとて、アレックス様は単なる「扶養家族」であり「同居人」。アレックス様とエリー様は近いうちに爵位を与えられて外に出されるか、男爵家が爵位をお持ちでなければ、おふたりそろって平民となるわけです。
お二人が平民になってまともに暮らせるかは分かりませんが、それも「真実の愛」を貫いた結果ですから。仕方ありませんわよね?
さて。
私にも新たな婚約者ができました。第二王子のエリオット様です。
彼は噂どおりの素晴らしいお方。優秀なことは存じ上げておりましたが、それでもまだ実力を隠していらしたようです。後継争いを避けるためだったのでしょう。聡明な方ですわね。
彼は、兄である第一王子が「真実の愛」で廃嫡となるやいなや、ジーニアス公爵家の協力のもと、派閥を動かし側妃様と陛下を「病気療養のため」保養地に送りました。
そして療養中の陛下の代理として正妃様と共に王宮に戻り政を執り行ったのです。
あらかじめ準備していらしたのでしょう。
あれよという間に、陛下に甘言のみを吹き込み私腹を肥やす輩を一掃。それと同時に諫言により陛下の不興を買って王宮を辞していた忠臣たちを呼び戻しました。
エリオット様を「苛烈な母の陰に隠れているだけの臆病者だ」と評した陛下は、いったい彼の何を見ていらしたのでしょう?
いいえ。これ以上は申しません。
見る目のある方なら、優秀な正妃様ではなくあの側妃様を寵愛などするはずございませんもの。
似た者親子とはよく言ったもの。簡単にあざと女に騙されたアレックス様と陛下はそっくりでしてよ。
エリオット様が正妃様に似ていらして良かった。でなければこの国は終わりでしたもの。
実は私、以前からエリオット様を存じ上げておりました。
孤児院にお手伝いに通っておりました折に、正妃様の代理として慰問にいらした彼と出会ったのです。
エリオット様はとても聡明な方でした。貧困対策にも熱心で、王国の現状を嘆き「自分でできることを」と身分とその名を伏せて私財を投じて動いていらっしゃいました。
わたくしもそのお心に感銘を受け、いくばくかの「お小遣い」を出資させていただいておりましたの。
エリオット様がお作りになったのは、識字率を上げるための学校、手に職をつけさせるための私塾。
それらは徐々に成果を上げ始め、数年たった今では、道で寝そべっていた浮浪者もこざっぱりとした姿で事務作業をしておりますし、ぼろを着ていた子供は鍛冶屋で見習いとして腕を磨いて将来の夢を語っております。
彼らの明るい表情を見るにつけ、このように彼らを変えたエリオット様への尊敬の念が募ります。
エリオット様の語る未来には、希望がありました。
上位貴族だけでなく、今現在貧困に苦しむ国民の希望が。
そう、もうお分かりでしょう?
私は何度かお会いする中でエリオット様に好意を抱くようになっていたのです。
何故よりにもよってアホックスの方が婚約者なのかと、どれだけ神を恨んだことか。でもこれも貴族の義務だと諦め、自分にできる最善を尽くしてまいりました。
第一王子がアホで良かったわ。おかげで愛するお方と同じ未来を歩めるのですもの。
「真実の愛」ですって?
劇場で見るような物語がお好きなら、私たちの方が素晴らしい劇になりましてよ?
「望みもしない愚かな王子と王命により無理やり婚約させられた優秀なご令嬢は、聡明な第二王子への愛を抱きながらもそれを押し殺し、貴族の義務を果たすため良き王妃にならんと努力の日々を送る。
そんな彼女を第一王子は最悪の形で裏切った。媚びて甘えることしか脳にない下品で愚かな女を新たな婚約者、未来の王妃とするのだと一方的な婚約破棄を突きつけたのだ。
この二人が国のトップになれば国が滅ぶと第一王子を見限ったご令嬢は、その持てる力全てを使い第一王子を断罪。
王太子のスペアだった第二王子と第一王子の元婚約者令嬢。静かに、でも心からの愛を育んでいた二人はその機会を逃さなかった。
即座に第二王子は王宮を掌握。第一王子の元婚約者と表向きは《《政略的婚約》》、実は心からの愛による婚約を結び、その家の後ろ盾を得て立太子。一年後、婚姻と共に王座に就く。
こうしてご令嬢は、愛する第二王子と婚約し、諦めていた愛と素晴らしい王国の未来を手に入れるのだった」
ね?こちらの方がよほど「愛」という名にふさわしいのではなくて?
ねえ皆様。
お分かりになりましたかしら?「真実の愛」など茶番です。
愛はただそこにあるもの。わざわざ「真実の」と言って回らなければ信じられないようなものは、愛などではありませんもの。
それはね。単なる「欲」というのですわ。
=おわり=
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