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合言葉は「ア・イ・シ・テ・ル」

作者: 各務 史
掲載日:2025/12/07

なろうラジオ大賞7への投稿作品です。

「愛してる」という言葉は美しい言葉の一つだと思いますが

愛憎はコインの裏表。常に表側が出るとは限りません…。

 たった一人生き残った幼女はクローゼットの奥で震えていた。

後にこの凄惨な事件は「七匹の子ヤギ事件」と呼ばれた。


 大きな物音と悲鳴が聞こえるという通報で警察が駆けつけた。

マンションの一室、その扉を開けた瞬間目に飛び込んできたのは血の海だった。

60代男女、30代男女、小学低学年の男の子

全員が刃物でめった刺しにされて息絶えていた。

夥しい量の血が床を赤黒く染めている。

その惨状の中、包丁を握りしめて女がへたり込んでいた。

空を見つめて、独り言を繰り返す。

「噓をつくのは悪いこと。噓をつくのは悪い人。罰を受ける…。」

容疑者の女は、警官が近付こうとした途端

持っていた刃物で、自らの首を掻き切り自死してしまった。

 とてつもない惨劇が行われたその部屋で

クローゼットの奥、酷く怯えた様子の小さな女の子だけが助かった。

ウサギのぬいぐるみを抱きしめて、真っ青になって震えていた彼女は

恐怖が過ぎたのか泣くこともなく、硬直した格好で警察に保護された。


 数年後、児童養護施設で育った生き残りの幼女ー里穂ーは笑わない少女に育っていた。

施設で一緒に過ごしている子たちも、苦しい事情を抱えている子は多い。

どの子にも、幸せになる権利はあるのに、現実は厳しい。

だからこそ、どの子にも伝えたいと思うのだ。

君は唯一無二の存在で、とても大切な存在だってことを。

多分、大人を信じていない彼らにとっては上滑りするきれい事。

それでも、繰り返し伝え続ける。


 今日も、遊びの輪の中に入らない里穂を誘う。

「里穂ちゃんも一緒にやってくれたら嬉しいんだけどな。

みんな里穂ちゃんのこと大好きだし、愛しちゃってるから!」

明るい声で誘ったのが功を奏したのか、里穂が顔を上げた。

「愛してる?」

かすれた声で里穂が言う。大きく肯いて見せた。


 里穂の瞳の奥できれいな女の人が像を結ぶ。

黒い髪に黒い瞳、そして、毒々しいほどに真っ赤な唇。

それをきっかけにフラッシュバックする。

その人は、里穂をクローゼットの奥に入れ

「出てきてはダメよ?危ないから。今から、あの女がショーが始めるの。

この世に愛なんてないのに、愛なんて噓なのに

愛してるなんて、噓をつく人たちに罰を与えるのよ。」

その人は赤い唇に人差し指を当てて笑った。

「しー、よ。内緒よ。」

そう言うと、クローゼットの戸を閉め、部屋から出て行った気配がした。


 里穂の瞳に今、影が差した。

「ウソヲツクヒトニハ、バツヲ。」

あの日を思い出した里穂が呟いた。

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― 新着の感想 ―
タイトルにだまされました.... 怖いです〜 こんなお話だったとは.... 各務史さんの小説はわたしが思いつかないものばかりで、すごいです 発想、尊敬します
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