↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法猫で生きてみて  作者: ライチベリー
第二章,『異世界街』
PR
22/22

21話,『線路は続くよ、終点は――』




 魔術の行使は、予想を遥かに超えて難しかった。

 

 まだ、元の世界で一匹の黒ネコとして生きていた時のことだ。住んでいた町には俺と特別に仲が良かった人間がいて、幼少期時代はその人間と一緒に良く遊んでいた。

 あちらが、俺が人の言葉を解することを知っていたかどうかは知らない。ただ、そいつは人間にしては変わったやつで、公園で俺が寝ている時はきまってそいつが近くで本を読んでいたものだ。


 あいつ、人間の友達いなかったんじゃないだろうか。


 まあそんな不安はさておき、そいつの読んでいた本を、俺も読んだことがある。

 あいつが帰ったあとも公園に置きっぱなしにされていた本を、一晩だけ拝借したのだ。内容は異世界転生物で、確か高校生が異世界で大活躍、そして女の子にもてまくるという内容だった。


 その主人公の少年、現世では無気力な何のとりえもない学生だったのだが、異世界に行くと秘められて才能が覚醒、超強力魔術を使って最後は魔王もハーレムメンバー。アホか。

 まあとにかく、その少年、魔術だけは簡単に使いこなした。誰もが割れない岩に魔術習得僅か三日後の彼がヒビを入れて、村長に、

『あなたが伝説の勇者様ですね』 

 なんてご都合主義。

 そんな本の影響だろうか。それとも、あの腐れ神様が俺に魔術を行使する『経験』をくれたと考えていたのだろうか。


 ユリさんのゴキブリ騒ぎの時に一度、俺は無意識で魔術を使用している。それは身体能力加速という、魔術師ならば誰もが習得しているものだ。しかし、魔術を知らない俺が、意識せずに魔術を行使したというのは事実で、それに、俺にはよく分からないが、魔力の測定がかなりの数値と特殊な結果を叩きだしたとかこともある。

 ようは、恵まれていて俺も主人公のように上手くいくと思い込んでいたふしがあるのだ。


 そんなこんなで、俺は魔術というものを舐め切っていたらしい。現実は、甘くなかった。


 思考が飛んでいた。集中が切れた影響で、握りこぶし大のボールが飛ぶ。


 偶然にも、その放物線の先には眠りこけたカティの顔があった。危ない!! と思う間もなく、横手からロレインがボールをキャッチする。

 そのボールをこっちに放りつつ、ロレインは、


「そう焦るな。時間はたっぷりあるし、数十秒間浮かせられるだけでも進歩だろう」


 その言葉に頷きながら、ボールを筒のようなスタンドにセットする。

 魔術の指向性を定めるために、ボールへ人差し指を向ける。そして魔術を発現させる。

 

 低位の風の魔術は音を持たない。その属性の特性上、術士が修練を積まなくても魔術発現時の魔力波動が発生しない。

 極めて静かに、ボールの下に風の渦が出来上がった。ボールが下からの浮力をもって、ふわりと浮き上がる。捕らえられたボールはその重みを小さな竜巻に預け、そして押し上げられていく。簡易机から三十センチほど上昇したところで俺が魔術をコントールして、その動きは止まる。 

 現在の魔術の師匠ユリさんから出された課題は、この状態で三十秒以上静止させることだ。


 ほんとうに、思ったよりも難しいなぁ。


 ユリさんの講義が思い出される。やたらと分厚い本をユリさんが広げいて、そしてたしか、


『いいですかジュリア様。この訓練が伸ばすのは魔術の制御能力だけではないのです。風の魔術は持続円の性質に当てはめれば最も持続しない属性ですから、こういうふうに――』


 記憶の中のユリさんは、目線だけでボールを宙に浮かせる。


『――同じ位置に風の魔術を固定するということは、全く同じように魔力の放出をキープし続けるということです。しかも、位置指定を同時に行いますから、空間位置指定能力も問われます。

この訓練一つで、三つも同時に習得できるのですよ』


 なんて言っていて超やる気満々だ。たしかに一石二鳥ならぬ一石三鳥の訓練はしっかりと考えられているものだ。でも別の日、ロレインが俺の練習を見ている時に、


『風魔術師指導方法論の鉄板だな。おもしろくない』


 なんて棘が付いた事を言ってユリさんが下を向いていた。図星か。まああれだけ自信満々だったし、恥ずかしかったのだろう。

 というか、ロレインはまだユリさんが俺に魔術を教える事を納得してなかったのね。


 その後カティが仲裁に入るまで繰り広げられた二人の舌戦は置いておくとして、


「あっ」


 制御が緩みボールが飛び出す。今度は自分でキャッチする。

 ユリさんが声をかけてきた。


「そろそろ休憩なされてはどうですか?」

「うん。そうする」


 これもユリさんから聞いた話だが、魔力の使用は過ぎると疲労となって自分の体に帰って来るらしい。


 これは魔力の消費によるものではなく、魔力を体の外に出すことで体内のエネルギーを使うからだそうで、練習すればある程度は体が慣れ、疲れにくくなるといっていた。


 そして俺は魔術を習い始めて僅か数日のペーペーの若輩者。ほんの僅かな練習だけで、若干の疲れを体に覚え、だから立ち上がって伸びをすると手に持ったボールを鞄へ放り込んだ。


 思えばこの練習、魔術の行使を体に慣れさせる意味もあるんじゃなかろうか。だとしたら、一石三鳥ではなく一石四鳥ということになるよなぁ。


 席に腰掛けて、とくにすることもないので外を眺める。


「結構予想より早いなぁ」


 座席から見た窓。そこに映る景色のうち近くにある物は凄く速く後ろへ流れ、遠くにある物はそれよりも遅く、しかし確実に遠ざかっていく。


 草原の緑に誘われる。


 

 思いついて、半分無意識に窓の止め金を外す。パチンという音を合図に、手に力を込めて窓を開ける。

 風が入り込んで、全員の髪が靡いた。カティが薄眼を開けると、また閉じて寝苦しそうに首のポジションをかえる。


「ジュリア様、何を」


 尋ねるユリさんに「いいのいいの」と返して、俺は立ち上がって、窓から身を乗り出した。

 目が眩む。


「ぁ、」


 明るい日差しが、青空を貫いて降り注ぐ。室内の影にいた俺には、その輝きが眩しく僅かに声を洩らしてしまう。光に目が慣れ、周囲の情景が戻って来る。

 緑色が、戻ってきた。


 そしてその色を目に焼き付けたまま、視線を進行方向とは逆側へ。今度は自然の色彩ではなく、重厚な木製の車体が見えた。

 長く続く列車。振動を生み出す車輪。煙のかわりに漂う、魔力エンジンの粒子が見える。微かに輝く光の粒はすぐに青空に溶け込んだ。


「明るいね~!!」

「ジュリア様、危ないですよ」

「そうだぞここへ座れ」


 まったく、ロレインもユリさんも分かってないな。猫は本来自由気ままに外をぶらつく生き物だから、部屋にこもりきりだと病気になるんだぞ。

 そう心の中で呟いて、でも2人に心配されていることが分かるから素直に席に戻ることにする。


 しかし、この暇をどうするべきだろうか。俺はてっきりトランプてきなこの世界のカードゲームをやるのかなあと思っていて、電車に乗ったばかりの時ロレインにその意を伝えたら、


『あ』


 忘れてたのかよ。個々に持ち込んだ本はあったらしいが俺はこの世界の言葉が読めないし、だから仕方なく魔術の練習で有意義に時間を潰していたのだ。


 暇だ。そしてそんな俺の心中を読んだのか、 


「暇でしたら、お茶にしましょうか?」

「もちろん!」


 俺の言葉に頷き、ユリさんはごそごそと準備を始める。

 彼女が精密な操作で炎の魔術を操り、水が、丁度いい温度のお湯になる。

 

 お茶の豊満な蒸気と、お茶請けのクッキーのほんのり甘い香りが客室にひろがる。鼻をひくひくさせ、銃使いの少女も目を覚ました。


「なに、お茶するの? じゃあボクのもいれて!」


 明るく声が響き、ユリさんがそれにこたえる。


 昼夜少し前の時間。列車に定期的に揺らされながらの、明るい微笑みの一幕。

 場所は、魔導列車コメットラインの上級客車の一部屋だ。

 今まで泊まっていた屋敷を出発してロレイン達の本来の住居へ戻るための帰路は、以外にも元の世界でも見ることの出来そうな列車での移動となっていた。


                      ●


 緑色の景色が過ぎ去り、窓から見える色は人工物の茶色や白になる。列車の速度がおちてくると、それにつれておぼろげだった色の塊が、確かな形を持って目に映った。都市だ。それも中世ヨーロッパのような。


「おいカティ、起きろ。着いたぞ」


 お茶が終わり再び眠りに落ちたカティをロレインが起こしている。それを横目に見ながら、頭上の棚から荷物を降ろそうとするユリさんを手伝うために立ち上がる。


 荷物を受け取り、手に持つ。寝ぼけ眼のカティも、ロレインもそれぞれの荷物を背負っていく。


 速度が下がるにつれ、気分が変わっていくのを感じた。


 ――なんというか、ワクワクするね。


 この世界に来てから、初めてじゃなかったことはない。

 ユリさんの作る食事も、ロレインにもみくちゃにされた風呂も、ふかふかのベッドの上で伸びる事も、カティとのお喋りも、他のなにもかもも。

 そして、初めて人間として、人間の生活地域に入っていく。

 

 電車のスピードが無くなったのを感じ、扉を開け、外に出る。


「ありがとうございます」

「いや、大したことしてないよ」


 本当に大した事をしていない。渡されたのは幼い少女でも持てる軽い荷物で、正直カティとロレインの背負う個人の荷物より小さい。着替えなどが詰まった特別大きなリュックサックはユリさんが背負っている。

 こんな身長だからか気を使われてるのかな、と思うがたぶん違う。純粋に俺のことを考えてくれているのだろう。

 

 そんな事を考えながら、列車の中を先頭をきって歩いていく。


 木製の扉が自動で開き、いざ外へ。足が踏みしめるのは、初めての都市の大地だった。堅い石畳で靴の音がカツカツと鳴った。


 ――やっぱり空気が違うよなぁ。


 森の中のあの澄んだ空気と、人の生活が感じられる雰囲気。騒々しい音も相成って周囲と、今の自分の差を確かに感じた。


 シチュエーションにふと思い浮かび、高揚感に後押しされて、


「ぶらり途中下車の旅~」

「なんだそれは?」


 後ろを振り返りロレインの笑い顔を見る。


「なんでもな~い」


 




すごく、久しぶりに投稿。

もう、疲れたよ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。