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魔法猫で生きてみて  作者: ライチベリー
第一章,『新たな猫生』
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13話,『魔術講座、ジュリアの力』




 ロレインの言葉は続く。


「ユリから今日の騒動は聞いている。ユリの叫び声に反応して駆けつけたジュリアを互いの不注意で一発撃墜、したんだよな」

「そうそう、ボクびっくりしたよ。いきなりジュリアが地面に弾き飛ばされて、そのあとユリが窓から飛び出してきたんだから。まあユリは無駄足だったけど」


 そう。俺がユリさんの魔術で弾き飛ばされた後、彼女は俺を救おうと窓から身を投げ出したのだ。

 メイドのボリュームあるスカートを落下の風にはためかせ、咄嗟の行動でも完璧な姿勢制御を見せるユリさんはカッコよかった。


 まあカティの言うとおり、その行動は無駄だったのだが。


 空中で落下していても、俺には家の壁を駆け上がる身体能力があった。

 それに、猫っていうのは高所から落ちる時に体を回転させ、そして見事に着地するもの。

 人間になっても三半規管は健在だったらしい。空中で見事に姿勢を保ち、そして俺は華麗に着地したのだ。


 どちらかというと、上から降ってくるユリさんを回避するのが大変だった。


「それはいい。ジュリアに怪我がなかったのなら、私は何も気にしない」


 ただ、と否定の言葉が続けられ。


「少女にしては身体能力が高過ぎると、私はそう思う。屋敷の垂直な側面を駆け上がるのは明らか可憐な身体から逸脱している。

そして、それを可能にするのは体内の魔力燃焼以外にありえない。そして魔術のまの字も知らないジュリアが魔力を扱いきれているわけがない。もしジュリアが己の感覚のみで身体能力を向上させていたなら」


 びしっ、と人差し指を向けられた。


「つまり、ジュリア、お前には魔術を扱う高い資質がある!」

「ロレイン、いつになくテンション高いね!」

「当たり前だ。愛すべきジュリアに、私が魔術を手取り足取り教えるんだからな」


 お次は腰に手を遣りふんぞり返るポーズのロレイン。

 俺的にはテンションがマックス過ぎて、ついていけない。


「ジュリア様、ロレイン様は魔術指導に燃えているのです。魔術能力と技術的には私の方が上なので、教えられるばかりですから。ちなみに、より優れた私がジュリア様にお教え差し上げるので御主人さまは黙っていて下さい」

「なに?」

「なんでしょう?」


 片方は全身から鬼気を立ち昇らせて、片方は威圧感を冷たさの中に凝縮して睨みあう。互いの体から漏れ出す魔力がエーテルと反応し、燐光が輝いていた。ロレイン、ちょっと大人になろう。ユリさん、君は本当にロレインの召使いなの?


 ニコニコと笑顔が眩しいカティも、笑っているだけでどうしようともしない。

 仕方なく、俺が仲裁に入った。


「じゃ、じゃあ二人とも俺に教えてよ。ねっ」


 引き攣った笑みで、二人を見上げる。

 両者の手を握って、そして俺の前でその手を繋がせた。


「ジュリアがそう言うなら」

「ジュリア様の言葉とあればしょうがありませんね」

 

 なんとか、場を収めることに成功した。

 一見典型的な主人と召使のようで、しかしこの二人の関係はそれだけで言い表せない。皮肉も言い合うし、悪口は言うし、でも互いに互いを尊重している。

 例えるなら戦友、だろうか。


「では、早速魔力の計測に入りましょう」


 バカでかい木製の家具。その手前側がユリさんによって開かれ、中の様子が露わになった。長年使われていなかったのか、人が一人しか入れない狭い空間は埃っぽくて不衛生だ。


 ロレインが覗き込んで一言、


「これ本当に動いたのか? どう見ても時代遅れの骨董品なんだが」

「先程も言った通り、私が試しに行った起動テストには成功しました。最新式の測定結果と照らし合わせても正しい測定が出来ています。魔力値が2程間違っていますが、まあ許容範囲でしょう」


「そうか、ならいいんだ。――――じゃあジュリア、中に入ってくれ」


 俺が躊躇っていると、


「安心して下さい。汚らわしい生き物は全て駆除しました」


 今日の事を引き摺っているユリさんの言葉に頷き、言われたとおり足を踏み入れる。後ろの扉を閉めると密室は真っ暗で、今までいた明るい世界から離れた気がした。

 あの死後の空間を思い出す。


 みんなの声もいつもより遠くから聞こえる。


「ボクこんな古い測定機初めて見るんだけど、大丈夫なの?」

「ユリの言葉を信じるなら、な。ユリが地下室で起動しても何もなかったんだろう。もし大魔石が老朽化で暴走したら私が担いで、全力機動で森に持ってくから大丈夫だ」

「ええ、私も命に代えてジュリア様を助けます」


 ――――ほ、本当に、大丈夫なのかな。


 不安が無駄に掻き立てられた。


「ジュリア。正しく計測するために、今からやることは全て私の言うことに従ってくれ」

「わかった」

「じゃあ、まず始めにレバーを上に倒してくれ。それで大魔石と計測魔石の回路が繋がれる」


 後半部の言葉はいまいち意味が分からなかったが、ロレインの言葉に従うことにする。

 猫の瞳が暗闇に慣れて、中の様子は既に見えていた。大きく透き通った球体が大の上に設置してあり、そしてその隣に下ろされたレバーがあった。


「よい、しょっと」


 その部分だけ金属で作られていたのか、錆びついていたが動かせないほどではなかった。

 

「出来たけど次は何するの?」

「そのレバーの隣に透き通った石があるだろう。それは無属性の計測魔石だ。その上に手を置いてくれ。後の操作は此方でやるから」


 言われた通りに手を置く。

 計測魔石ははひんやり冷たい。冬、土手に張っている氷を思い出す冷たさだ。


「準備はできたか」

「うん」

「それじゃあ始めよう」


 計測の始まりは外でもレバーを下ろす音だった。そして、それから徐々に変化が現れる。

 手の中の球体に、少しずつ光が溜まっていっている。

 それがロレインの言っていた魔力なのか、それともはたまた別の何かか。燐光はいくつもの光の粒となり、そして消えて行った。

 それは、際限のない繰り返しだ。


 粒子は次々と生まれ、消えていく。すると光が中心から灯り、また光の粒が生まれる。

 いや、消えているのではない。俺には粒の通っている道が分かっていた。この計測機器に内蔵されている大魔石に、回路を通って入り、そしてその回路を逆走して手元の計測魔石に帰ってくる。


 そこから粒子の行く先は人工の回路ではない。

 俺の右腕を天然の回路として、粒子が体内に駆け上がってくるのを感じる。

 光は物凄い速度で全身のありとあらゆる所を駆け廻り、左腕から計測魔石に戻っていく。


 それが数えきれないほど続き、ようやくロレインからストップの声が伝えられた。



                         ○

 

 ロレイン達を襲っているのは、驚愕の感情だった。

 

 ジュリアが自分の感覚だけで身体能力を上げていることから、彼女がかなりの才能を有することは理解している。しかし。


 ――――まさか、これほどとは思わなかったな。


 新型の測定器は、ディスプレイに結果が表示される。旧型はそれとは違い、細かい字がびっしりと記された紙を吐きだし続けていた。

 そこに書いてあるのはジュリアの魔術能力だ。魔力から属性までが事細かに記されている。大量に紙が吐き出されているのは測定の誤差を修正するために、秒ごとに測定をし直しているからだろう。


 ユリの言葉を信じるなら、ここに書かれている事は真実になる。しかしロレイン達は、この結果に疑いを抱く事を止められなかった。


 魔力値、三百以上!?


 冒険者に要求される魔力値は最低でも二十前後だ。それより下になると、魔力の消耗が早過ぎて冒険者として食っていけない。魔術を使わなくても、身体能力向上が出来なくなれば後は殺されるのが普通だ。


 そして三百は英雄級のクラスに該当する。一人で竜種を殺し、軍隊とも同等の力を持った人間。一騎当千の力を振るう、戦闘力の象徴。

  

 紙ごとに多少の誤差はあるが、しかしその全てがその数値を上回っているのだ。

 戦闘能力の全てが魔力値に依存するわけではない。種族的な特徴や戦闘技術、実践に裏打ちされた経験、それらを総合して人の強さが決まる。実際、魔術能力がそこそこでも、非常に優れた冒険者を何人も知っていた。

 

 しかし、ジュリアという少女が優秀すぎる原石であるのに違いない。


「ロレイン様」

「ロレイン」


 ユリをカティの声が重なる。そしてその声はどちらも若干震えていた。

 

 ロレインは疑問を感じた。

 カティはともかく、冷静沈着なユリがそこまで驚くことだろうか。確かに優秀な魔力値だが、決して存在しないわけではない。たまたま自分たちが、幸運なくじを引き当てただけの事。


 ユリとカティが、自分とは違う紙を見ていることに気付いた。

 青色の用紙は、魔力値ではなく魔力属性の記されているものだ。魔力属性には誤差は無く、だから一番初めに飛び出した紙だった。

 その後すぐに紙が一気に吐き出され、その存在をすっかり忘れていた。


 ――――魔力属性、か。


 確かに、場合によっては魔力値よりも重要だ。それの違いで各々出来る事が決まり、だから戦闘方法も大体の形が決められる。

 ロレインの場合は一族が水系の魔力属性だったため、測定を受ける前から大体予想出来ていた。

 しかし、初めて測定をするときの緊張は今でも覚えている。もし自分が『水』の持ち主では無かった時の事を考えると、その前日は一睡もできずに夜を明かした。


 回想をしながら、二人の横に並ぶ。

 目を凝らして覗きこみ、細かい文字を読み取ろうとした。

 その瞳に映った事実に、ロレインは心底驚愕した。


『魔力属性:特殊性質、属性:風、性質:聖性』


 全員で顔を見合わせて一言、が言えない。

 驚愕を超えた驚きに、言葉を紡ぐことも許されなかった。



                         ○



「もういいぞ」 


 と声がかかり、俺は魔石の上に手を置くのを止めた。

 外でレバーが戻される音がして、それにならって俺もレバーを下ろす。


 扉を開けて外に出ると、全員が難しい顔をしていた。


「で、どうだった?」

「少しまってくれ。考え中だ」


 とロレインが言う。そして、部屋の隅で三人かたまって話を始めた。

 あの底抜けに明るいカティですら、超真面目顔だ。


「……どうす……んだ」

「いず……分か……事だから、正直……ば」

「しか……聖……持ち……転分か……ません」


 流石に猫の耳でも、聞き取るのは難しい。

 何分かそれが続き、ようやく意見がまとまったっぽい。相変わらず深刻な顔をして三人がこちらに歩み寄ってきた。


「ジュリア様、落ち着いて聞いて下さい。貴女様の魔術性能は特別に優れています。魔力値が三百――――これは一般冒険者の十五倍以上です。そして魔力属性は」

「魔力属性は?」


 一瞬の間、躊躇いの後に言葉が繋がれる。


「基本属性風、そして世界的に見ても希少な聖性の性質です」


 時が止まったかと錯覚した。

 言い終わった後にユリさんは『言ってしまった!!』的な思いつめた顔だし、ロレインもカティも似たような感じな空気を撒き散らしている。


 俺はこう反応するしかなかった。


「な、なっななな」

「ジュリア、驚くのも分かるけど気をしっかりと――――」

「何、それ?」





 


 久しぶりの投稿。話自体はきまっていたのですが、どうしても筆が進まずこうなりました。


 魔術に関する基本的な解説は終わりです。

 ちなみに、次か次の次ぐらいから話が動くぜ!!


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