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魔法猫で生きてみて  作者: ライチベリー
第一章,『新たな猫生』
11/22

10話,『後半、カティ。それとゴキブリ騒ぎの結果』


 



 覆い茂る樹木を掻き分けて現れた、一人の少女。

 冒険者用の重装備を着こみ、その腰に様々な銃器をぶら提げていきなり出現した少女は、始めは俺に恐怖を覚えさせた。


 いくらその少女がショートカットのスーパー美少女かつ元気っ娘でも、人を殺傷出来る武器を持っていたら話は違う。

 

 腰に付けられた武器は、近接武器よりも効率的に殺傷出来るモノだ。ただ生き物に向けて、そして無造作に引き金を絞ればそれだけで事が終わる。


 ロレインとの、森での初めての出会いは、異世界転送のショックで俺の頭がボケボケだったから、ゼンラー(全裸)の美少女姿で彼女に不用意に近付いて、その上頬に触れたけど、今思うとあれ、かなり危ない行動だったなぁ。


 そんな俺の警戒心と、彼女の出現が少々過剰な演出だったおかげで、始めは互いに探り探りの会話だった。たしか、


「あの、……貴女は?」

「あっ……えっとカティです」


 みたいな。というか、どんな会話べタだ、それ。

 今日初めて会ったお見合い的な、冴えない文学少年の女子との会話的な、そんな感じの空気が立ち込めていて俺は窒息する寸前だった。


 会話の始まりは自己紹介だ。互いの名前、経歴、職業などを言い合いそして理解を深める。

 一片の曇りもない真実を口にするとかえって混乱してしまう事が容易に想像できた。だから俺の自己紹介は嘘と真実を綺麗に織り交ぜた創作物だったわけだが。


 そんな、ぎこちない会話が始まりだったけど、俺の猫時代から有名だったトーク術と、カティの持ち前の明るさのおかげで、今は、


「マッパー(真っ裸)!?」

「そうなんだよ、マッパーマッパー」


 とエキセントリックで綱渡り的な会話を繰り広げる仲になっていた。


 どうやらカティは、そういう人との触れ合いが得意な少女らしい。自然と言葉が紡ぎだされ、笑顔がこちらに向けられ、そんな彼女の明るさの中で、俺も言葉を発していった。


 会話の中で言葉と質問を重ねていくと、互いに通常の口調になって言って、相手がどういう人なのか分かってくる。


 相手のひととなりが分かってくると、余計に会話が弾んでいく。彼女の言葉に受け答えしながら、いつの間にか場所を移動し、暑さを避けるために日蔭の下に腰を下ろす。


「とにかく」


 よほどカティが聞き上手なのか、俺は自然と、全ての始まった出来事―――――ロレインやユリさんとの出会い、それからの日常について話していた。

 

 別に話す必要のない事柄だが、しかしここまで話してしまったのだからしょうがない。

 話を続けることにする。


「俺が、えっとマッパーで森で倒れててさ。まあ、その前後の記憶とか無いんだけど」


 そうそう。話の後半部分は嘘だけど、確かにあの状況は大変だった。別世界に転生してみると、低身長黒髪美少女という予想外の体になっていて頭は混乱しっぱなしだし、何よりゼンラーをロレインに見られたのが痛い。


 私服からパジャマに着替えさせられていたのは気にしない方向で。


「そこでこうやって」


 腕を斜めに振る動作で、木々の枝を打ち払う動きを表す。確かあの時、俺はロレインの靴音で目が覚めたんだった。


「ロレインが居たんだよ。で気を失って、彼女にこの屋敷まで運ばれたと」


 俺の告げる事実にカティは半目になった。疑うような様子と、驚きを交えて、


「キミ、このパピロラの森が危険地域指定受けてるって知ってる? 滅茶苦茶危険な魔獣も居るし」


 そんな事知るか。


 というかあのクソジジイが危ない的な事言ってたけど、それ現実になっていたのか。

 ロレインとたまたま出会わなかったら、今頃俺は死んでいたのだろう。彼女への感謝がこみ上げると同時に、ボケ神への殺意が湧きあがった。


「それに、ボクがここに来たのもその魔獣を退治するためだし」

「それは、」


 どういうことだ? という言葉を紡ごうとする。

 それは何のためなのか。ロレインとユリさんは関係しているのか? そういう意味の疑問を投げかけようとして、しかし俺の口は言葉を出せなかった。


 甲高い、女性の悲鳴が響き渡ったのだ。


                        ○


 美しい少女。小さくて、細やかで、守りたくなる少女。彼女と出会った時にカティが覚えたのは、


 ―――――ただただ、綺麗だって思ったもんなぁ。


 百合的な趣味は一切持たない筈だったけど、もしジュリアが相手なら考えてしまう自分が居る。

 いや、それ以上に、このか弱い少女を守りたいという気持ちが強く燃える。もしくは萌える。


 このボクでさえそうなのなら、あの、可愛い物狂のユリなんて反狂乱だろうな、とカティは思った。

 むしろもう襲われているんじゃないかこの少女、なんて心配をする。


 そして今、その愛くるしい少女は体を低く屈めていた。

 響き渡った叫び声に反応し、咄嗟の判断でその身を縮めたのだ。

 何気ない動作かもしれない。その動きは人間の本能かもしれない。しかしジュリアが、本職の冒険者であるカティの反応を上回る動きを見せたのは事実だ。


 普通の少女とはとは異なる観点、魑魅魍魎や凶悪な犯罪者と命の遣り取りをする冒険者という視点。そういうシビアな厳しさを持った目で見た時、この黒髪の美少女は。

 

 ―――――かなり、やるね!!


 この少女の経歴は全く知らない。戦う手段も、そもそも戦う必要のある人間なのか分からない。

 なにしろ、ついさっき会ったばかりの少女なのだ。自分が知る情報はジュリアから与えられたものだけだし、ジュリアの話からは、彼女の過去を伺い知れなかった。


 だから、カティの知るジュリアの戦闘情報は、必然的にその目で捉えるしかない。

 そして、そうやって見た結果カティは確信した。ジュリアの戦闘能力が、自分のソレに近いのだと。


 急にしゃがんだ姿勢から、素早くしなやかにジュリアは跳躍する。腕とその足の力だけで、体が躍動する。

 四つん這いの姿勢を伸ばし、想像もできない脚力で空に駆け上がった。


 大きな目は、瞬き一つせず周囲を見つめて、耳は、叫び声の残響を聞き分け彼女の身を、事件の発生源まで運ぼうとしていた。


 黒い髪を靡かせ、俊足で駆ける姿はまるで。


 ―――――――黒猫みたいだね!!


                          ○


 ロレインは、密林の奥へ出かけている。俺は今まで屋敷の外にいた。

 つまり、屋敷の中にいるのはただ一人。


 ユリさん!!


 彼女の身を案じて、心が締め付けられる。出会ってまだ数日しかたっていないが、しかし、彼女の優しさは十分に分かっている。

 焦りを速さに変えて、俺は走った。


 屋敷の中に入る愚は犯さない。階段や障害物に邪魔され、速度が格段に落ちてしまう。それに、直線的に移動することが出来ないため、距離の面でもハンデになる。


 だから俺は、屋敷の壁を奔った。


 昔は、これでも町一番の身軽さを持つと言われていた。かつての、黒猫として生きていた時の俺なら容易に出来ることだ。


 人間としては小柄だとしても、体は猫時代に比べて重くなっている。あの発達した後ろ足も、しなやかな体も今は無い。それなのに、何故かつてと同じ事が可能なのか。


 疑問は後だ。ユリさんを危機から救った後にじっくり考えればいい。


 決意で力を呼び出し、俺は屋敷の二階の窓から身を躍り入れた。




                         ○




 反応で悲鳴を上げてしまったが、その後ユリは冷静に対処をしていた。


 ゴキブリはユリの後ろ側に飛んだのだ。彼女の背後には窓が有り、つまりゴキブリとユリの位置が入れ替わっている。

 今やるべきことは、


 ―――――――ゴキブリを外に逃がす事です。


 頭を冷やして考えてみれば、今ユリがいる部屋はあのジュリア様の部屋ということに気付いた。そして自分は、その部屋にゴキブリの汚らわしい燃えカスをバラ撒くところだったのだ。


 ゴキブリに炎弾をかわされたが、むしろそれはユリにとって好都合だった。


 ―――――――ジュリア様のお部屋を、汚くするなど許しません!!


 今後、この部屋からは汚らしい生物を完璧に排除しようと、ユリは決意した。


 なにはともあれ、今は目の前のゴキブリをいかにして外に出すかが大事だ。一旦外に出れば、調度品を傷つける心配もないため、手加減をする必要もない。ただ屋敷に向かってぶっ放すことの無いように、気を配ればいいだけだ。

 それに、自分の目なら、外に飛び出したゴキブリを見失うことなく駆除できる。


 再び魔力を練り上げる。今度は火焔系の魔術ではない。基本的な風嵐系の、ただ魔力を衝撃として外に放つ魔術を選択する。


 力を放つ時間は一瞬だ。ゴキブリが飛びあがったその瞬間に、魔力の風でさらい、汚らしい害虫を窓の外へ押し出す。


 そして、ユリの殺気に反応したゴキブリがその羽を開き、飛んだ。


 ――――――――今です!!


 術式として構成された魔力を、翳した手のひらから放出させる。魔力は空気の波となり、一定の方向性を持ってゴキブリにぶつかった。


 加速。


 ゴキブリのその黒い体が窓に向かって飛び出していく!!


 そして、悲劇は起こった。

 窓から部屋へ飛びこもうとしたジュリア様に、ゴキブリと、低位風魔術が衝突したのだ。






 中途ハンパー!!

 すいません。もうそろそろ、あと、後少しで本来の血沸き肉躍るストーリーに入りたいと思っています。


 そして、ボクっ娘登場。王道ですが、やはり可愛い。

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