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カップル限定デスゲーム  作者: 絶対完結させるマン


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最初の死者

 翌朝、銀次が目を覚ますと兼が焦った声を発していた。


 「守くんはどこだ?」


 見渡せば、確かに守の姿が見当たらない。


 「トイレに行ったんじゃ……」

 「トイレに行く時は必ず誰かと一緒に、って昨日話したじゃないか」


 勝手に一人にならないこと。まだ子どもである都と守は、銀次にこう言いつけられていた。必ず自分か海を同行させるようにと。


 「じゃあ海先輩のところに行ったのかな……」


 寝ぼけ眼をこすりながら、銀次は立ち上がる。


 女性陣がいる隣の車両に入ると「銀次くん!」という海先輩の愛らしい声を浴びせられた。


 「おはよう先輩。守くんこっちに来てない?」

 「守くん? ううん、こっちには一度も来てないけど……」


 海の表情が不安に染まっていく。


 「守くんいないの?」

 「朝起きたらいなくて……田中さんは何時に起きたんですか?」

 「俺もさっき起きたとこだよ」


 時刻は6時だった。しかし、窓の外は依然として真っ暗闇であり、朝が来たという実感はまったくない。


 「探そう」


 銀次の言葉で、兼と誠士郎が動き出す。


 「守くーん! 返事してくれー!」


 大声が焦燥と不安を煽る。

 この時、誰もが不吉な予感を感じ取っていた。しかし、それが外れていることを全力で願っていた。


 全ての車両を見てきたが、守の姿はどこにもなかった。


 「ここが最後……」


 王仁と綾子がいる最後の車両の前で、銀次は立ち止まる。眼前には巨大な本棚が砦のように立ち塞がっていた。


 「あと見てないのはあそこだけだけど……」


 兼がそびえ立つ本棚を絶望的な目で見上げる。

 これを退かすのは至難の業だ。


 「俺たち三人でなら、持ち上げられるかもしれません」


 銀次は兼と誠士郎を見てそう言った。


 「そんなこと言ってもさ……」


 兼は気の進まない様子だった。扉の先には王仁と綾子がいる。


 綾子はともかく、王仁は自分の欲のためなら躊躇いなく人を殺せる危険人物だとわかっている。


 そんな人間に会いに行って「守くんを知らないか」と尋ねるなど、気が進まないのも当然だった。


 「真島さんも嫌ですよね? あいつには一度殺されかけたんだし……」

 「まあ確かに。あんまり関わりたくはないかな」


 二人の反応が芳しくないので、銀次は弱ってしまった。


 「あのさ。まだチェックしてないところがあるよね」


 振り向けば、いつの間にかそこには都がいた。充血した目で銀次を見上げている。


 「チェックしてないところ?」

 「うん。——トイレがあるじゃん」


 電車内のトイレ。三両目にあるそこは、都の言う通りまだ確かめていなかった。


 「そっか。普通に考えてトイレにいる可能性の方が高いか……焦って考えられなくなってた」


 銀次は都にお礼を言って、彼女の手を引いて三両目に向かった。


 銀次たち三人が三両目に着いた途端、都は女性陣が待っている二両目にスタスタ歩いていく。


 「私寝るー。しばらく起こさないで」

 「え? 今起きたばっかなのに?」


 誠士郎が首を傾げる。


 「昨日まったく眠れなかったの。そういうわけだからおやすみ〜……銀くん、またね」


 都は一つ大あくびをすると、二両目に消えていった。


 銀次はトイレのドアをノックする。


 「守くん? お腹痛いの? 大丈夫?」


 中から反応は返ってこない。

 ドアの取っ手に手をかける。鍵はかかっていないようだ。


 「開けるよ」


 そう断ってから、ゆっくりと引き戸を開いていくと、徐々に中の光景が見えてきた。


 便座に人が座っているのが見えて、やっぱり守くんはここにいたんだ、と銀次の背後にいる兼と誠士郎は安堵する。


 しかし、すぐに三人の顔が強張っていく。

 守は便座に腰掛けていた。だがどうにも様子がおかしい。


 背もたれに背中ごと上半身を預けるようにして、ぐったりしている。両手をダランと垂らして足を半開きにして——まるで気絶している人を無理やり便座に座らせたような感じだった。


 俯いていることから、一瞬眠っているのかと思う。寝ぼけた状態でトイレに来て、そのまま寝落ちてしまったのではないかと。


 しかし、全員何となく察していた。

 守がすでに死んでいることを。


 「守、くん……? ヒッ……!」


 銀次が守の肩に手を置いて揺さぶると、守の体はグラリと傾いて床に落ちた。眼球がこぼれ落ちそうなほどカッと開いた両目と視線が合う。


 「あ、あああ……」


 銀次は尻餅をつきながらも、必死に後ずさる。しかしその目線は釘付けになったように守の死体から離れられなかった。


 ***


 「守くん……そんな……」


 守の死を聞いた海は、口元を押さえた。

 昨日知り合ったばかりの関係とはいえ、言葉を交わしわずかに心を通わせた仲だ。ショックは大きいのだろう。


 それは銀次も同じらしく思えた。

 彼は守の死体を発見してから、ずっと青ざめた顔をしている。


 「幼い子どもがあんな目に……許せない! あの子が何をしたっていうんだ!」


 田中兼が拳を座席に叩きつける。


 守の死体は「このままじゃ可哀想だから」と銀次が言ったのをきっかけに、現在優先席に横たえられていた。


 王仁と綾子を除く全員は、守の死体から離れた場所で一塊になって話し合っていた。


 守はどうして死んだのか。


 皆の関心はそれに他ならない。


 いや……もっと突き詰めて言えば、"誰によって殺されたのか"。そのことが気にかかってしょうがなかった。


 しかし、誰もそれを口にしようとはしない。口にするのが恐ろしかった。

 だから兼は代わりにこう言った。


 「あのイカれた主催者……神だか魔法使いだか知らないが、子どもの命を奪うなんて……。人の心がないのか!」


 主催者が守を殺したんだ。そうだ。きっとそうに違いない。


 兼の提示した比較的安心できる考えに、その場にいる者の多くがそれに依存しようとした。

 しかし、兼の言葉に異議を唱える者が現れる。


 「どうして? どうして主催者があの子を殺したって言い切れるんですか?」


 不思議そうに尋ねたのは、百合野心だった。


 「だってあいつしかいないだろ。こんな残酷なことできるのは……」

 「どうして? どうして主催者しかいないと? 他のたくさんの人たちを差し置いて主催者が犯人だと断言できるのはどうしてなんでしょう」

 「どうしてどうしてってうるさいな! そんなの決まってるだろ。あいつがイカれてるからだよ!」


 兼が感情を爆発させる。

 動揺している兼とは対照的に、心は怒鳴られてもなお涼しい顔をして冷や汗の一つもかいていない。


 この人には感情がないのか。


 銀次はそんなことを思ってしまう。


 「ごめんね、田中くん。心さんだって悪気があるわけじゃないんだ」

 「ッ……! いえ……俺も感情的になってすみません……」


 誠士郎に謝られて、兼も溜飲を下げる。


 確かに心から悪気は感じられなかった。そんな人間らしいものは感じ取れずに、ただ純粋に兼の発言が正しくないと指摘するような口ぶりだった。銀次を始めとしたこの場の何人かは、淡々とした口調に恐怖すら感じた。


 『えー現在私が子どもをぶっ殺した犯人じゃないかと、あらぬ疑いがかけられているわけですが』


 その鼻につくあざとい声に誰もが身を固くした。

 主催者だ。


 『結論から言いますと、私は佐藤守さんを殺してません! 私は皆さんを一歩引いたところから眺める立場なんです。自ら積極的に介入してゲームをめちゃくちゃにすることなど致しません!』


 よく言うよ。

 銀次は唾を吐きかけてやりたかった。


 『私は指示を出すだけ。それによって皆さんにどんな影響が生まれるのか。それが関心ごとなのです。ですので私が参加者を殺害するのはあり得ません。あんだすたん?』

 「ッ……! じゃあ……じゃあなんで……! なんで守くんは死んでたんだよ! 独りでに死んだとでも言うのかよ!」


 兼が鬱憤をぶつけるように叫ぶと、主催者は愉快そうに笑った。


 『アハハハッ! それ、ギャグのつもりで言ってるんですか? それとも超がつくほどのど天然さんですか? 答えなど決まってるでしょう! わかっているんでしょう、本当は!』


 やめろ、言うな。


 『犯人はあなたたちの中です! ゲームの参加者が邪魔な他の参加者を殺した! 最初に言ったでしょう? これはただのゲームではありません!』


 バッと両手を広げて愉悦に顔を歪ませる姿が見えるようだった。


 『デスゲームなんですよ、これは! 生死をかけた戦い! 参加者同士で殺し合うのは自然な流れじゃないですか? 何をそんなに不思議そうな顔をしていますか! こうなることはあなたたちもわかっていたはずです! 血が流れるのは避けられないと!』


 主催者の言葉に、心臓が鷲掴みされたようになる。


 そうだ。こんな展開になることを、みんな心のどこかで覚悟していたのだ。一触即発の空気を察知しながらも、それに触れないように気をつけていた。


 認識してしまえば、もう元には戻れなくなるから。


 『そんなわけで私は佐藤守さん殺しに関係ないので。汚名を被せるのはやめてくださいね。じゃあまた次の指示の時に!』


 言いたい放題言って、主催者は消えてしまった。

 あとには地獄のような空気だけが残された。


 「んんん……?」


 銀次はハッとする。


 ずっと眠っていた都が起きたのだ。


 昨夜全然寝付けなかった都は、正午になった今までずっと眠りこけていた。


 守くんの死による重たい空気の中、目が覚める気配がまったくなかったとは、かなり神経が図太いな……と銀次は感心していたのだった。


 そんな都も、主催者の恍惚とした叫び声で眠りから覚めたらしい。


 「あっ、銀くん……おはよう……ん? なんでそんな顔してるの……?」


 都は寝起きが悪いようで、半開きの目が平素の大きな目になるまで数分かかった。


 「都ちゃん……」


 銀次の隣の海が、痛ましそうに顔を歪める。彼女の心境が銀次にはよくわかっていた。


 海が都を抱きしめる。


 「海ちゃん……?」

 「都ちゃん……大丈夫、大丈夫だからね……都ちゃんのことはちゃんと守るから……」


 都はキョトンとした顔で海の抱擁を受け入れていた。

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