奇妙な場所
「もう30分は経ったかな……」
スマホは起動しないし、時計も持っていないので、銀次は体感で時間を測るしかなかった。
「海ちゃん、今どの辺にいるんだろう……」
繋いだ手から、都の緊張が伝わってきた。
「なんかここ怖いし……いかにもお化け出そう。早く帰りたいよ……」
都の言うとおり、ここは不気味な雰囲気漂う場所だった。
駅を観察してみたが、駅には時刻表がなく駅名標に他の駅名も見られない。もちろん人などいるはずもなく、銀次たちは駅の外に出た。
駅周辺には人家などは何もなく、タクシーなども見当たらない。銀次は空を仰ぎ、目が眩んだ。
分厚い雲に覆われて、一条の光も射さなそうな曇天だった。辺り一面に漂う霧のせいで視界が悪く、目を凝らした先に駅舎の赤い屋根が見えた。
都と二人、地面を踏みしめて当てもなく歩いていく。遠ざかる駅舎を見失わないように、時折目で確認しながら。
一応逃げなければ、鬼ごっこにならないので、銀次たちはこうやって駅から離れているのだった。
「あのお姉さんが死んだから、海ちゃんはこれ以上捕まえなくてもいいんだよね」
「うん」
「なのになんであの人たちはお姉さんが死んだ時、一目散に駆け出したの?」
裕也とキアラが逃げ出したのを見て、都は怪訝に思ったのだ。
「あれは……先輩がそんなことする人じゃないってわかってても、なんとなく怖かったんじゃないかな。俺たちを除いたら、残るカップルはあの一組だけだから」
「銀くん。……何か私に隠してることあるんでしょ」
都が拗ねるような眼差しで見上げてくる。
銀次はその眼差しにあっさり陥落して、本心を吐露する。
「先輩は、あのカップルのどちらかを捕まえるつもりだ。捕まえて——殺すつもりなんだ」
綾子がタッチされた瞬間、目の前に広がった惨劇を思い返して、銀次は陰鬱な気分になる。
「そっか……」
都は難しい顔をして黙り込んでしまう。
「キアラちゃんたち、見つからないね……逃げ切れるかな」
こうやって駅から遠ざかる道すがら、二人に出会えるかもと思っていたが、そんなことはなかった。
「どこかに隠れてるのかもしれない」
「その方が安全だもんね。でもこの辺に隠れられそうな場所あるのかな」
銀次は改めて周辺を見渡す。
草木も見当たらぬ、完全なる殺風景。見える建物といえば、数十分前にいたあの駅舎のみ。
まるで大草原にいるみたいだ。霧のせいでどんな風景かはよくわからないが……。
「なんかあの世みたい」
自分で言って怖くなったのか、都が腕に上半身ごとしがみついてくる。
「あの世じゃないよ。あの世に"最も近い場所"だって主催者が言ってただろ。大丈夫だ。もう少しで元いた世界に帰れるよ」
「うん……銀くん、絶対最後まで離れないでね」
「当たり前だ」
銀次は言葉以上の思いを伝えるために、都の頭にポンッと手を置き、都の表情が和らぐまで撫で続ける。
「私、頭撫でられるの好き」
「知ってる」
狙い通り都が安心した顔になったので、銀次は心の底から安堵した。




