ぼっちは嫌だ
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中学生のキアラは黒髪に丸メガネで、今とは真逆の地味な容姿をしていた。
内気な性格で、いつも共に行動している仲良しグループのメンバー以外とはあまり話さない。部活は美術部に所属していて、絵を描くことが好きだった。小学生の頃から昼休みに度々絵を描いて、友達に見せたりしていた。
そんな生活にキアラは満足していた。
ビリビリに破かれた自身の絵が、机の上に紙吹雪のように重ねてあったのを見た瞬間、耳鳴りで鼓膜が破れそうになった。
陰湿な嫌がらせはその後も続いた。
愛用のスケッチブックを便器の中に突っ込まれたり、悪意ある落書きを施された一枚がトイレの壁に張り出されたり。
「キアラ大丈夫?」
「酷いことする奴がいるね」
「ね。マジで誰なんだろ」
友人たちはそう言って心配してくれたが、キアラはだんだんわかってきてしまった。
嫌がらせをしているのは友人たちであることを。
どうしてそんなことをするのか。直接尋ねる勇気は到底湧かなくて、キアラは原因を必死に考えてみた。
「キアラ、まだ絵なんて描いてんの?」
「そういうのは小学生のうちに卒業しときなよ〜」
「教室で描くのはやめた方がいいんじゃない? オタクだと思われるよ。ただでさえ見た目もそれっぽい上に美術部だし……ねえ?」
ことあるごとに半笑いでそう言われていたことにキアラは初めて気づき、ようやく友人たちの要求を察した。
教室にいる時に絵を描くのをやめろ。理由はオタクっぽく見られるから。一緒にいる自分たちまで同じ趣味を持っていると思われるから。
中学生というものが、最も周囲からどう見られているか気になる生き物だとキアラも知っていた。でも、親しくもない他人の目よりも自分のやりたいことをやることの方が、よっぽど大切だった。
自分には友達がいてくれる。親しい人間が趣味を否定しないでいてくれるなら、大勢いる他人にどう思われていても構わない。少なくても味方がちゃんといてくれるなら。
でも、味方が誰一人もいなかったら?
落書きされた絵を黒板に晒されクラス中に笑われてから、キアラは生まれ変わることを決意した。
見た目を少しずつ変えていった。眉毛を整えることから始まり、メガネからコンタクトに変えた。皆の見ている前で絵を描くことはやめたし、喋り方や提供する話題なども、グループの好みに合わせたものにした。
友人たちのキアラを見る目は変わった。嫌がらせはピタリと止んだ。
友人たちの態度が変わってから、キアラはこれまでの自分がいかに見下されていたか理解した。
見た目と雰囲気を一新しただけで——表面的な"キャラ"を変えただけで、彼女たちはキアラをグループのリーダー格として扱った。
キアラは、いじめられなくなったことに心から安堵し、もう二度と以前のような自分にはなるまいと決めた。
一人ぼっちになることだけは嫌だった。友達に見放されることだけは。学校内で味方が一人もいなくなることだけは耐えられなかった。
たとえそれが、ありのままの自分を見せられない味方であっても。
キアラたちは、全員同じ高校に入学した。成績順でクラスが決まるため、クラスも同じになることができた。
高校生になり、キアラは髪を金色に染めて爪にはネイルを施し、完全なる『ギャル』になった。
自分はこのままでいい。このままでいれば、高校生活は安泰だ。
そう思っているキアラにとって、同じクラスの一ノ瀬裕也は妙に癪に障る存在だった。
一ノ瀬裕也は、クラス内の誰ともつるまず、いつも自分の席で好きなことをしていた。漫画を読んだりゲームをしたりアイドルの動画を見たり——誰の目も気にせずに自分の世界に籠っている裕也を見ていると、キアラは無性に腹が立ってきた。
なんでそんなことをしてるの。
正しくない、と思った。
伸び伸びと好きなことをして生きている裕也と、かつての自分の姿が重なって見えた。
自分はいじめられないように我慢して生きているのに、好きなことを好きなようにやる裕也が許せなかった。
裕也にも自分と同じように失ってほしかった。信念を曲げてほしかった。
だからいじめた。
裕也にちょっかいをかけて、チクチクする言葉を投げかけて、グループのみんなで嘲笑した。
なのに裕也は何も変わらなかった。
焦り始めたキアラを、友人たちは徐々に奇異な目で見るようになった。
結局裕也を変えることはできず、友人たちも離れていった。




