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鬼ごっこ

 「はあっ、はあっ、はーっ……しんど……」

 「ごめん松永さん。——ここまでくればもう大丈夫かな……」


 裕也は霧の向こうに隠れた駅の方を見つめて、額の汗を拭った。


 「いい加減っ、離せよ……」

 「あっ、ご、ごめん」


 キアラがずっと彼に繋がれていた手を離す。


 「マジなんなの……急に走り出して」

 「すぐに逃げなきゃ、って思ったから……ごめん」

 「鬼に捕まったら死ぬから? でも一人は捕まえられたんだから、これ以上捕まえる理由はないじゃん」

 「海ちゃ——いや。青井さんは、多分俺たちを狙ってる」


 キアラはギョッとする。


 「アタシたちのうちどちらかを殺すつもりってこと? なんでそう断言できるの」

 「二日目の夜に真島さんを刺したのは、俺じゃなくて青井さんなんだ」


 裕也は海に言い含められて、自分が誠士郎を刺したのだと言わされていたことを告白した。


 「青井さんには、どうしても叶えたい願いがあるんだ。きっと守くんを殺したのもあの人だ」

 「そんな……」

 「あの人は危険だ。確実に俺たちを捕まえる……だから絶対に最後まで逃げ切ろう」


 裕也は、海を推していた過去などなかったかのように、今はただ彼女に恐怖と生理的な嫌悪感を抱いていた。


 二日目の夜、海と誠士郎の取っ組み合いの音で目を覚ましてしまった時のことを思い出していた。


 ——いい? あんたが刺したことにするんだよ。私はこの人を刺していない。この人に襲われていた私をあんたが助けたって設定でいくよ。


 裕也の胸ぐらを掴み、血のついたナイフの先端を眼球に寄せて、海は裕也を脅迫した。


 銀色に光るナイフの切先と、海の真っ暗な瞳が忘れられない。


 裕也が震えているのを見てキアラは、すごいなこいつ……と感心した。


 「そんなガクブルになるほど怖いのに、今まで平気なふりしてたの?」

 「従順でいなきゃ何されるかわからないと思ったから……」

 「殺される前に殺そうとか思わなかった?」

 「人を殺すなんて、そんなことできるわけないでしょ」


 そこで裕也は、王仁のことを思い出して苦しくなった。


 思い出したくない。なのに王仁を刺した時の感触が手に染みついたようになって離れない——。


 あの一撃がきっかけになって王仁は死んだ。俺のせいで一人の人間が……。


 裕也はもうあんな思いはしたくないと思った。

 そして、他人にもあんな思いはしてほしくないと。


 「絶対に見つからないようにしよう。どこかいい隠れ場所がないか探して——」

 「いやだ」


 裕也が差し出してきた手をキアラは払いのける。


 「アタシは金森銀次を探しに行く。一ノ瀬は一人で隠れてなよ」

 「何言ってるんだ! 絶対にどこかに隠れてた方が——」

 「でもこの機会を逃したら、あいつを殺すチャンスはなくなる!」


 あいつは都ちゃんと一緒にいるだろう。女子小学生相手なら、何とかできるだろうとキアラは考えていた。


 本当は海の方が殺しやすそうだからそっちが良かったけれど、仕方ない。


 「無防備な今を狙うしかないの。あいつさえ殺せば、このゲームの勝者になれる——願いを叶えられる!」

 「松永さん……」


 裕也の非難するような眼差しを、睨みつけるキアラ。


 「"あんた"みたいなボッチには、友達の大切さとかわかんないだろうけど、アタシはまたあのグループに戻りたいの。そのためなら何してもいい」

 「なんで……なんでそんなにグループなんかに拘るんだよ。そんなことのために人を殺すとか人間じゃない!」

 「好きなように言いなよ! アタシはあんたなんかに構わず一人で行くから!」


 キアラは吐き捨てるように言うと、踵を返して歩き出した。


 遠ざかっていく背中を見つめて、このままじゃダメだ! と裕也は覚悟を決めた。


 もういい。もう何もかもぶちまけてしまえ。


 「でも松永さん、あのグループの誰も好きなんかじゃなかったじゃん!」

 「は——」


 目を白黒させるキアラに、裕也は一歩近づく。


 「いつも馬鹿みたいに笑っててさ。常にデカい態度取ってないと死ぬ病気にでもかかってんのか、ってくらい自分を作ってたじゃん」

 「アタシはキャラ作りなんてしてないし!」

 「してるでしょ。気持ち悪かったよ。一見松永さんがグループを支配してるように見えるけど、少し気をつけて見てみると実際は真逆なんだから。わざと甲高い声できゃらきゃら笑っててさ。いつも痛々しいなって思って見てたよ!」

 「な、な……!」


 キアラは頭のてっぺんから湯気が出そうなほど、耳まで赤くなっていた。


 裕也の指摘は図星だった。絶対に突かれたくないと思っていた箇所を突かれて、キアラはあまりのショックに口を鯉のようにパクパクさせるしかなかった。


 「ありのままを出せない友達なんてつるむ意味あるの? そんな友達と一緒にいるためだけに人を殺すの? そんなのこのゲームを開催した主催者以上にイかれてるよ!」

 「うるさい!」


 キアラが頭を抱えて、裕也の言葉を脳内から追い出そうとする。


 「あんたに何がわかんの……やっぱりあんたのこと嫌い……気に食わないんだよ! あんたを見てると嫌なこと思い出す……」


 キアラは、中学時代の封印したい記憶を思い出す——。

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