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裕也、キアラ、誠士郎

 銀次たちが指示をクリアした頃、キアラはわめき続けていた。


 「だから無理だって言ってるでしょ! おじさんに抱かれるのも、それをこのオタクにガン見されるのも、どっちも絶対に無理だから!」


 キアラは指示を告げられた瞬間から、ずっと反抗していた。


 「そんなことするくらいなら飢え死にした方がマシ! とにかく私は絶対にやらないから!」


 そっぽを向いたキアラを、誠士郎は途方に暮れた目で見る。


 キアラの説得に失敗すること、10回目だった。


 優しく諭しても土下座して懇願しても餓死の未来をチラつかせて不安も煽っても、キアラは頑なに「うん」と言ってくれなかった。


 裕也はそれを黙って見守っていた。


 「死んでもいいって——本当にそんなことを思ってるのか。死んだら何もかも終わりだよ? ここから出て家に帰ることも叶わない。学校にも行けなくなるし——」

 「学校なんかどうだっていいよ! 戻ったところで友達の一人もいないし!」


 キアラの心の叫びに、裕也はハッと胸をつかれる思いがして、顔を上げる。


 「もう一人だからいいんだよ。家に帰ったって楽しいことなんかないし。もう何もかもどうでもいいの! いいよ、神さまが私を殺したいってんなら潔く死んでやるよ! バーカ!」


 キアラは吹っ切れたように床に大の字になると、天井を見上げて「なんで私がこんな目に……」とさっきまでとは打って変わった弱弱しい声でつぶやいた。


 キアラを見て、誠士郎はなんて無防備なのだろうと感じた。そこに彼女の意外にもおぼこな気質を察した。


 考えが甘すぎる。平和ボケしすぎだ、この子は……。


 女側の意思など関係ない。強引にでも思いを遂げようとする男など、この世に存在しないとでも思っているのだろうか。


 どんなに強気なことを言っていても、力では敵わないじゃないか。


 自分よりも力のある男に押さえつけられてしまっては、ろくな抵抗はできない。


 こっちはやろうと思えば、無理やりにでも指示をクリアできてしまう。


 裕也も、さっきからその展開になることを案じて、気を揉んでいたのだ。


 頼む。頼むよ松永さん。そりゃ不服だろうけど「わかった」と言ってくれないか。


 真島さんが無理やり君を犯すところなんて、見たくないんだ。


 裕也は、暴力による性行為など見たくなかった。嫌がる乙女が押さえつけられて乱暴される場面など、そんなのを見てしまったら一生もののトラウマになる。


 裕也の脳裏には、誠士郎の仰々しい入れ墨が焼き付いていた。


 真島さんは、きっと暴力沙汰に慣れた男なんだ。必要とあらば女子高生を強姦することも、躊躇いなくできてしまうんじゃないか——。


 誠士郎がだんだん苛立ってきているのを感じ取り、裕也は手に汗握る思いだった。


 お願い。早く折れてくれ。じゃないと——。


 「こんなことやりたくなかったけど……しょうがないな」

 「は?」


 誠士郎が仰向けに寝ているキアラを見下ろして「ごめん……」と言う。


 「は? 何言って——ちょっと!?」


 覆い被さってきた誠士郎に、ようやく危機感が芽生えるキアラ。


 逃げようとしたが、時すでに遅し。キアラの両腕は頭の上でひとまとめにされてしまう。


 足をバタバタ動かすも、誠士郎が体重をかけているので、スカートから伸びる生足はむなしく宙を切るだけだった。


 「何してんの! こんなことしてどうなるかわかってんの!? 警察に言うから! 犯罪者として突き出して、あんたの人生終わらせてやる! 絶対絶対終わらせてやるから——はっ!?」


 誠士郎の手が、ブレザーの胸元のリボンを外す。次いでブラウスのボタンを外す音。


 「嘘でしょ、マジでやる気!? ちょっ、やめろってマジ! 脱がすな! 触るな! やめろやめろやめろ!」


 拒絶する声は無視された。叫び声も虚しく、キアラはどんどん脱がされていく。


 豊満なバストを覆うブラが外され、キアラの胸があらわになる。


 彼女はショックで声も上げられなくなっていた。


 初めて他人に見られた。好きな人でもない、恋人でもない、名前しか知らないおじさんに——。


 目の前が暗くなっていく。この異空間に来て三日目。キアラが本当に怖いと思ったのは、この時が初めてだった。


 まだ彼女の温もりが残されたブラは、裕也の足元に放り投げられた。


 裕也は震えていた。目の前の光景に圧倒されて、キアラ同様声すら出せなくなっていた。


 なんとかしなくちゃ。松永さんを助けなくちゃ。真島さんを止めなくちゃ。こんなの絶対にダメだ。


 そう思うのに、凍りついたように足が動かない。言葉は喉が潰されたように出てこない。

 全身を嫌な汗がダラダラつたう。


 「やめて……」


 キアラの消え入りそうな声に、裕也はハッとする。


 「やめて、ください……お願いします……犯さないで、ください……痛いの、やだ……」


 顔中を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして、キアラはプライドも何もかもかなぐり捨てて懇願していた。


 誠士郎はピタリと動きを止めたが、彼女の上からどこうとはしない。


 キアラがどれほど嫌がろうと、どの道抱かなければこの車両から出られないのだ。それはすなわち死を意味する。


 誠士郎は、どうしても生きなければ、勝ち残らねばならなかった。生き残らねばならない事情があった。


 たとえ、どんな罪を犯したとしても——。


 覚悟を決めた誠士郎は、キアラのスカートの中に手を入れる。


 下着を掴まれた時、キアラは絶望して首を右に傾け、誠士郎から視線を逸らした。


 絶望に染まった真っ暗な瞳と裕也の目が合う。


 その瞬間、裕也の中で何かがはじけた。


 「待ってください!」


 誠士郎は動きを止めてくれた。裕也に向かって「……何?」と言いたげな視線を向けている。


 「松永さんを離してください」

 「ッ……! 俺だってこんなことやだよ。やりたくないよ……! でも、でもこうしなきゃ俺は心さんと一生会えなくなる。それだけは絶対に嫌なんだ!」

 「わかってます。ですから——松永さんじゃなくて俺にしてください」


 その言葉に、誠士郎もキアラもギョッとする。


 「セックスは男女でなくてもできるでしょう。男同士でも——指示の内容的にも問題はないはずです」


 二人がセックスするのを一人が見ていないといけない。

 ただし、セックスするのは恋人同士ではいけない。


 自分と誠士郎が交わり、それをキアラに見てもらう。別にそれでも条件は達成し得る——。


 「いいの?」


 誠士郎の気持ちはわかる。なぜそこまでするのか。恋人同士といっても形ばかりの愛のない関係ではないか。それどころかキアラは裕也をいじめてきた相手だ。


 そこまでしてでも庇いたい相手なのか。


 「確かに散々嫌なことされたし、毎秒のようにふざけんなって思ってます。教室で馬鹿みたいに笑う松永さんを見て、どうしようもなく不快な気分になったことも、幾度もあります」

 「じゃあなんで——」

 「それでも」


 裕也は、決意が鈍る前に言い切ってしまう。


 「それでも俺は、一応松永さんの彼氏ですから」


 キアラの瞳に光が宿る。


 「わかった。君がそこまで言うなら」


 誠士郎がキアラの上からどく。

 裕也は、足が生まれたての子鹿のように震えて立てなくなっているキアラに歩み寄ると、床に落ちていたブラを持ち主に差し出した。


 「あんた……」

 「見たくないだろうけど、ちゃんと見ていて」


 裕也の顔は、恐怖と恥ずかしさで酷いものになっていた。


 キアラはそんな裕也の形相を見て、グッと何かを耐えるような表情になった。


 裕也は床に四つん這いになると、足を開いて誠士郎に尻を突き出すようにした。


 そんなポーズを取るだけでも、顔から火が出そうだ。


 裕也の頭にあるのは、一刻も早くこの時間を終わらせてほしいということだけだった。


 「できるだけ早く……終わらせてください。真島さんも男なんて抱きたくないでしょう」


 そう言ったが、もちろん裕也は男との経験などなかった。尻の穴に指の一本も入れたことはない。


 そんな状態ではたして成人男性の一物が入るのか。


 誠士郎は、急に挿れたら痛いし中が切れてしまうだろうと思い、まず指を一本挿れようとしたが、それを裕也は拒んだ。


 「そういう気遣いはいりません。どれだけ痛くてもいいから早く終わらせてください」


 その声が屈辱で震えていたので、誠士郎は彼の希望通りにすることに決めた。


 ズボンのチャックを下ろすと、下着の隙間から気合いで無理やり勃ち上がらせたそれを、本来出口である場所に当てる。


 「本当にすまないっ……!」


 裕也の腰を掴むと、一思いに挿入する。


 案の定、スムーズにはいかなかった。裕也の口から迸った断末魔の叫びが、重苦しい空気が蔓延する車両内を切り裂く。


 尻から体が二つに裂けていくような激痛が裕也を襲った。

 死んでしまうかと思うほど痛かったのに、誠士郎の男根はまだ三分の一も入っていない。


 「やっぱり少しは慣らさないと——」

 「大丈夫です! 平気ですから、このまま最後まで……早く……!」


 この状況はどういうことかと、裕也はそう思わずにはいられなかった。


 床に四つん這いになって尻を突き出して、身を切られるような痛みに襲われながら、男に犯してくれと懇願している。


 これ以上の辱めが世に存在するのか。


 誠士郎がもう躊躇わないようにと、裕也は歯を食いしばって決して苦悶の声がもれないようにする。


 「ッ……!!!」


 わずかでも動くたびに激痛が伴う。腰を進められる度に逃げ出したくなる。床に爪を立てて痛みをやり過ごそうとするも、そんなものは気休め程度にしかならなかった。裕也は無力感に打ちのめされていた。


 誠士郎もキツイらしく、苦しげな息が裕也の首にかかる。ようやく全部入った頃、裕也の床に立てた爪はボロボロになって、割れた爪の先が床に散らばっていた。


 「全部入ったよ。……動いていい?」


 裕也は怪しい呼吸音の合間に、なんとか聞き取れる声で「どうぞ……」と答えた。


 緩やかな律動が始まり、裕也の口からカエルが潰されたような醜い声が出る。


 内臓が揺さぶられる感覚だった。痛くて気持ち悪くて苦しくて——込み上げてきた嘔吐感を裕也は懸命に耐えた。我慢していると吐き気はさらに募ってきて、裕也の顔色はゾンビのようになった。


 まだか。まだ達さないのか。

 遅漏であるな。どうか早漏であってくれ——。


 裕也はそう願わずにはいられなかった。


 ふと顔を上げてしまい、裕也は後悔した。


 キアラの怯えた瞳と目が合ってしまったからだ。


 自分が男のプライドなどかなぐり捨てて同じ男に身を任せているのをまじまじと鑑賞されて、裕也はとうとう泣き出してしまう。


 鼻水が口の中に入って気持ち悪い。呼吸がしづらくなってますます苦しくなる。


 「うっ……おえぇっ」


 裕也は胃液を吐き出す。息が上手く吸えない。


 苦しい。痛い。恥ずかしい。気持ち悪い。しんどい。


 目の前が暗くなった時、誠士郎が中から男根を引き抜いた。


 床に精液が吐き出され、指示は無事クリアとなった。


 よかった——終わったんだ。


 全身の力が抜けた裕也は、床にうつ伏せに倒れ込んだ。

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