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NTRしないと出られない部屋

 「三人で一体何をさせるつもりなの?」


 海が怖々と尋ねる。


 『メンバー発表をしたところで、みなさん三グループの共通点に気づきませんか?』


 共通点?


 銀次が答えに辿り着くより前に、主催者が答えを口にする。


 『正解は、恋人同士の二人と第三者、という組み合わせであることです』


 なるほど確かにそうだ。

 その口ぶりだと、わざわざその組み合わせにしたのも、何か意味がありそうだ。


 『三日目の指示の内容は——』


 銀次は心して次の言葉を待つ。


 『今そこにいるメンバーでセックスしてください』

 「…………は?」

 『そうすれば車両を移動できるようになります』

 「ちょっ、ちょっと待て! 意味がわからないんだけど——今、セ、セックスって言ったのか?」


 他の者たちも似たような反応を見せているらしい。主催者は、

 『予想通りの反応ありがとうございます』

 と満足げだ。


 『しかし、ただセックスするだけではダメです。二人がセックスするのを一人が見ていないといけません』


 つまり、百合野さんに俺と先輩の、その……アレを見届けてもらわなくちゃいけないのか!?

 地獄すぎるだろ!


 しかし、主催者の思惑は銀次の想像の上をいっていた。


 『ただし、セックスするのは恋人同士ではいけません』


 は?


 脳が理解を拒んでいた。

 だって。それはつまり——。


 「銀次くんと百合野さんがしているのを、私は見てなくちゃいけないってこと……?」


 海が震える唇から、おぞましい内容を紡ぎ出す。


 『そうです! 恋人が赤の他人に寝取られるところを、指咥えて見てろってことです!』

 「ふざけるな!」


 銀次は、思わず拳を壁に叩きつける。


 「そんなこと承知する人がいると思ってるのか! そんな最低な指示に従うくらいだったら、ペナルティを受けた方がマシだ!」


 銀次は、この指示は遂行されないだろうと予想していた。恐怖に震えながらも、ペナルティを受け入れることを願うだろうと。


 その方がよほどマシな指示だった。


 しかし、主催者はどこ吹く風といった様子で言ってのける。


 『指示をクリアできなかったら、そこから出られないんですよ? ずっとずっと——ゲームが終わるまで』

 「それでいいさ! 今日でもう三日目だ。ゲーム終了までここで籠城してみせるさ!」


 そうだ。こんな指示に従う理由なんてない。

 希望を抱き始めた銀次を、主催者が叩き折る。


 『あ、ちなみに今後、水や食料などの必需品は、現在誰もいない三両目に出すことにしますからね』


 ぐわん、と視界が揺れるのを感じた。


 それは指示を遂行しない限り、ライフラインを断たれるということにほかならなかった。


 四日間、水と食料なしに生きられるものなのかどうか。


 もしかろうじて生きられたとして——そんな飢えと渇きによる地獄の苦しみを、先輩や百合野さんにも味わせるのか。


 『意地を張るのもまた趣がありますが、早いとこやってしまった方が苦しまなくて済むと思いますよ。ではまた〜』


 銀次を嘲笑うように、主催者はそう言い残した。


 「銀次くん……」


 海が苦痛に満ちた顔で銀次を見上げる。

 そのまま彼を抱きしめて、胸元に顔をうずめた。


 「……私ね。銀次くんのこと好きだよ」

 「先輩……」

 「銀次くんは、あの日からずっと私のヒーローだった。銀次くんの初めては全部私がもらいたいよ。手を繋ぐのもハグもキスも。もちろん初めて結ばれるのも私であってほしい。私じゃなきゃ嫌だ。私じゃなきゃ許さない。なのに……なのになんでこんな……」


 海は、銀次の胸に爪をつき立てる。


 「まだキスすら"あの"一回しかしてないのに……」


 主催者によって半強制的にさせられた、ほんの少し触れるだけのキスとも呼べないキス。


 付き合って半年以上経つのに、銀次はいつまでも海と"そういうこと"ができないでいた。


 しかし、海も気が長い方ではあったので、特に不満を爆発させるようなこともなかった。


 銀次が自分の恋人で、他の誰ともそういうことをしないという確信があれば、彼女はおおむね満足だったのだ。


 いつかは結ばれる予定だった。いずれ自宅に招いて、お家デートの最中にさりげなさを装って事に持ち込もうと。


 「なんで……なんでよ……」

 「先輩……」


 銀次は、こんなに可愛い彼女に涙を流させてしまったことを心苦しく思っていた。


 そして、これからもっと泣かせるようなことを実行しなければならないことを。


 「……ごめんなさい」


 海は顔を上げる。その大きな瞳が絶望の色に染まっていた。


 銀次は踵を返すと、心に向き直った。


 「百合野さん。お願いがあります」


 心を見て、銀次は目をむいた。

 心はロングスカートの中に手を突っ込んで、下着を脱ごうとしている最中だった。


 「なっ、なにしてるんですか!?」

 「なにって……やらないと指示をクリアできないじゃないですか」


 受け入れの早さと躊躇いのなさに銀次は戸惑う。


 「待ってください。俺に提案があるんです」

 「行為を行わずに出られる方法を見つけたんですか」

 「すみません、そういうわけではないんです……ただ、お互いダメージを最小限にする方法ならあります」


 銀次は、その方法について語る。


 「最初に自慰行為をして、体を万全に整えた状態で挿入するんです」


 性行為という感じが極めて薄いものにしたい。


 前戯から始めるセックスは、思い合う二人がやるものというイメージが銀次にはあった。さりとて受け入れる準備ができていない女にぶち込むなんて乱暴なことはできない。


 そのための自慰行為だった。銀次は勃たせて、心は濡れさせる。互いの性器を臨戦体制にした後、機械的に挿入する。


 「どうせ愛がないなら、愛撫も前戯もされたくないでしょう。百合野さんにとっても悪いやり方じゃないと思うんですけど、どうですか?」

 「別に私はどんなやり方でもいいです。金森さんがそれがいいっていうなら、異論はありません」


 決まりだな。銀次は車両の隅へ行こうとする。

 その腕を海が掴んだ。


 「せっ、先輩? 俺、向こうの隅っこの方で準備しようと思うので……その、離してくれないと困るんですが……」

 「私にやらせて」

 「はっ!?」


 何を言い出すのかと耳を疑ったが、海は再度言い募る。


 「私に"準備"させて。私に銀次くんのアレを触らせてよ」

 「アイドルがなんてこと言うんですか! させられませんよ、そんなこと!」

 「……アイドルじゃないよ。今の私はただの女の子だよ。銀次くんの彼女だよ……」


 銀次の腕に柔らかい部分を押し付けてねだる海。


 そんなことをされてしまっては、意思とは関係なしに勃ち上がってしまう。それが男という生き物だ。ましてや銀次はそれなりに精力旺盛な男子高校生だった。


 「う……でも……」

 「せめて興奮させるのは私がいいの。ね? 一生のお願いだから」


 言いながら、海はズルズルと銀次を引っ張っていく。口では"お願い"と言いながらも、有無を言わせない押しの強さと目の決まりっぷりに、銀次はたじたじになる。


 「——脱がすよ。うわっ」


 結局承諾を得ないまま、ズボンのチャックを下ろす海。


 「まだ触ってもないのに……」


 銀次は恥ずかしさのあまり消え入りたくなった。手をチャックに伸ばすが、海によって押し留められる。


 「せ、先輩! もう勘弁してくださ——」

 「どっち?」

 「え?」

 「百合野さんとすることを想像したの? それとも私に触られることを想像して?」


 勃起の理由を尋ねられているのだと気づき、銀次の顔がカッと熱くなる。


 「ねえどっちなの」

 「せ……先輩に、俺のアレ、触られるの想像して、です……」


 口元を押さえてそう言うと、海は満足げに微笑んでみせた。


 「よかった」

 「あっ、ちょっ、先輩! ……あっ」


 下着越しに触られて、銀次はビクッと震えた。


 「はっ……! ああっ! くっ……!」


 指の腹で遊ぶように撫でられ、口から拷問を耐えているようなうめき声がもれる。


 「ちょっ、ホントにやめ……!」

 「もう出ちゃいそうなの?」

 「そうじゃないです。そうじゃないですけどぉ……!」


 なんなんだこの状況は。


 本当にまずい。憧れの人にこんなことさせてるこの状況に、ハートが耐えられそうにない。


 罪悪感に渦巻く思考が秒単位で快感に邪魔されて、頭がイカれてしまいそうだ。


 海の手が下着を下ろそうとしてきたので、それだけはいけない! と銀次は海の手首を掴んだ。


 「もう大丈夫です!」

 「え、でも——」

 「もう完全に仕上がりましたから! 逆にあと少しでも擦られたら爆発しちゃいます!」


 こんなとこでムダ撃ちされたら先輩だって困るはずだと、銀次はいつにない迫力で言い切る。


 銀次はチャックが開いたままの状態で、ズカズカと心の元へ向かう。


 「私も今終わったところです。いつでも挿れられる状態ですよ」


 そう言うと、心はスカートの中に突っ込んでいた手を出した。濡れそぼった指先が電灯の下、てらてらと光っていた。銀次は見てはいけないものを見てしまったような気がした。


 心は足首にまとわりついていた下着を外して、自分の隣に畳んで置くと、座席に座ったままの状態でパカっと開脚した。


 「ではいつでもどうぞ。できるだけ手短にお願いします」


 そう言うと同時に、タイミングよくロングスカートの裾がスルスルと心の太ももへと滑り落ちていった。雪のように白い肌と控えめな陰毛に隠されたあそこが光の下にさらされる。


 心の下半身は、今だけは完全に銀次の自由になり得る物になっていた。


 知り合ったばかりのなんの思い入れもない、恋愛対象にすらなり得ない年下の男に、最も大事な場所を明け渡している。


 そんな恥辱にまみれた状況下でも、心の表情にはなんの変化も現れなかった。


 「……先輩」


 銀次はベルトを外して、勃ち上がった自身のものを握る。


 海は唇を血が滲み出るほど噛み締めていた。この世の全てを呪っているような気迫に満ちた表情に、銀次は背筋が凍るような思いをした。


 「すぐに終わらせるんで。……絶対にちゃんと見ててください」


 海が頷いたのを確認して、銀次は「挿れます」と相手に通告してから挿入した。


 柔らかな肉の感触が、弾力と温もりをもって銀次を迎え入れる。


 何もかもに無感動のようなこの人でも、体の中はこんなに温かいんだな。


 銀次は眉ひとつ動かさない心を見て、そんなことを思った。


 銀次のものがゆっくりと心の中に入っていく。彼女の中は緩くもないが侵入できないほどキツくもない。膣内は十分な滑り気を帯びており、銀次は十分に準備をしてくれた彼女に感謝した。


 「入りました。……少し動いてもいいですか」

 「どうぞ」


 銀次はゆっくりと腰を振る。

 銀次は童貞だった。自分でしごくのとは全然違う感覚に、もしイけなかったらどうしよう、と不安を覚えた。


 ふと温かい風を胸に感じて、銀次は下を見る。

 風の正体は、心がもらした吐息だった。


 銀次が動くと、形の良いその唇からはっ、はっ、とかすかな息がもれる。よかった、不感症というわけではないのかと、銀次は勝手に安堵した。


 心の口から喘ぎ声やうめきは出てこなかった。ただ熱い吐息のみが銀次の耳朶をくすぐり、胸のあたりにかすかな風を送っていた。


 よく見れば挿入前と比べて、心の頬は赤く染まっている。目は相変わらず虚ろでなんの光も宿していないが、体温は確実に上昇してそれが顔にも現れているのだった。


 その証拠に、誰も足を踏み入れていない雪原のような首筋にも、うっすらと汗が滲んでいた。汗ばんだ首筋に髪の毛が一本張り付いていて、それを見て初めて銀次は、自分は女性と性行為をしているのだという実感が襲ってきた。


 銀次は目を瞑り、何も考えずに腰を振る。早く終わってほしいと、祈るような気持ちで限界を待ち侘びる。


 やがてその瞬間が来て、急いで引き抜くとほぼ同時に、銀次の先端からドロリとした白が出てくる。


 足元の床に滴り落ちたそれを、銀次は気まずい思いをしながらタオルで拭き取る。


 心は、カバンからティッシュを取り出して、ニ、三枚抜き取る。銀次の目の前だということなど頓着せずそれを股に持っていき、秘部を綺麗に拭き取る。


 そばに置いていた下着を穿くと、心は何事もなかったかのような顔で立ち上がり、次の車両へ通じるドアを開いた。


 乱れた衣服を整えた銀次は、振り返るのが恐ろしかった。


 「すみませんでした!」


 床に額を擦り付けんばかりに、勢いよく土下座する。


 俯いている銀次には、海がどんな顔をしているのかわからなかった。それでいい。その方がいいと思った。


 「そんなことしないでよ、銀次くん」


 海がしゃがみ、銀次の肩に手をかける。その手つきは『君は悪くないよ』と伝えていた。


 「本当はこんなことやりたくなかったんだって、私わかってるから……」

 「でも、先輩に嫌な思いをさせてしまった……もし俺が先輩の立場だったらと思うと……」


 ああもし逆の立場だったら。自分が恋人と他の男がまぐわっているのを指を咥えて見ていなくちゃいけない立場だったら。


 恋人の初体験を自分ではない他の男が特に欲してもいないのに奪うところを、まざまざと見せつけられたら。


 100パーセント相手の男を殺したくなってしまう。

 相手もイカれたゲームの被害者であることなどどうでもよくなるかもしれない。


 本当になんて残酷な命令をするんだ。


 銀次の激しい怒りは、主催者に向いた。


 海の中でも、強烈な殺意が芽を出し始め、彼女を支配していった。

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