海、誠士郎、裕也
裕也のいびきと海の規則的な寝息を聞きながら、誠士郎は頭を抱えていた。
俺にはどうしても叶えたい願いがある。主催者が与えると約束してくれた"ご褒美"が死ぬほどほしい。
しかし、それを叶えるためにはあと四人の人間に死んでもらうしかない。
その事実が誠士郎の肩に重たくのしかかっていた。
三時間前。二人が目を離しているほんの少しの間に、二人のペットボトルに睡眠薬を混入させた。まったく別の人物に使うつもりで鞄に入れていた物を、まさか会ったばかりの他人に使うことになるとは思いもしなかった。
中身を飲んでからものの数分で、海と裕也は座席に横たわって瞼を閉じた。
誠士郎は、熟考した末に覚悟を決めた。
横たわる海の上にのしかかり、細い首に手をかけようとする。
その瞬間腹に衝撃を感じて、誠士郎の動きが止まった。
「ガハッ……」
狼狽しているところを、すかさず二発目の蹴りがお見舞いする。誠士郎は慌てて腹を押さえて距離を取った。
視界の中で、海がゆらりと半身を起こす。光の灯らない真っ暗な瞳は、誠士郎を捕らえて離さない。舌先を蛇のようにチラリと覗かせたのを見て、誠士郎は欺かれていたことを悟る。
海は睡眠薬入りの水を飲んでいなかった。飲むフリをしていたのだ。そうして今の今まで狸寝入りを決め込んでいたのである。
海は立ち上がり、誠士郎を睨みつける。
「真島さん——残念です」
誠士郎は取り繕おうと口を開いたが、やめた。
こうなった以上、もう誤魔化すことなんてできない。
海を殺すしかないのだ。
「……ごめんなさい」
そう謝罪すると、誠士郎は海に突進した。リノリウムの床に押し倒そうとする。
海は力いっぱい抵抗してみせたが、女子高生と成人男性の力の差は歴然だった。
海は馬乗りになられて、口を手で塞がれて叫び声も上げられなくされた。
誠士郎の震える手が、海の喉を締め上げようとしたその時、かつて感じたことのない激痛が誠士郎を襲い、視界が真っ暗になった。
予想外の展開に思考が追いつかないまま、誠士郎は薄れる意識の中で自分を傷つけた相手のことを考えた。