お盆の海に近づいてはいけない話
皆々様、お待たせしました。お待たせしすぎたかも
しれません。このところ謎の長編の投稿にかまけて、
超人気シリーズ「幽樂蝶夢雨怪異譚」の投稿の方が
すっかりお留守になっていました。長編XOの投稿
も好評の内に無事に終わりましたので、これからは
珠玉の短編の投稿を、これまで以上に頑張ります。
毎年お盆には地獄の釜の蓋が開いてご先祖/死者が
あの世からこの世へと海を経由して帰ってくるので、
この時期は海で遊んではいけないと私なんかは子供
の頃から当たり前のように聞かされておりましたが
皆さんはいかがでしたか?日本は海に囲まれた島国
で海難事故も多く、それに纏わる怪談も多種多様で
本当にいっぱいあります。したがってこういう教訓
めいたお話も子々孫々、語り継がねばなりませぬよ。
では読んでたもー♪ 南無阿弥陀仏波阿弥陀仏。
ビーチでスイカ割りを楽しむビキニのエコルン。AIが
バージョンアップしたらしくいつもどおりに出力したら
思いのほかビジュアルが大胆に仕上がっておりちょっと
焦りましたがまあ残暑見舞いということでご査収下さい。
サービスサービスゥ♪
大学三年の夏休み、私はサークル仲間の三人と一緒
にレンタカーで旅行に出掛けました。気の置けない
仲間との旅は本当に楽しくて、このままいつまでも
続けられたらと思ったものです。その日も馬鹿話に
興じながら海岸沿いの国道に車を走らせていました。
しかし照りつける夏の日差しは強烈で、冷房のない
車内は窓を開け放しても蒸し風呂状態…… さすがに
私達も、車を停められる場所がないかと捜しました。
運よく五分も走らないうちに海岸沿いに松を植えた
防砂林が見つかりました。その向うには無人の砂浜
が広がっています。
「おお、いいじゃん、あそこあそこ!」
松林の間から、白い砂浜と遠浅の青い海が見えます。
周囲は全くの無人でした。
「綺麗な砂浜なのに、どうして誰もいないのかな?」
「海水浴にうってつけの、いい天気なのにな」
「…… お盆だからじゃないかなあ」
一斉に、私に視線が集まります。
「おばあちゃんが言ってたんだよ。お盆には、死者が
海から帰ってくるから泳ぎに行っちゃいけないって。
漁師も仕事を休むらしい…… 」
私が話し終えると友人Aが興味津々といった様子で
聞き返してきました。
「つまりこの時期に海に入れば、幽霊を見られるって
こと? すげえじゃん!」
私以外の三人は、顔を見合わせると、歓声を上げて
海に向かって駆け出しました。そして着ている物を
砂浜に脱ぎ捨て、我先にと海に入っていきました。
躊躇しましたが、臆病者と思われるのも癪なので、
私も急いで後を追いました。
海水が、火照った体を心地よく冷やしてくれます。
仲間と遊んでいるうちに、祖母の話も忘れて楽しい
夏の午後を満喫していました…… そのとき水の中で、
何者かが私の足首を掴みました。悲鳴を上げると、
悪戯好きのAが水中から顔を出しました。
「へへ、びっくりした?」
「おまえなあ…… ふざけんなよ!」
怒ってAを追いかけましたが、運動神経のいいAは、
笑いながらすいすい泳いで、遠くまで逃げました。
「幽霊なんかどこにいるんだよぉ、おい!」
Aは水面から顔を出して、大声で私をからかいます。
「助けてくれよー! 幽霊が出るよー!」
そして、おどけて溺れる振りをしてみせました。
「おーい、助けてくれよー」
Aは、陽気で愉快なキャラクターですが、いささか
しつこいのが玉に傷です。
「おーい! 助けてくれったらぁ…… 」
いらいらした私は、しつこいAに捨て台詞のひとつ
でも吐いてやろうと思って、背後を振り返りました。
そして、ようやく異常に気づいたのです。
「た、助けてくれええ! 助けてくれったらああ!」
Aが溺れていました。立とうと思えば立てるはずの
遠浅の海で、海面から顔が出たり沈んだり…… 必死
の形相でもがいて、喘ぎ、噎せて、水を吐いて……
とてもふざけているようには見えませんでした。
「大丈夫か、A!」
私は慌てて駆け寄ると、水中に没しかけたAの腕を
掴みました。ところが、力を入れて引き寄せようと
しても、それは全く動かず、むしろ逆にぐいぐいと
水中に引き込まれていくのです。Aの髪が水の下で
揺れています…… このままでは、彼の命が危ない!
そう思ったとき、駆けつけたBとCが、ガッシリと
私の体を捉え、力任せに引っ張り上げました。反動
で後方に転倒する二人…… その勢いで数珠繋がりに
私が、続いて私に腕を掴まれていたAも、力ずくで
引っこ抜かれるように水面に…… そしてその最後に、
顔面が焼け爛れた防空頭巾の女が、Aに抱きついた
形で水中から飛び出してきました。磯の香りと硝煙
の香りに、腐敗臭の混じった悪臭が周囲を満たして、
私たちが恐怖の悲鳴を上げた瞬間に、その女の姿は、
夏の海の中空に掻き消えました。
意識を失ったAをみんなで抱えて、車に戻りました。
Bが運転席でCは助手席、私とAは後部座席。Aの
脇腹から腰に掛けて強い力に締め付けられたような
大きな痣がありました。Aは紙のような顔色でした。
お盆に海に近づくものではありません。折角の旅行
が台無しになってしまいました。予定を切り上げて
早急に家に帰ろうという話になりましたが、なぜか
Bはなかなか車を発進させようとしません。
「おい、何をやってるんだよ? 早く行こうぜ」
Bは返事をしません。助手席のCも見て見ぬ振りか、
そっぽを向いています…… 私は、ちょっと苛立って、
シートに手を掛けると、前に身を乗り出しました。
「おい、聞こえてるんだろ? どうして…… 」
BもCも震えていました…… 意識のないAまでもが、
痙攣のように震え始めました。お盆に海に近づいて
はいけません…… 磯の香りと腐臭が、鼻を刺します。
見下ろすとハンドルの下のBの両足を、二本の細い
腕がしっかりと掴んでいました。そしてその奥から、
焼け爛れた顔の防空頭巾の女が、首を揺らしながら
虚ろな眼差しで、私たちをじっと見上げていました。
助手席のCが、声を絞り出して言いました。
「それ以上、顔を動かすな…… 見るなよ」
頭では分かっていました。しかし恐怖を感じた私は、
Cの言葉を無視して、周囲を見回してしまいました。
防空頭巾の子供。溺れ死んだ漁師。心中した男と女。
鎧武者。水難事故で死んだ児童。ボロボロの軍服の
兵士。浮腫んで顔の形も定かでない胎児や幼児……
お盆に帰る先のない亡者が、狭い車内にありえない
ほど濃密に犇めいて、押し合いへし合い、私たちを
餓えた眼差しで見つめていました。そして車外には、
砂浜から上がってきた、さらに多くの亡者が、幾重
にも車を取り囲み、車内を覗き込んでいました。
お盆に海に近づくものではありません。
お盆に海に近づくものではありません。
本当に、お盆に海に近づくものでは……
いかがでしたか?亡者の群れにこんなに囲まれたら
確かに怖いかもけど、亡者にしてみたら現世の若者
がこのタイミングで遊びに来てくれたということで
素直に盛り上がって、みんなで歓迎したのかもだと
思えば、あの世の風物詩というかエンタメと思えば
抵抗なく受け入れられるのではないか(無理か)
割とバリエーションがある話ですが溺れかけた人を
引っ張り上げたら防空頭巾の女が抱きついていたと
いうビジュアルは、まずそれを思いついてから前後
の展開を遡って構成した記憶があります。放送した
バージョンでは、その女だけが車に乗り込んでいる
オチだったのですが、せっかくリライトするんだし、
お化けの参加人数を増やしてちょっと華やかにして
みました(←華やかなのか?)
お盆の話はもうひとつあるので今月中に投稿します。
お楽しみにねん♪