第6章 勇者パレード
この恐ろしい光景を目の当たりにして、僕も思わず一歩後退した。
突如現れた七色の紙片が街中で沸騰し、うごめき、押し寄せる人波が広場から草原の青草の如く放射状に大小の通りへと広がっていく。
ベリナ全体が絶え間ない叫び声と称賛の声(一部妙なものが混じっていたが)に響き、普段にはない賑わいと活気で満ちていた。
広場の人波はさらに勇者が入場する東門の方向へ殺到し、丘陵の地形を活かし、上から下へと勇者のパレード全体を見下ろそうとしていた。
僕? 悪いけど、人混みに押し潰されて肉餅になるつもりはないから、逆方向に退いて気楽な観客でいることを選んだ。とはいえ……
「これ、めっちゃ大げさだな……」
街全体が家族総出で盛り上がる雰囲気に、僕はちょっと苦笑した。
勇者。「霊灯神教」が千名近い聖騎士の中から選び抜いた、聖剣の加護を持つ英雄だ。
彼は凡人には到底持ち得ない力と優れた知恵を備え、全人類から崇拝され、最前線で好戦的で血に飢えた魔族や異獣と立ち向かう。
千年続く種族戦争では、わずかなミスでも勝利が潮のように崩れ去る可能性がある。
だが、勇者は灯火の女神が授けた聖剣を手に、その絶対的な力で聖国の聖騎士たちを率い、南北大陸の魔族を一掃した。
彼が訪れた場所では、魔王率いる連合軍はことごとく敗れ、南北大陸の小国では現地の王族以上の名声を得た。
肖像画や彫刻から、勇者を主人公にした物語や歌劇まで、その周辺産業は前世の芸能産業よりも完璧で、コスプレイヤーがパレードで勇者に扮する勇気がないこと(下手したら絶対殴られる)以外は完璧だ。
それどころか、勇者の常居地であるベリナは勇者崇拝に熱狂的で、正直、僕の勇者に関する知識はほぼ道中の観光客から聞いたものだ。その情報量は膨大すぎて、どれが本当か見分けられない。
なんせ彼は公の場でヘルメットを脱いだことがなく、性別や容姿は夢見がちな男女の妄想でしかない。
僕が聞いた話では、彼は聖剣がめっちゃデカく(?)、姫よりも百倍美しいイケメン勇者……らしい?
いや、僕何言ってるんだ?
勇者がこちらに近づいているせいか、遠くの叫び声は時間が経つにつれさらに大きくなり、さっきの数倍狂った雰囲気が東区から中央広場全体に広がった。
案の定、数分後、前方の人波がざわめき始め、空を指す旗が人混みから頭を出した。
僕は木陰からゆっくり立ち上がり、人波に混じって前方へ進んだ。
「でも、これめっちゃ盛大だな……」
結局、僕は肉餅にされた。
数台の華やかな装飾のオープン馬車が街角から現れ、雷のような歓声と舞い上がる七色のリボンとともに視界に入った。
白い馬車には輝く金縁が施され、美しい花紋が女神を讃える水晶の彫像を取り囲む。軍装の将領たちが先頭の馬車に立ち、群衆に軽く手を振って挨拶した。
先頭を引く白い駿馬の体には温かく穏やかな炎が燃え、空中に黄橙色の軌跡を描き、霊灯神教を導く灯火を象徴していた。
周囲には数十人の衛兵隊が人間の壁を作り、押し寄せる群衆を必死に押さえていた。
そう、群衆が食い入るように見つめ、近づこうとした輝く星――それが二台目の馬車に立ち、皆に手を振る勇者、「星塵の剣」アヴァロンだ。
「「「ああああああ! 勇者様!!」」」
「「「勇者様、大好きです!!!」」」
「「「勇者様、私をあなたの犬にしてください! アヴァロン様やあああ(///▽///)!!!」」」
「……頭おかしい、完全に頭おかしい。」
勇者アヴァロンはそんな個性的(?)な叫びにあまり動じず、ただ静かに佇み、動く偉人の像のように、どこか侵しがたい雰囲気を放っていた。
淡い青に染まった重装鎧をまとい、まるで夏の蒼天のような輝く騎士そのものだった。
白と青が交錯する胸甲と肩甲が調和し、元々高身長な体をさらに堂々と見せた。剣鞘からほのかに光る聖剣は白金の籠手に映え、近寄りがたい厳かな雰囲気を増していた。
十数キロ、二十キロの全身鎧を普段着のように着こなし、わずかな不快感も苛立ちも見せなかった。
こんな炎天下でそんな装備を着ていられるなんて、アヴァロンの精神力はどれほど強いんだ。
でもさ――やっぱり、勇者ってめっちゃかっこいいな。太陽の下で輝く勇者を見て、僕も思わず見惚れてしまった。
アヴァロンの馬車が広場を一周し、南区へ向けて去るまで、僕はようやく視線を外した。
まずい、これ以上見てたら興奮しすぎて眠れなくなる。よし、もう十分見たし、場所を譲って退こう――
『%(#*@^(:{#!』
「……何?」僕は思わず足を止めた。
『&$^&*(&!#?[^&!』「ッ――!」
虚空から突然雑音が響き、僕の脳裏を直撃した。
ブーンという耳鳴りが体内で響き、鋭い高周波が鼓膜を突き刺すようだった。全身に鳥肌が立ち、背筋が凍るように冷たくなった。
全身の筋肉が硬直し、世界が遠ざかっていく。額に電流が走るような痛みが脳内で暴れ、触れるものすべてを焼き尽くす。
その一瞬、僕は世界から隔絶された。
空を衝く歓声が小さくなり、針が地面に落ちる音のように消え、頭に残るのは聞き覚えのある囁き声だけだったが、どうしても捉えられない。
『ノア……#&)@)*』
「うっ……!」
再び雑音が響き、頭蓋の奥から激痛が走り、僕は苦しんで歯を食いしばり、人混みを押し分けて後ろに下がり、耳を押さえて地面に膝をついた。
何だこれ? 誰かが話しかけてる? 誰だ?
くそっ! 頭が痛い、全身の感覚が効かなくなり、深い泥沼に沈むように、風の音も炎天下の陽光も虚無に変わり、奇妙な囁き声だけが頭に響く。
そして――
『見つけた。』
押し寄せる圧倒的な圧力が襲い、心臓が一瞬止まり、呼吸が重圧で止まり、四肢が極端な緊張で硬直し、立つことすらできず、膝で苦しむ体を支えた。
本能的に、制御できない筋肉を動かし、冷たい寒気が襲う方向を見上げた。
そんなこと、しなきゃよかった。
「……まさか?」
ああ……人混みを突き抜け、アヴァロンの兜越しに、透き通る青い瞳が見えた。
「……」アヴァロンは群衆の声に応じず、左手で聖剣の鞘を握り、恐ろしい雰囲気を放っていた。
いや、これ……終わったか?
恐ろしい動悸に襲われ、僕は動けなくなり、彼の指が震え、馬車を止めるのを見ているしかなかった。
その瞬間、アヴァロンの右手が剣柄に動き、剣を抜き……抜き……聖剣の輝きが完全に見えた時、僕はその瞬間が死期だと思った――もし、あの出来事が起きなかったら。
シュッ! 勇者が動く次の瞬間、彼は雷のように振り返り、聖剣を握って驚愕の表情で西区を向いた。数秒後、馬車の随行員たちが遅れて反応し、それぞれ驚愕の表情を見せた。
その瞬間、全城に警報が響き渡った。
『全市民に告ぐ、これは訓練ではない! 現在、東西南北の門が大量の異獣に襲われている! ただちに四門から離れ、「白の居城」または他の避難所へ避難せよ!』
慌ただしい女性の声がベリナ中に響き、衝撃的な情報が皆の耳に届いた。
次の瞬間、広場中央から轟音が響き、強烈な風圧が人波を襲った。
音の方向を見ると、アヴァロンはすでに消え、馬車の残骸が怪力で壊され散らばり、残りのパレード随行員も四門へ向かって走り去った。
同時に、慌てた群衆が「白の居城」へ押し寄せ、肩や胸がぶつかり、叫び声や怒号が響いた。ベリナは未曾有の混乱に陥った。
押し合いの中、僕は地面に倒れそうになり、踏み潰されそうになった。
十分も経たず、僕は広場から「白の居城」へ続く幹道に押し出された。数キロ先の戦闘音を聞きながら、混雑の中で息をしようとした。だが……
「吼ォォォ――!」その瞬間、広場脇から恐ろしい狼の咆哮が響き、群衆の喧騒を一瞬でかき消した。
何!? 振り返ると、屋根の上に牙をむき、巨大な狼がゆっくり現れた。
「あいつ……四尾鳴狼だ!」
鋭い牙には肉片と唾液がこびりつき、赤褐色の尾が陽光で揺れ、爪は鋭利無比だった。
下級異獣四尾鳴狼は、通常森に棲み、肉と「音」を食らう。
風の音、雨の音、どんな音でも、四尾鳴狼は音叉のような尾で吸収し、生物エネルギーに変換する。一本の尾が残っていれば、傷は癒え続ける。
ここで、僕は冷や汗を流し、叫び声を上げる群衆を見た。
なあ……こんな騒がしい環境、まるで十本のステロイドを打ったようなもんじゃないか!?
シュッ! 四尾鳴狼が一瞬で数十メートル先へ跳び、一人の首を裂いた! 二匹目、三匹目の鳴狼が唸りながら屋内から現れ、群衆へ突進した!
広場に残った衛兵隊が前線に立ち、狼群と戦闘を開始した。一瞬で、のんびりした物語が恐怖と刺激に変わり、凄惨な光景に僕は吐き気を覚えた。
ダメだ……! 「白の居城(」への道が狼群に塞がれ、別の避難所へ逃げようとしたが、そこで足を止めた。
ブーンという微かな音。意識の奥に沈むように気づきにくいが、かすかな刺激を伴う。不思議と、僕の本能が危機を感じた。
次の瞬間、理由が分かった。
シュッ! 鋭い爪が空気を切り裂き、離れた四尾鳴狼が突然上空から僕の首を襲った!
僕は前転でかわしたが、着地した四尾鳴狼は迷わず再び飛びかかってきた!
街中で木々の間を飛び越え、長椅子を越え、ぎりぎり急所を避けた。音で強化された身体能力に慣れていないのか、四尾鳴狼は突進しすぎ、僕にわずかな逃走時間を与えた。
だが……ここは森じゃないし、相手は鈍重な六角突じゃない。ああ、人間が狼にどうやって勝てる?
結局、二分で全身傷だらけ、血が流れ、速度も落ちた。
『本宿は満室となっております。あしからずご了承ください。』
その瞬間、見たことのある文字が視界をよぎった。
あ……ここどこだ……? 考える力ももうない。
視界が暗くなり、頭が動かなくなった。血を流しすぎた僕は逃げ切れず、振り返ると、鋭い狼の爪が落ち、首を切り裂こうとしていた。
「くそ……!」
万事休す――か?
「気をつけろ!」「!」
突然、強烈な力が首の後ろをつかみ、十数メートル先に投げ飛ばした。間一髪、狼の爪が一ミリ未満の差で目の前を過ぎた!
「スキル……『崩拳』!」
ドン――! 幻覚かと思ったが、赤い微光が目の前で炸裂し、恐ろしい轟音とともに着地前の四尾鳴狼を地面に叩き込んだ!
バン! 来者が重く踏み込み、四尾鳴狼を深淵へ送った。
「ふぅ……」
その人は戦意を収め、拳を軽く吹き、腰に手を当てて僕の前に立った。
「大丈夫か、坊主?」
僕は呆然と彼女を見、差し出された血まみれの手をつかみ、力を借りて立ち上がった。
血が滑りすぎて、危うく転びそうになった。