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第19章 姉貴|弟

「……なんだこれ?」


 約40分後、アヴァロン宅邸にて。

 テラはソファに座り、目の前に並ぶ豪華な料理を見て、思わず目を丸くした。


「ふん、調味料は既にある香料を適当に混ぜてみただけだけど……どうだ? まあまあ見えるか?」


「まあまあ?」テラはちょっと呆れたように言った。「これのどこがまあまあだよ? お前、ホントに俺の故郷に行ったことあるのか? どうやって見た目まで再現したんだ!」


「へへ。」


 テラの故郷――アイウォス沙海にある原生動物の肉はだいたい硬くて、調味料の種類もめっちゃ多い。

 正直、僕がその場所を全く知らなかったら、ほんと変な料理になっちゃったかもしれない。

 でも、シャングリラでの経験から言うと、全体の調味スタイルはそこまで複雑じゃなくて、刺激的だけどあっさりした風味が強い。現地の植物や動物と調和するんだ。

 だから、似たような食感の獣肉を低温でじっくり煮込んで、魔法で加速させ、さわやかなハーブやスパイスを加えて、強烈だけどくどくない調味料を調合すれば……


「どうだ? 食ってみなよ?」


「うむ……」テラは信じられないって感じで料理を噛み、「めっちゃうまい! バッチリ!」


「だろ?」


 テラは興奮してこの特製料理を食べてた。たぶん、ほんと久しぶりに故郷の味を食べたんだろう、泣き出しそうな顔だった。

 その光景を見て、僕もちょっと苦笑しながら、一緒に食べ始めた。

 そんな感じで、30分かけて昼飯を食べて、僕とテラは南門の哨所に行って……いや、訪問して、頑張って働いてるエヴリンとリリアンに会いに行った。

 予想通り、哨所に着いたら、二人とも真面目に働く姿じゃなくて、髪や服を引っ張り合う戦争の真っ最中だった。

 マジで、この二人、なんでまだ副哨長のポジションにいられるんだ?


「おお! ノア~」感知能力バッチリのリリアンが先に僕を見つけて、笑いながら手を振った。


「お前、まだ死んでなかったのか――うわっ!」


「こら! このバカ! もっとひどい言い方できるだろ! あ、ノア! 久しぶり~元気? 姞貴に何か手伝えること――ぐあ!」エヴリンは立ち上がろうとしたけど、結局リリアンに体術で押さえ込まれた。


 いや、六角突と戦う時のあの凛々しい雰囲気、めっちゃいいと思うよ? マジで、普段の生活に活かしてみない?


「……行こうぜ。」「うん。」


 なんて言うか……やっぱり、どんなに美人でも、残念系は残念系だ。一度あの姿を見ちゃうと、もう二人の普通の姿なんて想像できない。

 ちょっと気まずくその頭痛い場面を後にして、僕とテラは南区をぶらぶら。哨所からゆっくり中央広場に向かって歩いた。道中、時々焼き串買ったり、喋ったり、ふざけ合ったり、まるで親友みたい――いや。

 僕らの関係、親友とはまだ言えない。冗談を言い合っても気まずくなるし、お互いにまだ知らない部分がたくさんある。

 強いて言うなら……そう、僕らはまるで姉弟だ。

 近すぎず遠すぎない親密さを持ち、距離はあるけど、知らない他人みたいに交わらないわけじゃない。

 こんな感覚、初めてだ。

 前世から今生まで、ずっと一人っ子だったから、こんな兄弟みたいな気持ち、初めて感じた。

 誰かが僕を気にかけてくれて、背後に壁があるって知ってる。崩れたり倒れたりしない壁。彼女が僕を心配して、悩んで、喜んでくれる。その感覚、めっちゃいい。

 でも、なんか変だ。

 今日、テラが屋敷の門をくぐった瞬間から、彼女、ずっと喋り続けてる。

 僕が料理してる時、飯食ってる時、こうやってベリナの賑やかな大通りを歩いてる時も、ずっと僕と絡んでる。

 なんて言うか?

 まるで……最後の時間を惜しむみたいだ。


「あ~結局、お前の誕生日祝えなかったな。」テラがちょっと残念そうに言った。


「まあ、あんなことがあったんだから仕方ないよな。」


「……だな。」テラは笑ったけど、夕陽の影が彼女の顔に落ちて、なんかいつもより深く見えた。


 僕らは歩く。


「……あ……」


 歩く。


「はは……」


 歩く。


 その瞬間、僕らは立ち止まり、廃墟の前で沈黙した。

 そう――ベリナ城内で唯一の残骸。

 凶悪な業火が木造の建物を焦がし、いろんなひび割れや破片が地面に散らばり、周囲の床は穴だらけで、わずかな大雨の水たまりが夕陽を反射してる。

 ここは鮮血が覚醒した場所であり、星塵せいじんと初めて出会った場所。

 1ヶ月経っても、大火で焼かれたウルはまだ解体されてなくて、その最もボロボロな姿のまま残ってる。

 調査のためにいつでも来れるように、かもしれないし、別の理由があるのかも。理由が何であれ、ベリナ市中心のこの傷跡は1ヶ月残ってる。

 夕暮れの色に染まり、ボロボロの姿は薄っぺらい布幕で隠されてる。よく見ると、風が吹いて幕が揺れると、隠された焦げた炭がまだ見える。

 僕の30センチ横で、テラが微かに震えてた。


「……全部、私のせいだ。」


「……テラ?」


 その景色を見て、彼女の顔が一瞬で真っ白になり、いつも高く上げてた頭がゆっくり下がり、橙色の前髪が目を隠して、どんな表情か見えなかった。

 でも、僕、ひとつわかってる。


「私、お前を守れなかった。」


 こんな表情のテラ、絶対見たくない。


「笑えるだろ……」彼女は笑った。弱々しくて、脆くて、壊れてて、無力だ。


(もし、私がもうちょっと警戒してれば……)


 テラは思わずそう考えた。

 全部自分のせいだ。守ると大口叩いたのに、いつもいつも失敗してる!

 もしノアの誕生日が近いって早く気づいてたら、成人礼を欠席させて、ウル旅館に行かせなかった。

 勇者パレードの怖い人混みをわかってたのに、白子の彼を一人で城をうろつかせ、会っちゃいけない奴らに会わせた。

 それだけじゃない……!

 彼の助けを求める声に応えられなかった。異端審判から救えなかった。彼が望む生活を与えられなかった。

 こんな自分、どんな姉貴だよ?


「……テラ?」


(ああ……私、ほんと最低だ。)テラはそう思うしかなかった。


(私、義務を果たせなかった。)


「私の存在、なんの役にも立たない。」


(彼を守れなかった。)


「私、約束を裏切った。」


(50年前と同じように。)


「私がお前を、みんなを裏切った……」テラは思わず拳を握りしめた。


 ベリナの大通りの人混みの中、時間が止まったみたいだった。

 僕とテラは静かに佇む。

 廃墟を前に、夕陽を背に。

 この瞬間、テラの声しか聞こえない。

 その瞬間、僕、初めてテラの心の闇をちゃんと見た。深くて、苦しくて、でも少しの幸せが混ざってる。


「……そんなことないよ。」僕は静かに言った。テラの心にある恐ろしい傷に正面から向き合った。


 そう。

 僕がやるべきは、その小さな幸せを陽の光に晒すことだけだ。

 彼女、めっちゃ苦しんでる。親しい人を失ったか、別の理由か。

 テラはずっと代わりを探してた。傷ついた心を埋めるために、僕を守ることで、守れなかった誰かへの後悔を償おうとした。でも、彼女、その行為がまた傷を裂くなんて思わなかっただろう。

 僕を守る約束が破られ、「姉貴」の義務を果たせなかった時、彼女、きっと一度崩壊した。

 でも……そんなことない。


「私の守護も、約束も、僕にはいらないよ。」


 僕は微笑んで、彼女を見た。


「時々、弟として必要なのは、背後に立って支えてくれる壁だけでいいんだ。」


 そう。

 お前、僕の前に立って何かを防ぐ必要ない。全部の傷を代わりに受ける必要もない。

 僕の背後にいてくれればいい。

 背後に、静かに立って、僕の身体を、僕の心を支えてくれ。

 お前がいるから、どんな重荷が僕にのしかかっても、背後にお前が守っててくれるってわかる。崩れないし、諦めない。だって、諦めたら、その重荷がお前に倒れるから。

 だから、最後まで、僕、お前の前で立つ。それが姉貴の存在の意味で、弟が倒れない証だ。

 それに――


「だって、僕、最初からお前を姉貴だと思ってたよ?」


「!」


 お前は僕の姉貴、僕はお前の弟。

 親友より遠くて、それより親密な関係。


「だからさ、あんまり心配すんなよ。」僕は軽く笑った。


「それに、僕、勇者になる男だぞ? 守られてばっかのガキじゃないんだ。前のこと、気にするなって!」


 テラは口を開いたけど、言葉が喉まで出てこず、ただその場で僕をじっと見て、目がちょっと潤んでた。

 どれだけ時間が経ったんだ? 僕ら、言葉もなく見つめ合って、ただ見つめ合って……いや、マジで、僕、なんか間違えたか? なんで彼女、ずっと喋らないんだ……


「えっと……時間も遅いし、送ってくか?」沈黙を破るため、ちょっと迷いながら提案した。


「……いいよ。」


 テラは微笑んだ。

 浅いけど、どの瞬間よりも輝いてた。


「私、大丈夫だ! お前、早く帰れよ。あと1週間で勇者選定だろ? もっと頑張れよ。」


「それ、言わなくていいって……」僕は手を振って、テラの母ちゃん……いや、姉貴みたいな説教を振り払った。


「……ホントに大丈夫か?」


「うん!」テラは歯を見せて笑った。「じゃ、またな!」


 そう言うと、テラは僕の返事を待たず、大通りの反対側に歩いて行った。呆然と立ち尽くす僕、彼女の背中を見送った。


「はあ……」


 人を慰めるの、こんな難しいことだったのか?


「でも……姉貴が背後で支えてくれるの、悪くないな。」


 結局、僕、苦笑して、ゆっくりアヴァロン宅邸に帰った。

 今日、いろんなことがあったけど、この貴重な休日、ようやく一段落した。

 今日から……物語はまた前に進む。


 ***


『だって、僕、最初からお前を姉貴だと思ってたよ?』


 真っ赤な夕陽が赤い影を照らし、彼女は道を軽快に駆けて、脳内でそのめっちゃ綺麗な言葉を反芻してた。


『だって、僕、最初からお前を姉貴だと思ってたよ?』


 そう……私、彼の姉貴だ。


『だって、僕、最初からお前を姉貴だと思ってたよ?』


 そう……彼はもう、私たちの関係を認めてくれた。


『だって、僕、最初からお前を姉貴だと思ってたよ?』


 私、彼を守らなきゃいけない。彼に傷をつけちゃいけない。私――


『お前の守護も、約束も、僕にはいらないよ。』その瞬間、その言葉が脳裏をよぎり、彼女の足が止まった。


 いや……そうじゃない。


 彼の言う通り、本当の姉貴は、全部の傷を防ぐ必要も、どんな約束もする必要もないかもしれない。

 本当の姉貴は、ただそこにいるだけで、弟を守れるかもしれない。


 でも――そんな支え方、私が欲しいものじゃない。

 私、彼の後ろ盾になるだけじゃなく、彼の前に立って、すべての苦しみや試練を代わりに受け、全部の耐えられないことを背負いたい。

 だって……私、彼の姉貴だから。


 ゆっくり、彼女の爪が肉に食い込み、口角が抑えきれず歪んで上がった。

 ああ、関係が確定し、感情が認められ、醜い依存が執着に変わった時――


「どんな代償を払っても、お前を守る。」


 そう。


 テラはちょっと歪んだ笑みを浮かべた。


 勇者が来ようと、テラは恐れない。

 どんなことがあっても、ノアに何かさせない。どんなものを犠牲にしても。


 この日は浅黄の月22日、勇者選定まであと10日。

 同じ頃、数千キロ離れたガイア聖国。


「皆、準備はいいな。」


 男は純白の兜をかぶり、目の前に整列する71人に命令を出した。

 今回、彼らは数千キロ離れたアレシ王国に行き、勇者選定儀式の円滑な開催を担当する。過程でいろんな困難があるだろうけど……男は、皆、準備ができてると信じてた。

 横に掲げられた、大きな塔盾と聖剣の旗を見て、彼は兜の中で恐れを知らない笑みを浮かべた。

 自分の剣と盾で、すべてを守る。

 それが、灯火を追う聖騎士の務めだ。


「ガイア聖国第六聖騎士団『プロスタティス』――出発。」

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