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第12章 異端審判

「ノア・ベレスク。まだ何か弁明することはあるか?」


 低く響く声が裁判所全体に響き渡り、僕はわずかに冷や汗を流した。


「その、僕はその時、意識がなくて……」


 高い壁には美しいステンドグラスが並び、暖かな陽光が宙に舞う埃を照らし、鮮やかな光の筋を織りなしていた。天井のリブヴォールトには宝石が埋め込まれ、シャングリラ全体よりも高価な輝きが吊り下がっていた。


 聖教会の司法最高殿堂として、今の宗教裁判所はまさに荘厳で厳粛、すべての場所に神聖な気配が漂っていた。


「現場にいた二十八名の市民が証言している。君は正気だった。」


 もちろん、無罪の者にとっての話だ。


「でも……」


「つまり、君は『意識を失った』状態で火を放ち、四人を殺し、その後勇者と戦ったと? もしそうなら、君はさらに危険な存在だな。」


「……」くそっ。


 相手は数秒待ったが、僕が答える気がないと見ると、静かにため息をつき、再び口を開いた。


「では、正式に判決を下す前に、改めて罪状を告知する。」


 高い審判席に座る五人の裁判官は、白い西洋風の法服をまとい、純金製の法槌を握って僕を見下ろしていた。


 中央の女裁判長は五十歳を超えた風貌で、浅黒い肌をしていた。他の裁判官たちは静かに座り、言葉を発しなかった。


 裁判所の二階、三階には好奇心旺盛な貴族の婦人たちがひしめき、聖教会関係者や王族関係者の姿も見られた。


 教会の一角には、表情の険しいテイラがいた。少し怖い顔だったが、彼女が僕を心配しているのは分かった。それだけが唯一の慰めだった。


 ドン――! 法槌の音が裁判所全体に響き渡り、ざわめいていた群衆もその厳粛な空気に静まり返った。無数の視線が僕に突き刺さり、全身がかゆくなるようだった。


「罪状その一、被告ベレスクは王国に固有スキルの登録をせず、無断で使用し、四人を殺害した。」


 覚醒したばかりのスキルなのに。どう考えても正当防衛だろ!


「罪状その二、民間の宿舎に無断で放火し、建造物と財産を大きく損壊した。」


 ……これも正当防衛だ(本当だ)。


「罪状その三、人類を守る勇者に刃を向け、南区で戦火を起こした。大不敬の罪にあたる。」


 ……これは正当防……いや、いい。なかったことにしてくれ。


「はあ……」


 裁判長アイリーン女史は、鉄鎖で縛られた僕を中央の台で見つめ、複雑な表情を浮かべた。


「正直、ノア。最初の二つの罪状はさておき、勇者に手を出した時点で死刑は免れない。」


「……」僕は黙っていた。


「君が教会や勇者の立場、この事件が我々にどれほどの影響を与えるか分かっていないのは理解できる。だが、平民が勇者を攻撃し、しかも生き延びた。無事だったんだぞ。それが他の強者たちに知られたら、どうなると思う?」


「一年どころか、一か月もしないうちに、数百もの戦士が『対戦』を求めて勇者に殺到する。教会の権威も地に落ちる。だから、君に重い刑を科さざるを得ない。貴族や市民にも説明がつかないんだ。」


 アイリーン女史は言葉を選ぶように一瞬口を止めた。


「だが……灯火は導くためのもので、罰するためのものではない。成人したばかりの子供に死刑を下すのはあまりにも残酷だ。ウル旅館での君の被害を考慮し、できる限りの減刑を試みた。」


 彼女と目が合った。


「最終的に、本裁判所はベレスク・ノアに対し、聖国地下の特別収容所への二十年禁錮刑を言い渡す。アレシ王国の王に通達の上、今後……」


 正直、それ以降のアイリーン女史の言葉は、まったく頭に入らなかった。


 静かに息を吐いた。


 ……ああ、これが最良の結末なのかもしれない。


 両手は背後で厳重に鎖で縛られ、弱った体は少し窪んだ審判台に座り込んでいた。裁判所全体から注がれる敵意の視線を感じる。


「愚かな平民の男が、勇者アヴァロンに手を出したなんて」――軽蔑。


「恐ろしい奴。一度に四人も殺すなんて。こんな奴は即刻処刑すべきよ」――恐怖。


「まあ、あの顔とコレクション価値は惜しいけどね」――垂涎。


 囁き声が耳に入り、アイリーン女史の低く響く判決の声と一緒に、頭の中でぐるぐる回っていた。


 ……ここまで、か?


 数秒の間だった。考え込んでいた僕は、ふと違和感を覚え、審判席を見上げた。


 五人の裁判官が一斉に動きを止め、周囲も奇妙な静寂に包まれていた。


 僕は中央の床に跪き、鉄柱に鎖で繋がれていた。背後で何が起きているのか、気づかなかった。


 振り返ろうとした瞬間、背中に手が置かれ、無理やり前を向かされた。


 冷たく硬い感触の手……金属の手甲を着けた、だが驚くほど優しい手だった。


「……?」


 その瞬間、頭に無数の思考が駆け巡った。ゆっくりと顔を上げ、背後の人物を確認しようとした。


 だが……


「……え?」


 まさか、この人物だとは。


「久しぶりだな、ベレスク・ノア。今回は俺を殺しに来たか?」


 冗談めいた言葉だったが、穏やかな声には、冗談か本気か分からない響きが混ざっていた。


「敬愛するアイリーン女史。審問を中断して申し訳ないが、この審問について――」


 天色の鎧はなおも輝き、この瞬間、アヴァロンはまるでアニメの姫を救う勇者のように僕の前に現れた。


「俺は、異議を唱える。」


 兜の下で微笑んでいる気がした。


「何とおっしゃいました……?」


 アイリーン女史は、自らの勇者がこんな場面で現れるとは予想だにせず、口を開けたまま呆然としていた。


「心配無用だ。審判団の判決には何の異論もない。この難しい状況で、二十年の禁錮刑は最善の判断だ。」


「では、なぜ……?」


「まあ、言った通りだ。『この状況下』での話だ。そもそも、第三の罪状は成立していない。」


「第三の……?」


 記憶を辿り、アヴァロンが何の罪を指しているかすぐに分かった。


「平民が勇者を攻撃した……大不敬の罪、ですね?」アイリーン女史が言った。


「その通り。」


「しかし、二十八人の目撃者がいたのです! どうして成立しないなどと……」


「法律は厳格だ。」アヴァロンが口を開く。「大不敬の罪の第一条件は、『平民』が『勇者』を攻撃すること。だが、この子がもはや平民でなければ、話は変わる。」


「……!」


 アイリーン女史の顔が一瞬で青ざめ、次に不気味なほど蒼白になった。まるで信じられない話を聞いたかのようだった。


「信じられないなら……この聖剣に語らせよう。」


 その瞬間、静かだった聖剣が眩い光を放ち、白い輝きが裁判所に満ちた。七色の聖光が差し込み、アヴァロンの鎧に美しい輝きを添えた。


 次の瞬間、異変が起きた。


 僕を含め、教会内の全員が感じた。女神の力に満ちた白い光が僕の周りに集まる時――


 それがどれほど神聖で、唯一無二で、勇者だけが持つ純粋な力であるかを。


「彼が……『認可』を得た?」


 アイリーンの口から漏れたのは、かすかな囁きだった。


「そうだ。」


 アヴァロンは手甲を外し、剣繭に覆われた手で僕の頭を軽く撫でた。


「まだ半分だがな……」アヴァロンは微笑んだ。


「ベレスク・ノアは、世界初の――男性勇者となる!」


 ***


 ――時は遡る。


 天賜暦739年、深紅の月28日未明。約三日前。


「ふぅ……」


 勇者アヴァロンは、暴走したベレスク・ノアを鎮圧した。


(こんな厄介な相手は初めてだ……)


 アヴァロンは珍しくそう認めざるを得なかった。


 戦いの目的は、ノアを命に関わらない程度に抑え、城に連れ帰ることだった。


 だが予想外に、ウル旅館に到着してからノアを倒すまで、二十分近くかかった。普段の五倍だ。相手は戦士ですらないのに。


 考え込むアヴァロン。


 おそらく、突然発動した「狂化きょうか」スキルが原因で、ノアは理性を失い、完全に暴走したのだろう。


 狂化――その名の通り、持ち主の最も暴戾な感情を引き出し、獣のように本能で戦わせる。


 使用者は身体の防御本能を解除し、自らを破壊する勢いで戦い、常人を遥かに超える戦闘本能を得る。

 この現象はノアで特に顕著だった。何度も予想外の攻撃を繰り出し、一時はアヴァロン自身が危機に陥った。


 特に厄介だったのは、彼の「死を恐れない」戦法。

 ノアの命を傷つけないよう、アヴァロンは力を極力抑えていた。だが、ノアはそれを逆手に取り、一切防御せず、肉体能力だけで接近戦に持ち込んだ。

 戦いの最後、ノアは重傷を負い、蒼白で今にも倒れそうな状態だった。


 それでも、彼の速度と力は衰えず――いや、むしろ強まっていた。普通の衛兵なら、すでに敗れていたかもしれない。


 この力は、まさに……


『勇者アヴァロン。』


 ノアを完全に制圧し、意識を失わせた瞬間、聖剣から女性の声が響き、アヴァロンは動きを止めた。


「……女神……!」


『手短に話す。』


「燈火の女神」の声が余韻を帯びて脳に響く。アヴァロンは数十の思考を巡らせたが、女神の次の言葉は予想できなかった。


『どうか、この子を救ってくれ。』


「……!」


 七年――

 勇者となって七年、一度も女神の声を聞いたことがなかった。なのに、その最初の言葉が、見ず知らずの少年を救えというものだった。


「なぜ……? なぜ彼なのです? なぜ、この子にそこまで……?」


『……私は彼に多くの借りがある。』


 女神は一瞬言葉を切り、続けた。


『そして――十四年前、彼はすでに私の「認可」を得ていた。』


「……」


 アヴァロンは深く息を吐き、意識を審問の場に戻した。

 裁判所は奇妙な静寂に包まれ、跪いたノアは眉をひそめ、口を半開きにして呆然としていた。

 ――無理もない。アヴァロンは思う。王国の辺境で育った少年には、知らないことが多すぎる。


「この件は、教皇様や大司教様に相談しなければ……」


「心配はいらない。教国にはすでに俺から連絡済みだ。この審問で伝えたかったのはただ一つ――この子は、俺が守る。」


 その瞬間、アヴァロンの兜の下の鋭い視線が貴族たちを一掃し、数人が思わず唾を飲んだ。


「……」


 アイリーンの表情は依然として険しかったが、ついに全体に指示を出した。


「ならば……勇者となるための手続きはご存知ですね?」


「もちろんだ。一か月の期限だ。それまでに、このガキを鍛え上げ、『選定の儀』に参加できるようにする。」


「ふぅ……」


 アイリーンは大きくため息をついた。


「分かりました。それでいいでしょう。」


「感謝する。」


 アヴァロンはそう言い、ノアを縛る鉄鎖を力で引きちぎり、片腕で肩に担いだ。


「心配するな。食ったりしない。」


 アヴァロンは笑い、肩でもがくノアを感じながら、裁判所を後にし、光の差し込む扉の外へ歩み出した。


「な、どこに行くんだ……?」


「『天時堂』だ。」アヴァロンは簡潔に答えた。「戦いの後、お前の力には気になる点が多い。どんなスキルを持ってるのか、興味がある。」


「……スキル?」


「……お前、それ知ってるか?」


 肩に担がれたノアは弱々しく首を振った。


「はあ……まあいい。今から説明してやるよ。」


 アヴァロンはため息をついた。

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