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月色の瞳の乙女  作者: 蜜柑桜
第十二章 憂い接吻
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(三)

 長かったのか、それとも一瞬だったのか。

 塞がれていた唇が静かに、ゆっくりと解放され、次に肌に触れるのは、熱を帯びた吐息。

「拒みは、しないんだな」

 無音を破る囁きが、間近で鼓膜を震わす。

「拒む隙が、どこにあった」

 呼吸の微かな音と心音と、相手のものなのか自分のものなのか、密になって混ざり合い、区別がつかない。

 目の前にある碧い瞳に自分の顔が映る。深い色の中に読み取れぬ感情を秘めて、向き合う自分の奥の奥までを見通すような。

 そうしていたのも、どれほどの時間だったのか。

「……ごめん」

 頬に当てられていた熱が、すっと離れた。

 入り乱れていた吐息と鼓動がほどけて分かれる。そのうちの片方だけ、自分の元に残った。

 背の高い後ろ姿の向こうで木戸が開き、隙間から風が入り込んだ。途端、止まっていた室内の気が動き出す。

 床板の立てる音は次第に遠ざかり、やがて耳慣れた扉の音を境に、絶えて聞こえなくなった。

 無意識に、唇に手が行く。触れた自分の指先が、いやに冷たい。

 

 綺麗だと思った。

 

 夕陽に濃くなる黄瑪瑙の髪と肌。こちらを捉えた碧い瞳。優しく、そっと頬を包み込む、大きな手のひら。

 そして、ゆっくりと近づく、熱い息遣い。

 拒む隙はあった。あったけれど――

「拒む理由が……どこに……」

 寝台を次第に染め上げていく橙色が、目に痛い。

 顔に押し当てた布団は、さっきまで十分柔らかで温かかったはずなのに。

 ――謝らないで……欲しかった……

 初めて触れた優しい温もりはもう、遠く離れて届かない。

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