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(六)
「私のような女一人を引き換えに、カタピエ公に弄ばれ泣かされる公女が絶えるというなら」
「寂しい言い方をするな。こんなことが自分に起こるなど思っても見なかった。嗤うだろうか……今は、貴女を失うのが最も恐ろしい」
娘の顎にそっと触れ、面を上げさせる。華奢な身体が微かに反応したのが分かったが、突き放されはしなかった。顔を逸らされることもない。自分が見つめるのを受け止め、見つめ返す眼が間近にある。意思が強く理知的なのがよく分かる、思慮深さを湛えた瞳だ。
艶やかに流れる髪を恐る恐る撫でれば、拒まれることなく指の間を髪が滑っていった。こちらに向いた顔は動かない――もう信じても良いのだろうか。
メリーノは白く柔らかな頬をそっと包み込んだ。銀に光る娘の瞳が僅かに笑みの形を作るのを愛おしみ、ゆっくりと唇を重ねる。
淡い桜色の唇が、微かに震えた。
甘やかな香りが多幸感と溶け合い身の内に満ちていく。
雲間から姿を現した月が、静寂の満ちた部屋の床に白く線を引く。




